再始動
さて、俺はノディとルルーナの二人と共に改めて行動を開始したわけだが……最初に入った光の中は見覚えのない土地だった。ルルーナは心当たりがあったようだが、近くにあった街を幻術世界で数時間回ってみたが、それらしい人が見つからなかった。
次の場所は、城の中。騎士か誰かが捕らわれているのだろうということで城内をくまなく散策したのだが……やはりそれらしい人も、鍵さえも見つからなかった。
「やはり、面識の薄い人物となると勝手が違うようだ」
ルルーナはそう告げる。確かにと俺は胸中で同意しつつ、さらに別の光をくぐる。
三つ目は、大きな噴水のある村……って、ここは一度訪れたな。
「前来た時と、何も変わっていないな」
ルルーナの言葉に俺は周囲を見回しつつ同意……なんだか不毛なことをしている気さえして、先ほど消えた騎士のことを思い焦燥感だけが残る。
まだ仲間も捕らわれている以上、どうにかしなければ……そんなことを思いつつ、俺達はまた魔王城に戻った。
一度入口付近に戻ることにして、移動。そこに別行動をしていたセシル達もいて、お互い情報交換を行った。
「ふむ、知り合いの世界に巡り合えたということではないようだな」
ルルーナがメモを取りつつ告げると、ロサナは頷いた。
「リミナとかなら一発でわかると思ったんだけどね……さて、ここからどうする?」
「まだ調べていない所をしらみつぶしに当たって、救える人物を優先的に解放していくしかないだろうな」
俺が言う。すると全員が意見に同調する素振りを見せたのだが、
「一つ提案が」
セシルが小さく手を上げる。
「ルール上、一度人を解放したら光の場所が変わることになっている……けど、取り込まれた人物の願望内容などが変わるわけではない」
「ああ、そうだな」
「そして消える可能性を考慮すれば、できるだけ分散した方がいい……二人一組で動かないか? まだまだ人数も多い以上、どういう世界なのかを把握する必要だってあるだろうし、ひとまず人海戦術で攻めるべきだろう」
「そうだな……では」
と、ルルーナは懐からメモを取り出した。
「情報を集積し、どういう世界があったのかを共有しておこう。これなら仮に場所が代わっても、情報により見分けることができる」
「本来は、人の心に踏み込むためあまりやりたくはないけど……仕方ない、か」
俺は先ほど消えた騎士のことを思い出し、呟く。犠牲者が出たことにより、全員が顔を引き締めており、なおかつ不可抗力だという結論に至っているようだ。
そして、ルルーナが幻術世界に突入するメンバー分だけメモを書き、さらに俺達は作戦会議を重ね……それぞれ分かれる。俺とペアを組むのはノディに決定。セシルはルルーナ。そしてロサナはナーゲンと……ちなみにペアについては特に議論したわけではない。
「私達は引き続き待機でいいのか?」
グレンが確認を行う。彼とセシルを交代してもいいかなと思ったのだが……ルルーナが「頼む」と告げたので、ひとまず彼はそのままということになった。
と、いうわけで俺はルルーナが記したメモを片手に行動開始。
「入口近くじゃなくて、少し離れた場所を調べてみるか」
「いいよ」
ノディが賛同したので、俺達は黙々と魔王城の廊下を進む……本来なら緊張感を高め最大限の警戒をしなければならないのだが……これまでの状況を思い出し、剣を構えることも忘れそうなくらいだった。
魔族が突如現れる可能性もゼロではないので、注意しないと……思いつつ、俺は適当な扉を開けた。
そこには、光。そこで俺は先ほど作戦会議で実行したことを行う。
ルルーナから渡された白紙のメモを二つ折りにして、扉の前に置いた。ここに人が入っている、というのを表すものだ。こうしておけば幻術世界に入っている場所を特定できるので、援護するか別の場所に行くかなど判断ができる。
「よし、行こう」
俺の言葉と共に、光の中へ。そうして俺は一瞬目を瞑り……目の前に、街が見えた。
「普通だねぇ」
ノディが告げる……観察してみるが、俺としては記憶がない。
「ノディ、見覚えは?」
「ないよ」
となると、俺達の知らない人間だろうか……考えつつ、とりあえず確認のためにノディと共に街へと歩いていく。
城壁がそれなりに形成されているためか、ちょっとだけ威圧感のある街……俺はメモに目を落とし、他に誰か入ったことがあるかを確認してみたが……街があるという記述だけでは、特定が難しい。
「街の特徴なんかを記憶して、どこなのかを別の人に聞くしかないか」
「だと思う」
賛同した段階で、俺達は街の入口に到達。門を抜けるとそこそこ活況な大通りが現れた。
目立った特徴もないため「類型」という言葉が似合いそうな街だ。俺はこの場所がどういう所なのかヒントはないか探した。とはいえ門にも街の名前は記されていなかったし、役場にでもいかないと名を知ることも難しいだろうか。
「ちょっと大きい宿場町、って感じかな」
ノディは大通りに入りそう評した。ああ、確かにそういう言葉がしっくりくる。
「だとすると、ここに定住して活動する騎士や闘士、というわけではないかもしれないな」
「郷里がここ、という可能性もゼロではないけど、単なる宿場町だとしたら旅をしていて偶然ここに辿り着いたなんて可能性もあるかな」
そうなると、お手上げだな……白い光を抜けたことによる転移先というのは、幻術に捕らわれている人物と一定の距離内に来る仕掛けとなっているみたいなので、この幻術に捕らわれている人が根無し草だとするとメモの意味もなくなってしまう。
「こういう可能性は考えていなかったな……でも、旅をするとなると、騎士とかじゃないよな」
「リミナさんという可能性は? レンと一緒に旅をしているんでしょ?」
「ゼロではないけど……でも、俺としては見覚えのない街なんだよな」
まあリミナがよく知る街という可能性もあるので全否定するつもりはない。ともあれ、仮にリミナだとするならこの街のどこかにはいるだろう。ただ――
「……仮にリミナだとしても、探すのが相当大変だよな」
「だねぇ」
ボヤくノディ。俺も嘆息した。
正直ヒントが少なすぎる。ここは一度出て、場所を変更してみるか? もし人が少ない旅の途上とかなら、俺達も容易に見つけられると思うし。
頭の中で結論付け、俺はノディに提案しようとした……その時、
「あ」
彼女が声を上げた。それは紛れもなく、見知った人物を見つけた声。
「誰かいたのか?」
「……噂をすれば、というやつかな? リミナさんがいる」
「どこだ?」
となると、ここはリミナの――ちょっと内心複雑になったが、ひとまず彼女を確認しておく必要がある。
ノディが指差した方向に……いた。リミナが一人で露店にあるアクセサリを見ている。
「よし、確認しよう」
「了解」
俺の言葉にノディは同意し、リミナへと近寄る。視線を巡らせてみるが、少なくとも今は彼女の周囲に俺を含めた仲間の姿はない。
そして、リミナを発見したわけだがここが本当に彼女の捕らわれた世界なのかは一考の余地がある。俺は色々と頭の中で考えつつ……彼女の近くまで、到達した。