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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
魔王城決戦編

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魔王の反撃

 俺が突撃すると共に、ルルーナやイーヴァが続く。二人は徹底してサポートに回る気だろう。とはいえもし俺が危なくなったら庇う気でいるのは間違いない。そこで下手をすると二人のどちらかが……それが最大のリスクではあったが、二人が放った先ほどの言葉を信じ、疾駆する。


 アルーゼンは剣を構え、俺に応じる気配を見せる。対するこちらは全力の一撃を決めるべく、刀身に俺の持てる全てを収束させる。

 そして上段から、剣を一閃した。アルーゼンはそれを真正面から受ける気配――漆黒の剣で受け切れると思っているのだろう。


 その予想は、おそらく当たっている――思いながらも俺は突撃を敢行した。真正面から魔王とぶつかり合い、聖剣と漆黒の剣が激突する。

 最初、ほんの少しだが俺の剣がアルーゼンを押し込んだ。だが、それはもしかすると単なる演技だったのかもしれない。


 けれど俺は構わずさらに剣を押し込む。アルーゼンの描いたシナリオに乗った形。勢いよく俺の剣が押し込まれ――アルーゼンは、多少表情を変えた。


「中々ですが……」


 魔王は告げると、一度剣を弾いた。俺は踏ん張りが効かず僅かにたじろぐ。


「それでも届きませんよ」


 おそらく内に眠る魔力の差により、まだまだ余裕で弾いているのでは――と、俺は思う。

 ただ、これは予想の範囲内……俺は構わず仕掛けた。するとアルーゼンは威嚇のためかこちらへ剣を向ける。それは明らかに牽制的なもので、こちらを殺傷するような意図がないのは明らかだった。


 これだ――俺は内心思いながらさらに足に力を入れた。直後、一気に前進。アルーゼンへ突き進む。

 それは傍から見たら間違いなく無謀とも取れる行為だった――けど、アルーゼンの振りから考えれば間違いなく避けられると判断し、動いた。


 すると初めてアルーゼンの瞳が僅かに揺らいだ――変化は微かなものであったため注視しなければ気付くレベルではない。けれど、俺は見逃さなかった。

 同時にルルーナやイーヴァが後方から援護すべく動くのが気配でわかる。その間に俺は牽制的な意味合いで放った斬撃を避け、彼女の体に剣戟を打ち込もうと斬撃を放つ。


「――捨て身ですか。しかし」


 そこでアルーゼンは理解したような声音を吐き、


「無意味ですね」


 切り捨てるように告げると、黒き剣を引き戻し刃が届く前に俺の剣を押し留めた。


「くっ……!」


 ここで俺は賭けに負けた、という表情をする。演技であり、バレないか少し不安になったのだが――アルーゼンは、こちらに満面の笑みで口を開いた。


「残念でしたね。意表を突いたつもりでしょうけど……失敗したようです」


 アルーゼンが言う。俺は後退し距離を置くと、ルルーナから発言が飛んできた。


「危険すぎるぞ……大丈夫か?」

「ああ。攻撃は食らっていない」


 そして同時に、一つ有益な情報を得ることに成功した……それを前提として、俺はどう動くかを考える。

 とはいえ、先ほどの行動を怪しまれないように……こちらが魔王の計略を推測していることを悟られないよう、一つ呟いておく。


「剣の動きが遅かったから、今しかないと思ったんだが……」

「残念でしたね。多少驚きましたが、私にとっては避けることは造作もないことです」


 悠然と語るアルーゼン。よし、こちらの目的については気付いていない様子だ。

 とはいえ、これでまだ半分だ。残り半分……推測を利用して一撃加えるための方策を考えなければならない。


 先ほどの動き、俺は間違いなく全力。それに対してもアルーゼンは平然と応じて見せた。となれば多少なりとも動きを鈍らせ、剣を引きもどす動作をさせない内に斬撃を当てるしかないが……そんな方法があるのかどうか。


