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戦争の真実

「魔王は戦争を始めた……最初は優勢だったが、指揮官の少なさという弱点を突かれやがて戦局は拮抗、不利となっていった……だから魔王は、賭けに出ることにした」

「それが、英雄アレス達との最終決戦……」


 俺が告げると、シュウは微笑を浮かべ頷き返した。


「彼女は英雄を殺せば確実に勝機があると思った。そして勝負に出て……英雄アレスが、魔王を打ち破った」

「そこで倒されたわけではなかったんだな」

「……ここからは、英雄アレスがどうなったかを語ることにしよう。私やリデス。そしてザンウィスはアレスと共に魔王と戦い、勝った……だが、魔王を滅ぼしたと断定できるような結末ではなかった」


 ――魔王との戦い。これは今までシュウも語らなかった点であり、今初めて明かされる。


「アレスが最後の一撃を加えた瞬間、魔王は光となって消えた。私は勝ったと思ったが、斬った感触でまだ決着がついていないとアレスは考えたのか、周囲の様子を見に行くと言い出した。だが、リデスとザンウィスは怪我で動けず、私はその二人を治療しなければならず、結果的にアレスを単独行動させる結果となった。そして」


 シュウは一度俯き、言う。


「アレスは見つけた……女性の姿をした魔王を」

「そこで、どうしたんだ?」

「アレスも気配から魔王なのだと察したらしい。だが、悲しみに暮れる人間的な表情を見て、剣を咄嗟に止めた。そして魔王に戦意が無いことを理解し、なぜ戦争を起こしたのか理由を問い、彼女は答えた」


 ……アレスにとって衝撃的なものだっただろうと、容易に想像できる。


「そして彼女は、殺してくれと英雄アレスに懇願した。彼女はアレス達と戦っていく内に、後悔だけが渦巻くようになったらしい。人間によって最愛の人達が殺された。だが、今目の前で戦っている者達には罪はない。そして、同胞である魔族達も巻き込んでしまった。だから、自身が滅ぶしか償う方法はない……そう語った」

「英雄アレスは、どう答えたんだ?」

「まず質問をした。人間をどう考えているか。彼女は以前のように信じ切ることはできなくなった。けれど、完全に憎むこともできないと。だからアレスは告げた。魔王がいなくなった後、世界は平和になるだろうが混乱は続く。人間をまだ愛しているのなら、償う意味でこの世界も魔界に対しても尽くせと」

「そして……ティルデさんは」

「そう。君が告げている通りティルデと名乗り、復興に尽力するようになった。そして、魔界に対しても色々と配慮した。今はもう滅んでしまったが、彼女が存命であると知っていた魔族もいたらしい。そうした者を介し、魔族の方も立て直しを図った……その中で、アルーゼンは現れたらしいが」

「奴は、ティルデさんを妨害するような存在だったと?」

「アルーゼン自身は、おそらく城に踏み込んだ当時ティルヴァデインが生きていたことについては認知していなかっただろう……彼女は彼女の野心により動いた。結果的に妨害するような形になった、ということかもしれない」


 ……アルーゼンは決戦の前に、俺達に質問をした。英雄アレスに子がいたのかどうか。それがどういう意図なのかわからなかったが、もしかすると彼女なりに先代魔王が生きていたことに気付き、なおかつアレスと結ばれたという推測を行っていたのだろうか……そうであれば、子を産んだという情報は彼女の推測を補強する意味合いがあったのかもしれない。


「そして戦争の復興に努めていた時、アレスとティルデは結ばれた。その辺りの経緯は私も深くは聞いていない。だが、アレスにとっても宿敵であった魔王と……となれば彼女の罪を共に背負う覚悟だったのだと思う」


 そこでシュウは、俺を指差した……いや、正確に言うと俺が持つ聖剣を指示した。現在それは気を失っていたためか、誰かが鞘に収めたのだが――


「罪を背負う……その根拠となるのが、聖剣だ」

「何?」

「なぜ魔族が生み出した遺跡にあったのか……疑問に思わなかったか?」


 ――確かに、と俺は思った。聖剣護衛の時、首を傾げたのは事実。


「アレスは、自身がティルヴァデインに対し敵意が無いことを証明するため、彼女主導で剣を封印したんだ。まあ、アルーゼンの存在もあったため、何かの魔法ですぐに見つかるように色々と調整はされていたんだとは思う。実際、遺跡に眠っていた聖剣は罠など存在していたが、それほど厳重だったというわけでもなかったそうだから」

「けれど、鞘は……」

「英雄アレスは、再び魔族との戦いが始まる時に備え、放浪し様々な人に剣を指導した……鞘を残したのは、それを利用して試練を用意し素質ある者を見つける気だったのだろう……そしてそれは、英雄ザンウィスとの勇者の試練で実現した」


 彼は、さらなる戦いがあることを危惧し活動していたということなのか……いや、この場合は別の意図もあったはず。


「……もしかして、ティルデさんが暴走などした時に備え、という可能性を?」

「そういう懸念があったのは事実だっただろう。結局のところ、アレスが深層心理の中でどう考えていたのかまではわからない。私はただ事実として、アレスは聖剣を封印し、魔王と共にいるという選択をしたと言っているだけだ」


 そこまで述べたシュウは、一度玉座の間をぐるりと見回した。


「……さて、続きを話そう。両者は結ばれ、とうとう子供……娘も生まれた。名をエルザ。そして同時にアレスはティルヴァデインの住む屋敷で子供に剣を教えるようになった」

「それが、俺と――」

「僕だ」


 ラキが言う。さらにシュウが続ける。


「二人に、アレスは可能性を見出したということなのだろう……そして、アレスはこうも考えたはずだ。娘のエルザは、魔王の血を引いている――レンやラキと共に過ごせば人間として平穏に暮らしていけるだろう。けれど、ティルヴァデインのような惨劇もある。それを止めるため――」

「俺達に、魔王を滅する剣を教えたと?」

「そうだ……より正確に言えば、君一人にだが」


 一人……そこで今度は、ラキが語り始めた。


「僕には素質がなかった……アレスさんはきっと、得手不得手があることを僕らに教えていて気付いたんだと思う」

「なるほど、な……つまり俺は」


 一拍置いて、俺はラキ達に告げる。


「勇者レンは……暴走するかもしれないエルザを抑えるために、剣を教えられていたということか」

「加え、ティルデさんから魔法も教わっていたんだよ……アレスさんが見込んだ以上、彼女もまた教えなければと思ったんだろう」


 ――そういえば、ラキは明確に魔法のようなものを使用したことがなかった。これは、レンだけが教わっていたということなのだろう。


「――そうした平穏が、あの戦争後続いた」


 シュウが再び、語り始める。


「アレスも旅に出続けてはいたが、この平穏な村や復興する町や村を見て、やがて自分の行為も必要ないのではと思い始めたらしい。それに、レンやラキもいる……エルザのことだって、信じてもいいのではないか――そう思っていた」


 シュウが僅かに遠い目となる――そうした思いが崩れるきっかけがあった。


「しかし運命はそれを許さなかった……アレス達にとって思わぬ形で、そうした平穏が破られることとなった」


 俺にも理解できた。けれど黙したままシュウを見据え、やがて、


「それが……魔王ティルヴァデインの衰弱だった」


 その言葉に、俺はやはりかと思う。

 生じる静寂。戦士達が武器を構えながらもシュウの演説を待つように黙し――やがて彼は、続きを話し始めた。


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