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元の世界の情景

 たとえば俺が通っていた高校は公立という関係もあったためか、食堂なんてものは存在していなかったのだが……ここはどうもいい所の私立らしく、非常に広い食堂が完備されていた……ちょっとうらやましい。

 で、食事をしているためリミナやフィクハもここがどういう場所なのか理解したようなのだが……ここでフィクハが一言。


「人、多すぎだと思う……私が通っていた場所でも、ここまで人は集まらなかったわよ」


 まあ、確かにその辺りは驚くところか……そもそも青いブレザーの制服という画一的な服装に身を包んでいるのもリミナ達にとっては驚きだったらしく、


「勇者様、ここは軍隊の訓練場か何かですか?」

「いやいや、普通の学校だから」

「これのどこが普通なのよ」

「俺の元の世界……というか、俺が暮らしていた場所では、これが普通だったんだよ」


 そんなやり取りをしつつ、俺はアキがうどんをすする光景を目にする。周囲には彼女を慕っている生徒が数人。アキは生徒達と談笑しつつ食事を楽しんでいるわけだが……深層心理では、元の世界に帰ることが一番だと考えていたんだろうか。レックスのことについてはどう考えているのか気になったが、さすがに聞くべきじゃないだろう。


 そして一つ問題が出てくる。俺達はアキを観察しているわけだが、今の所鍵らしきものは見当たらない。加え、元の世界となると……俺のようにわかり易いケースである可能性もゼロではないが、もしそうでなかった場合は、鍵を見つけたとしても彼女を救うための魔法をどう使えばいいのか。


「あ、レン」


 そこで、セシルの声。振り返ると、彼とルルーナが近寄ってくる光景が。


「よくここがわかったな?」

「いや、単に人の流れに沿って到着しただけだよ……アキは見つかったみたいだな」

「ああ」

「で、疑問なんだけど……」

「この世界のことに関する話は、無しにしてもらえないか?」

「えー、気になるんだよ」

「……ちなみに、内容は?」

「パンが販売している場所を見つけたんだけど、変な包装がされていたんだけど」

「ビニールのことか? この世界にある普通の素材だよ」

「ふうん。なんだか便利そうだったんだけど、作り出すのは難しいのかな」

「俺に訊かれても……」


 あらゆることに対し興味を抱いている様子……俺にとっては何でもないことでも、リミナ達にとっては新鮮に映るのだろう。


 これ、学校だけで大変なんだから、コンビニにでも寄ったらとんでもないことになりそうだな……などと心の中で思いつつ、とりあえず集まったので俺は口を開く。


「えっと、アキは見つかった上俺のいた元の世界なわけだが……どうする?」

「いや、面白そうだからもうちょっと見て回ろうかと」

「セシル……」

「いや、私達に知識は無くとも、アキを観察してわかることがあるかもしれんぞ」


 ルルーナがセシルを擁護するように告げる……って、完全にこの世界を見て回ろうという気が満載なんだけど。

 そんな悠長にしていて――などと思ったが、フィクハやリミナですら興味津々な様子で周囲を見回しているので、説得は無理そうだと俺は思った。


 まあ、ルルーナの言う事も一理あるし……などと思いつつ、しばらくアキの様子を見る事に決定した。

 現時点で彼女の周囲には鍵らしき物が見当たらないのが気になる点ではあるが……ひとまず、彼女の様子を窺うしかなさそうだ。


 やがてアキは昼食を終えると、職員室に戻り次の授業の準備を行う。俺達はその間も彼女の動向を観察したが――やはり、鍵らしきものは見つからなかった。

 リミナ達から放たれる数えきれない疑問を聞きつつ、やがて時刻は夕方に。彼女は授業が終わった後も職員室で色々と作業をしていたが……六時半くらいになってようやく、仕事が終わったのか帰宅することとなった。


 季節的には俺達と同じく秋から冬といったところなのか、既に陽は沈んでしまっている。俺は仲間達にはぐれないよう警告しつつ――


「ふむ、魔法も使わない雷の力を使った設備かあ……便利そうね」

「けど、この力の源はどこなのだ? この建物の中にそういった設備があるのか?」

「観察する間に僕は建物の中を見回ってみたけど、それらしい場所はなかったけど」

「あの、勇者様。私としては色んな人が所持している小さい道具のような物が気になったのですが……」


 フィクハとルルーナは電気に関して検証を始め、リミナはどうも携帯電話に興味を持った様子……とりあえず「勘弁してくれ」と言い全て無視することにして、俺達もまた学校に出た。


 彼女は電車通勤だったらしく駅へ向かう。電車に乗った時点で道中見かけた車や、電車について訊かれたんだが……「馬車みたいに移動できる物」といったら、生物や魔法も無しにどうやって動力を手に入れるんだという質問の応酬がフィクハからやってきた。大層面倒だ。


「……というわけで、車はガソリンという燃料で……」

「このデンシャというのは電気というわけか……ふうん」


 俺達はアキと同じ車両に乗りつつ、会話を進める……正直一介の高校生だった俺にはそう知識があるはずもなく、詳しい話はできないということでひとまずは納得してもらったのだが、


「これ、再現できると思う?」

「……実現するには、相当科学技術を高めないと無理だと思うぞ」

「やっぱりかぁ……うーん、あきらめるしかないのかな」


 どう足掻いても無理だと思うんだが……そんな説明をする間に俺はアキに視線を送る。座席に座り携帯電話でメールか何かをしていた。その表情が緩んでいたので、俺は興味を抱き内容を見ようとしたのだが……直後、彼女は携帯をしまってしまった。よって、目的は果たせない。


 仕方ないと思っている間に、大きな駅に到着。アキが出るのに合わせてホームに出ると、ずいぶんと人が多い場所だった。


「ターミナル駅かな?」


 アキが乗っていたのは私鉄系の路線だったようだけど……ここから乗り換えるのか?

 考える間にアキはズンズンと進んでいく。それを追う間にフィクハ達は売店なんかを目にして色々騒ぎ始めたのだが……最早説明する気にもなれず、俺は突き進んでいく。


 今度は地下鉄に乗り込んだ。帰宅ラッシュの時間に当たったためか、リミナ達はひとしきり驚いていた。

 そうこうする内に地下鉄が出発。アキは数駅で降り、歩き始めた。


「ずいぶんと人が少なくなったね」

「あの場所は電車の乗り換え地点みたいなものだから、人が集中するんだよ」


 セシルに説明する間に彼女は改札を出た。そのまま地上へと上がり、近くにあったコンビニに立ち寄った。あ、まずい。

 光に誘われ、リミナ達も中に入り……とうとう爆発した。


「勇者様、壁一面に器に入った液体が――」

「冷蔵しているんだよ。水とかを」

「ねえレン。これってお菓子? チョコとか……見たことのない物が多いけど」

「ああ、そうだよ……って、セシル」

「なんか、やたら露出度の高い女性が表紙の本があったんだけど」

「たぶんエロ本じゃないか……? って、ルルーナ! 店の裏に行こうとしない!」


 遠足の引率でもしている気分だ……俺はいよいよ収拾つかなくなりそうな状況の中で、アキを見据えた。

 彼女は二つ弁当を購入し会計を済ませていた。そして店を出ようとする。


 俺は全員に店を出ることを告げ、アキと一緒に店内を脱した。そこで、


「おかえり」


 男性の声――するとアキは笑みを浮かべた。


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