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犠牲者

 セシル達が歩き去った後、この場には仲間が身じろぎする音以外何も存在していないのだと、改めて認識する。

 これまで無我夢中で行動してきたため、気付かなかった。一度気になり出すとそればかりがどんどんと気になり始める。


「……どうした?」


 で、態度に出ていたらしくグレンが話しかけてきた。


「ん、ああ……まあ」

「セシル達なら上手くやるだろう」


 グレンは言う。俺は小さく頷きつつ……残る仲間のことを考える。


 残る見知った人物は、リミナとリュハン。さらにカインに……後はアキやマクロイドなんかもいる。さらに言えばコレイズなんかもいただろうか……デュランドといった騎士もいるし、まだまだ予断を許さない状況ではある。

 この中でドラゴンであるデュランドや、その血を持つリミナについてはまだ余裕があるだろう……とはいえ、元々魔族に対して使われている魔法である以上、人間がどこまで耐えられるのかわからない。


 がむしゃらに行動しても解決できないのはわかっているけど……まだまだ救う人も多い。さらにいえばここからは知り合いばかりではないため、一層難しくなるかもしれない。


 そんなことを思っていると、フィクハがイーヴァと共に俺やグレンの近くへとやってくる。


「終わったのか?」

「まだ検証中。休憩」


 フィクハは端的に答えると俺の横に座り込んだ。


「ずっと同じ体勢でいるのも疲れるわ。なんだか肩も凝ってきた」

「……目的は、果たせそうか?」

「現状ではわからない、が答えかな。でも、先に進んでいるのは間違いないよ」

「それなら、よかった」


 魔王との戦いに活用できるかはわからないけど……やれるだけのことはやるべきだし、俺としても少し期待している。


「けど、一つ問題が」

「問題?」

「私の考え通りに策を実行できるにしても、どうしても足りないものがある」

「……魔力か?」


 こちらの問い掛けに、フィクハは頷く。


「そう。この策を実行するには、ある程度魔力を確保する必要があるんだけど、当然城からの魔力を頂くわけにもいかない」

「となると、どこからか魔力を調達する必要があるわけだが……」

「魔王との決戦までに時間があるでしょ? だから魔力量の大きい人物の魔力を借り受けられるように、調整しようかと思うんだけど」

「調整?」

「そう。他人の魔力を利用して魔法を使うこともできる……けど、それには相手の魔力をしっかりと知る必要があるんだけど」

「それができたなら、策を実行できる?」

「うん。もっとも、私の目論見通りなら、の話だけど」


 ハードルが多い話だな……とはいえ魔王に対する策なのだから、そのくらい障害があっても当然か。


「……フィクハ、その魔力の借り受けというのは、フィクハ以外ができるのか?」

「うーん、技法自体を教えるには魔法を使う必要があるから、誰かに教えるのは無理」

「ロサナさんは使えるのか?」

「無理じゃない? そもそもこれはシュウさんのやっていた研究を私が面白半分で構築したものだし」

「……面白半分?」

「魔力量を補てんする技術だから、少し興味があったのよ。まさかこんな場所で使うとは思っていなかったけど」

「いや、そうではないだろう」


 そんなフィクハの言葉に対し、イーヴァが声を上げた。


「そもそもこんな場所を訪れるとは思わなかった、が正解だな」

「……そうね」


 苦笑するフィクハ。俺も同感だった。


「……えっと、話を戻すけど、それはどのくらいの時間があればできるんだ?」

「まったく魔力に触れたことがない人なら半日くらいはかかるけど、触れたことがあるのなら数時間で終わるよ」

「……それ、誰が適任かって一人しかいないじゃないか」

「そうとも言う」


 フィクハも同意。フィクハが触れたことがあって、なおかつ魔力量の多い人物……リミナしか思いつかない。


「ノディという案も考えたけど、魔王相手に魔族の魔力だと、ちょっと不安要素があるのよね」

「だとしたら、リミナを探すか?」

「それを優先してもいいけど……まだ焦る必要はないんじゃない?」


 フィクハは懐中時計に目をやり、告げる。


「数時間経過した段階……まだまだ大丈夫だと思うけど」

「楽観的にいきたいところだけど、できるだけ急いだ方がいいとは思うけど……まあ、焦って解決できるような内容でもないけどさ」


 俺は小さく息をつく。やはり精神的な疲労が頭の中に存在している。

 隣にいるフィクハを見やる。俺が見た望み――彼女は視線を察しこちらを見返すと、何を思ったか悟ったようで口を開いた。


「……そう深く気にしなくてもいいんじゃない?」

「それはそうなんだけどさ……」

「ま、仕方がないか……」


 呟くと、フィクハは立ち上がった。


「検証、再開するよ」

「わかった」

「イーヴァさん、また護衛をよろしく」

「ああ、いいだろう」


 彼が承諾した――その時だった。


 突如、こちらに向かう足音。何事かと思い視線を転じると、そこにノディの姿が。


「レン、ちょっと来て!」

「何かあったのか?」

「もしかすると、だけど……」


 彼女は深刻な顔で、俺に告げる。


「――犠牲者が、出たかもしれない」


 その言葉で、俺を含めこの場にいた面々は表情を硬くする。


「……私も確認する」

「こちらも」


 フィクハが言い、グレンも賛同。さらにイーヴァも同行し、俺達はノディの案内により部屋の前に移動する。

 扉は開け放たれていて、小部屋の中にはルルーナの姿。


「来たな……部屋に入った段階で、こうなっていた」


 彼女は床を指し示す。そこには――


「鎧?」


 呟く。目の前には、鎧だけが置かれていた。

 いや、それ以外にも武具や肌着といった物まで……それを見て俺は、直感した。


「まさか、魔法に取り込まれて……消えたのか?」

「もし幻術に取り込まれた状態で魔力を失えば、肉体が消失するということなんだろう」


 ルルーナの解説に、一同押し黙る。

 最後は体すら残らなくなるということなのか……どういう結末となるのかを改めて確認し、俺は奥歯を噛み締める。


「……ノディによると、今回突入した騎士の一人は、魔力量が少ない人物がいたようだ」


 さらにルルーナが解説をする。その言葉に、当のノディも頷いている。


「他の面々がまだ光の中に捕らわれている以上、その人物がおそらくこうなったと推測した……アクアが抜けているため、すぐにその人物と同じ結末を辿る人間はいないと思うのだが……」

「急いだ方が、いいかもしれないな」


 俺が告げると、ルルーナは目を細めた。


「現在、セシル達が光の中に入っている。一つ目は外れで今は二つ目を当たっているところだ……レンはどうする?」

「俺も行くかな……ただ一人だとさすがに」

「私も付き合おう。ノディもいいか?」

「いいよ」

「となれば、この三人で別の場所に向かうとしよう……レンの魔法は残り一回だったな?」

「ああ」

「なら、それはギリギリまで保有しておいた方がいいだろう。ノディ、次魔法を使うとすればそちらとなるが」

「わかってる」


 鎧を見ながらノディは頷く。彼女にとって同僚のような存在が消えてしまった――面識のない俺でも精神的にくるものがある以上、彼女にとってはかなり衝撃が大きいだろう。


「では、行動することにするか……他の面々は、引き続き待機していてくれ」


 フィクハ達は無言で頷く。そして俺はルルーナとノディに「行こう」と告げ、廊下を歩き出した。


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