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自覚する彼女

 アキの目の前に現れた男性……一瞬家族か誰かかと思い人相を確認し、


「家で待っててくれても良かったのに」


 彼女が声を発したと同時に――俺は、目を見開いた。


「そうもいかないさ。最近物騒だからな」

「毎回そうやって言っているよね」


 ――彼女の目の前にいる男性。俺には見覚えがあった。他の仲間達も店を出て……そして、絶句する。


「な……」


 リミナの声。それと共に、俺は目の前の男性を見据える。

 スーツ姿ではあった。けれど紛れもなく――レックスだった。


 元の世界でいるはずのない人物。だが俺は理解した。こういうことができるのが幻術世界であり、アキはこうやって元の世界に戻り、彼と平穏な暮らしがしたかったのだ。


「なるほど、ね」


 セシルはどこか嘆息に近い息を吐きながら、呟いて見せる。


「レックスと……か。僕らはてっきり元の世界に戻ることが願いだと思っていたけど、そうではなかったようだ」

「みたいだな……」


 目を凝らせば、彼に魔力が宿っているのが明白だった。

 正直、アキの目から見てもこれは異常な光景だろう。俺だって幻術に取り込まれた時、鍵となる聖剣について違和感を覚えた。アキの場合は、その鍵が人間だ……変に思わないはずがない。


 けれど、嬉々として話すアキは気付いた様子がない……いや、これは――


「どうする?」


 ルルーナが問う。俺は彼女を一瞥した後、


「……少し、様子を見よう」


 俺の提言に従い、全員が静観の構えを取る。やがてアキ達は二人して歩き出す。方向がまったく同じなので、同棲でもしているのだろう。

 辿り着いたのはアパート。新しめの場所で、アキ達に申し訳なかったが部屋に入ると、2DKかつトイレ風呂別の小奇麗な部屋だった。


 二人とも仕事をしているので家賃とかは折半なんだろう……などと思い見ていると、キッチンにあるテーブルに座りアキが食事を始めた。

 一方のレックスはアキの買った弁当を食べる前にお茶を淹れる。その光景が異様に思えて仕方がない。


「今日は割とすんなり帰ることができたようだな」

「まあ、ね。トラブルもなくって感じかな。そっちは?」

「相変わらずだ。ただちょっと受付の人にはトラブルがあったみたいだ」

「……書類でもめたの?」

「そんなところじゃないか? お役所仕事で批判されたんだろう」


 言葉とスーツ姿の所を見ると、おそらくレックスは役所か何かに勤めているのだろう……そう考えると両方とも公務員か。ずいぶんと固いカップルだ。

 そこでふと、現実では無言だったレックスがずいぶんと多弁になっていることに気付く。まあ役所勤めなんだから話をしないことにはどうしようもないけど……これも、アキの願っていたことなんだろうか。


「ねえレン」


 ふいに、フィクハが俺を呼ぶ。


「二人の部屋に、黒い鏡みたいな四角い物が置いてあるんだけど」

「うん……? テレビのことかな……? って、フィクハ。ちゃんと観察してくれよ」


 話す間に、セシルやリミナが部屋をずいぶんと見回していることに気付いた。まったく……。


「……レン」


 次にルルーナが声を上げた。表情は至極真面目で、俺は視線を伴い応じる。


「何?」

「あくまで可能性の話だが……アキは、この世界が幻術だと気付いているかもしれないのではないか?」


 ピクリ、とフィクハも反応。俺と同じ見解だった。


「ルルーナも、そう思う?」

「レンも同じような見解らしいな。これほど違和感のある状況だ。何か引っかかってもおかしくないと思うのだが」

「今の所、そんな素振りはないけど……」


 フィクハがあごに手をやり、アキを見ながら述べる。


「うーん……でも、仮にそうすると彼女は自らの意志でこの場にいることになってしまうけど」

「そうだな。単なる魔法干渉だけでは解決できないかもしれない」

「とすると……どうするの?」

「一度戻って、対策を考えてみるか?」


 俺の提案。ルルーナとフィクハはこっちに視線を向け、


「ふむ、私としてはその方がいいと思うが……果たして対策があるのかどうか」

「けど、この場で検証していてもどうしようもないんじゃないか?」

「そうだな……とはいえ、確認する必要はあるな。私やレンの意見が正しいのかどうか」


 会話をしている間に、アキ達は食事を終える。このまま観察するかなどと思い見守っていると、アキとレックスはそれぞれの自室に入った。

 フィクハやリミナにアキの監視をお願いして……俺はセシルと共にレックスを観察してみる。とはいえ目立った行動は起こさない。持ち帰った仕事でもあるのか部屋にある机でいくらか作業をした後、テレビを見始めた。


 そこから怒涛の質問がセシルからやって来たのだが……それをどうにか簡単にでも説明した時、リミナが部屋にやって来た。


「勇者様」

「どうした?」

「やっぱり、アキさんには自覚があるみたいです」

「そういう言葉が漏れたのか?」

「はい。私達のことを心配するような言葉が聞かれたので」

「わかった……ここでやることはもうなさそうだな。一度城に戻るか」

「はい……けど、その。学校まで戻らないといけないのではないですか?」

「あ、そうか。うーん、電車の乗継でここまで戻ってきたわけだし、場所もわからないな……彼女が出勤するまで待機しようか」

「わかりました」


 というわけで、俺達はアキ達を観察しつつ一晩過ごすことになった……そこからいくらか質問がきたりもしたりしつつ、夜が更けていった。






 翌日、アキが出勤し学校に到達すると、俺達はグラウンドにある光に入り魔王城へと戻ってくる。外に出て確認するとさらに光から抜け出した人もいて……作戦会議を行うことにする。


「……というわけで、光に取り込まれているアキは現実でないことを理解しているみたいなんだが」

「新しいパターンだな。これは厄介そうだ」


 グレンが言う。周囲にいる騎士達も似たような見解なのか渋い顔をする……が、


「あの、一つよろしいですか?」


 一人の騎士が手を上げた。


「その、似たようなケースに私は遭遇したことがあるのですが……」

「似たような?」

「はい。幻術世界で、それを本人も自覚した状況でして……」

「その時、どうやって対処したんですか?」


 問い掛けると、騎士は視線を近くにいた魔法使いに向け、


「その人物は私の知り合いで、手段としてはリスクも高かったのですが……その場にいた魔法使い殿に、私に対し魔法を掛けてもらうようお願いしました」

「あなたに?」

「魔法で幻術世界に干渉できる……ということは、魔力に反応しているということですよね? なら私自身に魔力をまとわせれば、幻術世界に捕らわれている人と話せるのではないかと思ったんです」


 ……また突拍子もないやり方だな。ただ直接説得できるのならば、それに越したことはないけど。


「それは成功したんですか?」

「はい……ただ魔法を長時間使用することは難しいようで、魔法使い殿に相当な余力があったにも関わらず、十秒ほどで魔法が強制的に解除され、魔法使い殿は城外に。ただ私の出現により、幻術に捕らわれている人物は脱出できました」

「魔法にも持続時間があるというわけね……それに、技法的に魔法使いにしかできなさそう」


 フィクハが発言。次いでこの場にいる魔法使い達を見回す。


「この場には私やリミナを除いて三人いるのか……ふむ、十分勝算はあるんじゃない?」

「三十秒で説得しろと。けど、いいのか? 三人も――」

「厄介な状況で、なおかつ余裕もあるからいいんじゃない? けど、そうなると説得の内容を考えないといけないね」


 フィクハは言うと、俺に首を向け続けた。


「三十秒できっちり話せるように内容を考えよう……アキを救うために」


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