 現状、ルルーナやイーヴァの援護もほとんど役に立っていない。というより、アルーゼンの圧倒的な力を前に俺と同様打ち込む隙が見いだせないという感じだろうか。攻撃を食らえば一撃で死んでしまうような状況であり、全力の一撃が通用しないとくれば……二人ですら攻めあぐねるのは仕方がない。


「さて、勇者レンの無謀な行動でも私を倒すことができなかった……次は、どうしますか?」


 ここに至り、圧倒的優位を誇示するアルーゼン。とはいえ自ら仕掛けてくる様子はない。

 ルルーナやイーヴァは何も言わず剣を構えているが……それでも、もしかしたら魔王のずいぶんと悠長でなおかつ迎え撃つ体勢を維持していることに疑問を感じているかもしれない……いや、例えばルルーナなら長期戦に持ち込む気なのでは、などと考えているかもしれない。


 相変わらずアルーゼンはニコニコとしているが……俺は後方にいるリミナやフィクハの気配を探る。まだ余力はありそうだが、それでもこのまま膠着するのはあまりにまずい。

 さて、ここからどうするか……考えながら俺はゆっくりと呼吸をした。その時、


「早くも、追い込まれたという感じでしょうか」


 アルーゼンが、水を向けてくる。


「こちらとしても長期戦は望むところ……というより私の目論見通の良い展開ですが……これも多少ながらリスクがあるのも事実」

「リスク、だと?」


 聞き返すと、アルーゼンは「ええ」と応じる。


「あなた方が、よからぬことを考えるかもしれない、ということですよ……人間の思考能力は侮るべきではない。今はまったく手が無くとも、時間が経てば策を考えるかもしれない」


 俺の考えに気付いた……というのとは、少し違うだろう。『領域』を封じられながらも自身の土俵であるため余裕の態度を崩していないアルーゼンだが、やはり根っこは警戒しているらしい。

 この変化は吉と出るか凶と出るか……それでも静観していると、アルーゼンは微笑んだ。


「ふむ、こちらも少しばかり手を変えるべきでしょうか」

「……気を付けろ、レン」


 ルルーナが言う。言われなくともと胸中呟きつつ、無言で剣を握り直す。


「よし、ではこうしましょうか」


 アルーゼンが結論を出す。次いで、


「思考能力を、奪うことにしましょう」


 何……? 何をする気かと疑問に思った瞬間、アルーゼンが初めて攻勢に出た。

 まっすぐ俺へと直進してくる。先ほどまでの戦いで力比べでは勝てないとわかっていたので、俺は後退しつつ剣に魔力を込め備える。


 ルルーナとイーヴァがまったく同時に、俺を守るべく前に出た。するとアルーゼンの気配が変わる。まるで、獲物が罠にかかってくれたと言わんばかりの、喜悦を含んだ気配。

 もしや、二人を――そう察し俺は慌てて後退する足を止めようとした。だが、一歩遅い。


「――これで」


 アルーゼンが剣を薙ぐ。ルルーナとイーヴァはどうにか受け流すことに成功したが、後ろに下がらざるを得ない状況に陥る。


「終わりですよ」


 不吉な宣告。さらにアルーゼンは剣を振る。左右の剣でルルーナとイーヴァ二人を同時に相手にしている。

 俺は援護に向かいたいところだったが、足を前に出した瞬間には戦いは佳境を迎えていた。ルルーナとイーヴァはアルーゼンの剣をどうにか防ぐことで精一杯。なおかつその速度は恐ろしく、鋭いのがわかる。


 俺は心の底からまずいと断じ、二人を助けるべく動こうとした。しかし、


「ここまで堪えた事、私としては称賛に値します」


 アルーゼンが告げる――直後、漆黒の剣がまったく同時にルルーナとイーヴァを捉えるべく、襲い掛かった。


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