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闘士の郷里

 翌日、俺達は外でマクロイドが出てくるのを待っていた。子供の姿である彼はそれこそ無邪気で、これが過去の姿だとしたらとても闘士をするようには見えない。


「ロサナさん。マクロイドが闘士になった経緯とかは、知りませんか?」

「聞いたことはないかな」


 ロサナは腕組みをしつつ返答する。


「マクロイドの性格は、レンも知っているでしょ? ざっくばらんで、時折自分のことをネタにして笑い話にするようなこともあった……けど、よくよく考えてみると自身の過去、特に子供の時とかをネタにしたことはなかったかな」

「となると、それだけ嫌な記憶があるってことですか?」

「そうかもね。この幻術世界はそれこそひどく平和だけど……現実では、マクロイドの心に深い傷を負わせるような思い出があるのかもしれない」


 淡々と彼女が語った時、マクロイドが家から出てきた。すると彼は村の中央とは逆方向へと走り出す。


「外に出る気でしょうか」

「他の子を迎えに行くんじゃない?」


 彼女の推測は正しく、マクロイドは村の入口近くに家を構える少年を迎えに行った。

 そして二人して村の中央へ……ここで決めるのかと思いロサナに視線を送ると、


「もう少し様子を見ましょう」


 彼女はそう述べた。


「もし魔法を使う場合、私がタイミングを決めていい?」

「構いませんけど……ロサナさんが魔法を使うんですか?」

「それでいいと思うわ」

「リミナは? 何か教えていたんじゃ?」

「レンが起きた時のためにきちんと何をすべきかは伝えてあるから、心配しないで」


 となると、ここで彼女が魔法を使うということでよさそうだ……俺が「わかりました」と答えると、彼女は「そういうことで」と返した。

 マクロイドについていくと、やがて村の中央付近に存在する家の一つに入った。そこは他の家と比べるとやや大きめであり、他にも子供達が入っていくため、どういう場所なのかが予想できた。


「学校、って感じかな?」

「そんなとこでしょうね」


 ロサナは呟きつつ建物の中に。続けて入ると、そこには少年少女が椅子に座っている光景。

 元の世界にある小学校の授業風景を思い起こさせる光景……さすがに黒板はないが、教壇らしき物は存在し、そこに女性が一人立っていた。


 それからしばし、椅子が埋まると同時に授業が始まる。内容は字の読み書きや簡単な計算問題。

 ロサナはそれをじっくりと観察していたのだが、俺の方は自由にしていていいと言われ、外に出た。空は綺麗な青空で、燦々と降り注ぐ太陽がすごくまぶしい。


 俺はふと場違いなくらい綺麗な造形の噴水に目を移す。水は湛えられていないのだが、村人はそれに意を介さず農作業をするべく移動している。


 ここで俺はマクロイドがなぜこうした世界を望んでいるのかを推測してみる……この郷里が魔物に襲われたのか、それとも何か別の理由で家族から引き離されたとか……色々と理由はあるが、それでもこの世界を望んでいるのは紛れもない事実で、だからこそ俺は気になってしまう。


 他の見知った仲間は、もっと最近のことだったけど……いや、ナーゲンだけは少し前の話だったか。とはいえこれほど前のことだとは思いもよらなかった。


「噴水を破壊したら……どうなるんだろうな」


 俺は呟きつつ、背後にある教室を見据える。まだ授業は続いているが、おそらく昼にはいったん終わるだろう。


 もしかするとロサナはそこが狙い目だと考えているのかもしれない……農作業をする人々も昼には一度戻って来るだろう。そうなれば村の中央にも人が集まってくるはず。そこを狙い、彼女が魔法を使う……計画としては、そんなところだろうか。


 やがて――退屈な時間が過ぎ、とうとう太陽は頂点を迎える。そこでロサナが出てきた。


「そろそろ授業が終わるわ」

「わかりました……昼のタイミングで?」

「そのつもり」

「何かわかったこととかはありますか?」

「特にないわね。教えていたことも至って普通だった。マクロイドが闘士だったことを勘案するに、そういう話とか物語でも授業で扱っているのかと思ったけど、そういうわけではないみたいね」

「あるいは、別の日にやっているんでしょうか?」

「その可能性は低いような気もするけどね。教えているのは必要最低限のことって感じだから……ま、その辺りは置いておいてもいいかもしれないわ」


 農夫達が村の中央に近づいてくる。さらに背後の教室からは授業が終わったことにより歓声が上がる。

 いよいよか……胸中で呟くと、ロサナは噴水へと近づいた。


 俺はそのまま立っていることにして、彼女を注視。やがて農夫が中央に集まり、なおかつ農夫の妻達が夫を呼び掛ける。

 そして、子供達が一斉に教室から外に出てくる。マクロイドも同様に、弾かれるように外に出て一目散に帰ろうとする。


 ロサナはそのタイミングを見計らっていたようだった……次の瞬間、身震いするほどの魔力が、一瞬で彼女の手のひらに集まる。


 一気に決めにかかる――そう確信した矢先、魔法が迸った。


 周囲の人々が呆気にとられる程の轟音と共に、噴水が豪快に破壊される。さすがに一発で粉々とまではいかなかったが、それでも半壊となり中央付近にいた村人達は例外なく破壊された噴水を見据えた。


「お、おい……!?」

「何が起こった!?」


 口々に喚き出す村人達。気付けばロサナは魔法を使用したことにより転移している……こちらとしてはマクロイドを見守ることしかできないのだが――

 彼に視線を移すと、村人達と同様に噴水を直視し……ただ慌てふためいているわけでもなく、ただ茫然と立ち尽くしていた。


 その様子は、噴水が破壊され混乱しているというわけでもなさそうだった……もしやなどと推測した時、


「噴水が……破壊……」


 マクロイドが呟くのを耳にする。破壊された噴水を見て、思う所があったらしい。

 これならおそらく――そう思っていると、マクロイドが噴水へと歩み寄っていく。その光景を見ていると、やがて噴水が白く光り始める。


 成功だ……そう思ったと同時に光がやがて俺ばかりでなく村全体を包み――気付けば、魔王城の廊下に立っていた。


「ここは結構難関だったと思うけど……どうにか、突破できたな」


 俺はそんな風に呟きつつ、マクロイドを待つ――その時、

 突如、扉が盛大に開かれた。びっくりしている間に廊下に出たマクロイドは、俺を標的にしたかロクにこちらも見ずに気配だけで剣を抜こうとして――


「……ん? レン?」


 柄に手を掛けた時点で、彼は立ち止まった。


「あ、ああ……そうだけど」


 ずいぶんと攻撃的な反応だったので、俺はなおも驚きつつ返答。するとマクロイドは歎息し、


「レンが助けてくれたのか?」

「あ、うん……魔法を使ったのはロサナさんなんだけど」


 そう前置きをして、マクロイドに説明。すると彼は「なるほど」と一つ呟き、


「そうか……悪かったな。大変だったろう」

「いや、他の人を助けているしもう慣れたかな……けど、子供になっているとは思わなかった」


 マクロイドは笑う。そしてどこか照れたような表情をしつつ頭をかく。


「ま、いいや……すまない、本当は自力で抜け出せばよかったんだが」

「いや、大丈夫……えっと、マクロイドは今後どうする?」

「俺も協力するけどな……その前に、話した方がいいのか? 気になるだろ?」

「義務があるわけじゃないけど」

「顔には気になるって書いてあるんだが……ま、いいや。ちょっと俺も城内の様子を見て回りたい。歩きながら話そうじゃないか」


 そう告げると、マクロイドは俺の返事を聞くことなく歩き始めた。


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