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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
幻術世界深淵編

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残る仲間

 城の入口へ歩みつつ、マクロイドが話し出す。どうやら郷里は、魔物の襲撃を受けて滅んでしまったとのこと。


「俺自身、過去の事だと割り切っていたつもりだったんだが……そう簡単にはいかなかったようだな。心の奥底では、悔いていたらしい」


 マクロイドは笑う。けれどそれは今まで見せていた陽気なものではない。


「とはいえ、子供の俺が何かできたというわけではなかった……あの幻術世界だって、おそらくは魔物が襲撃されなかった場合、というのを俺が勝手に想像したんじゃねえかな」

「そうなのか……」


 話はこれで終わりだろうかなどと思った時、マクロイドはさらに笑みを浮かべ、続ける。


「ちなみにあの噴水だが……あそこには古代、そこそこ繁栄した国の都市があったんだ。とっくに滅んでしまって今は見る影もないレベルなんだが、それを回収し村のシンボルにしたのが、あの噴水ってわけだ」

「なるほど、元々あったものなのか……ちなみに今も残っているのか?」

「襲撃を受けて家は崩壊した時、あれも一緒に破壊されたよ。だからこそ、その時の光景を思い出して、俺は幻術世界を脱出できたわけだが」


 そこまで言うと、彼はどこか不満げな顔を見せる。


「ロサナも容赦ねえな。あそこまで無茶苦茶に破壊することもないだろうに」

「けど、破壊すると決めた以上徹底的にやらないと」

「そうかもしれないが……ああ、その時の光景を思い出してなんだかムカついてくるんだが」


 彼にとっては、嫌な記憶を呼び起こしてしまったようだ。俺は申し訳なさそうな顔をして謝罪しようとしたが、マクロイドはそれを予期したらしく手で制した。


「ああ、気にしないでくれ……ところで、レンの仲間の中で生還していないのは?」

「アキと、リュハンさんがまだだ」

「その二人か……自力で抜け出してくれれば万々歳なんだけどな」

「まったくだよ。けど、それを望んで楽観的に過ごすのは駄目だ」

「わかっているさ」


 マクロイドが応じた時、入口に到達。相変わらずリミナなんかは作業に没頭しており、またフィクハはそれを眺めている。まだ休憩中らしい。


「……あ」


 フィクハがいち早く気付く。俺の隣にいるのがロサナではなくマクロイドということで、声を上げた。


「一人生還だね」

「ああ。残るは……」

「さっきもう二人、自力で抜け出したよ。この調子だと一日かからないかもしれない」

「となると、魔王の所に突入するのは今日中になりそうだな」

「かもしれない……けど、準備もまだ必要だから……全員助けた後ももう少し待って欲しいな」

「魔王が待ってくれればいいけどな」


 全員助けた瞬間突然襲い掛かってくるなんて可能性もゼロじゃないわけで……フィクハは「そうだね」と相槌を打った後、マクロイドに視線を向けた。


「えっと、マクロイドさん。何かやりたいこととかは?」

「無いな。もしよければ俺も他のメンバーを救い出すのに協力するぜ。おそらく魔王との戦いでは出番がなさそうだからな」

「そう。なら……」


 フィクハが話をする間に、俺は入口の周辺を歩んでみる。騎士や勇者がちらほらと見えるが、そう見知った面々は……いや、ルーティがいる。彼女も抜け出したんだったか。

 ずいぶんな人数抜け出しているので、フィクハの言う通り一日かからないかもしれない。まあだからといって悠長に構えているわけにもいかない。犠牲となった人物もいるわけだから――


 そんな風に考えた時、ルルーナやセシルが俺達が来た反対側の廊下から戻って来た。


「お、マクロイドがいるじゃないか。魔法を使ったのはロサナさんかな?」

「なんだか微妙な顔つきだな。もしや、このまま幻術に捕らわれたままでいいとか思っていなかっただろうな?」

「ははは。そんなことあるわけないじゃないか」


 セシルの表情は、マクロイドが語ったようなことがちょっとくらい起こってもいいかな……などと言っているようにも見えた。まあ、冗談としてそういう顔を作っているんだと思うけど。

 マクロイドもそこでため息をついた。セシルの態度にどこか諦めた感じだ。


「ま、いいや……で、そっちは成果なしか?」

「いや、そういうわけじゃない」


 声――見ると、セシルの後方からリュハンの姿が。


「レン、仲間の中ではアキだけになった」

「そうだな……彼女が捕らわれている世界がどういう所なのかとかは、情報あるのか?」

「いや、今のところはないよ。地道に探していくしかないな」


 セシルが語る……俺としては、彼女がどういう世界を築いているか大体想像がついている。恋人であったレックス――彼のいた世界だろう。

 俺と同じ異世界という可能性もゼロではなかったが、こちらの世界で失くしたパートナーの方が優先順位としては高いだろう。となれば、対処法もそう難しくはない……いや、あくまで鍵の推測が容易なだけで、目覚めさせるのは難しいかもしれない。


 何せ失くした恋人のいる世界……その幻術は本当に甘美だろう。


「同じようなことを、考えているみたいだね」


 口が止まった俺に対し、セシルが言う。


「アキのことは……まあ、僕も想像できるよ。正直、それ以外ないと思っている」

「だよ、な……やっぱり」

「幻術世界から引っ張り出すのは難しいかもしれないけど、やるだけやるしかないね」

「だろうな……さて」


 俺は軽く伸びをした。見知った人間も残り少なくなった上順調極まりないが……気を引き締め直す。


 その時、廊下を駆けてくる音。俺達が一斉に視線を向けると、騎士の一人が小走りでこちらに駆け寄ってきた。


「すみません。少々ご協力いただきたい所が」

「協力?」

「はい。ちょっと判断できない世界が見つかりまして」


 俺達は互いに顔を見合わせる。判断できない?


「そこがどういう場所なのか判然としないため、調査もままならないと」

「……どういうことだ?」

「私達の知識の範疇外とでも言いましょうか……」


 言葉を濁す騎士。そこでリミナも立ち上がり、さらにフィクハやグレンですらイーヴァとの作業を止めて話を聞く。


「ですので、様々な方がその世界に入り調査をした方がいいのかと思いまして……」

「地力で脱出する可能性は?」

「わかりません」


 首を振る騎士。話からするとどういう人物が捕らわれているのかも、判然としないらしい。


「……どうする?」


 セシルが代表して確認の問い。それに対し、まず俺が手を上げた。


「ひとまず、俺が入ってみるよ。後一回魔法にも余裕があるし」

「なら、僕も付き合うよ」

「私も同行しよう」


 ルルーナの言葉。すると、


「なら、少しは働きましょうか」


 フィクハもまた手を上げた。


「魔法に関連する場所だったら、何か知っているかも」

「そうだな……」

「なら、私も」


 さらにリミナも手を上げた。


「作業もひと段落しましたから」

「合計五人か……他はいいかな?」

「ひとまず私達が入って様子を見るってことでいいんじゃない?」


 フィクハが提案。それに俺は「わかった」と呟き、全員が動き出す。


 少々大所帯だが、まあいいか。厄介な場所であったなら、人数集めてさっさとどういう世界なのか判断して対策を練った方がいい。

 というわけで俺達は移動を行い、騎士が語った光の場所に到達する。俺達は全員それぞれ顔を見合わせた後、ルルーナを先頭にして光の中へと入り込む。


 さて、どうなるか……俺は胸中呟きつつ、五人の内で最後に光の中へと入った。


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