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英雄の後悔

 どうするかなんて完全に思慮の埒外。だが、ここで動かなければ他にエリッカとナーゲンの接点がない――ナーゲンが望んだ世界なのだから今後現実とは違う展開になるのかもしれないが、それでもここで動かなければ進展はないと思った。


「レン!」


 ルルーナが叫ぶ。だがその制止を無視し、俺は剣を振り、魔法を使った。

 残り二回の魔法。それによって生じたのは、雷撃。走り去ろうとしたエリッカの足を打って一時的に動きを止める――つもりだった。


 だが、俺の予想以上に出力が出てしまった。考えていた以上に濃い魔力が発せられ、それを逃げようとするエリッカへと放つ。

 光が、彼女に向かう。それは一筋の斬撃となり、彼女に――


「っ!」


 直後、彼女が立ち止まる。斬撃は彼女に直撃せず、足元に着弾。さらに床に僅かな亀裂を作った。


「エリッカ!」


 ナーゲンは周囲を見回しながら彼女に近づく。一方の騎士団長も、何事かと思ったか辺りに視線を向けている。


「大丈夫か? 今のは……」

「わからない。だが、床を傷つけた所を見ると……侵入者か?」


 騎士団長が言う。うわ、これはもしかしてやってしまったのでは……そんなことを思い背中から嫌な汗が出てきたのだが、


「なるほど、こういうやり方もあるのか」


 ルルーナがおもむろに呟いた……え?


「見ろ、ナーゲンの表情を」


 言われ、ナーゲンを見据える。彼は周囲を見回しているのだが……警戒、というのとは少し違っていた。それはどこか、この状況が異質に思うようなもので――


「あれだけの状況から一度頭をリセットさせた。これにより自分の置かれた状況が、冷静に見れているというわけだな」

「……成功したのか?」

「たぶんな」

「っていうか、魔法使うのなら言ってよ」


 ノディが抗議。俺は「ごめん」と小さく返答し、ナーゲンの様子を見る。

 ここに至り彼は明確に違和感を抱いたらしく、目を細め騎士団長とエリッカを交互に見ていた。その中でエリッカの方はなおも複雑な表情で、それを見たナーゲンは、


「……そういうことか」


 呟く。そして彼女に首を向ける。


「やはり私は……どこまでも、愚か者だという話だな」


 断じた直後、光が生じる。解放される――認識した直後、俺達もその光に包まれた。






 そして気付けば魔王城の廊下。幻術世界で数日間過ごしていたのでなんだか時間間隔がおかしくなりそうだった」、それほど時間は経過していないはず。


「最後はあっけない終わりだったね」


 ノディが腰に手を当て呟く。それにセシルは頷き、


「けど、何はともあれ解放できてよかった」


 彼が述べたと同時に、扉が開く。現れたのはナーゲン。幾分、疲れた表情を見せているのだが、


「……その様子からすると、私を救ってくれたのはここにいる皆かい?」

「そうです」


 セシルは頷いた。そして、ナーゲンの正面に立つ。

 訊きたいことは山ほどあるはずだ……それをここで成すつもりなのか。いや、それはしないつもりなのか――


「……セシル」

「一つだけ訊かせてください。ずっと、後悔していたんですか?」

「……そうだね」


 認めるナーゲン。それはどこか、あきらめた表情。


「あの後……私はエリッカに逃げられた。結局一度も話すことができないまま、あの子を死なせてしまった」

「なぜそうまでして、彼女の肩を持っていた?」


 ルルーナが問う。彼女の顔は、憮然としたものだった。


「騎士団長殿との会話を聞いていたが、明らかに彼女の肩を持っていたな?」

「……あの時、エリッカのことをひいき目に見ていたことは、認めるよ」


 ナーゲンは言う。その表情は、ひどく複雑だった。


「私も、彼女の夢を叶えようと奔走していた……けど、今振り返ればわかる。ああやって、城側に頭を下げるような真似を、彼女も望まなかっただろう」

「けど、あの時はそれが正しいと思っていた、と」

「……結局、彼女が死んだ理由はわかっていない。けど、その引き金を引いてしまったのは紛れもない自分……だから、後悔していた」


 そこまで言うと、ナーゲンはセシルに目を向けた。


「……セシルにも、申し訳ないことをした」

「僕は、不快感を抱いているわけじゃないですけど……でも、ああやって言い募る姿は、見たくなかったな」

「そうだな……もう、あんな過ちは犯さないようにする……エリッカのためにも」


 目を伏せるナーゲン……そして、


「自分では立ち直っていたつもりだったんだが、どうやら思った以上に傷は深かったようだ……すまない、もう大丈夫だ」


 笑みを浮かべる彼は、セシルと視線を交わす。心の深層部分を知られることは普通嫌なはずだが、彼の場合は望まぬ形であっても、もう一人の弟子であるセシルに対し吐き出したことで、少しばかり心が楽になったのかもしれない。


「それで、状況は?」


 ナーゲンが問う。そこからルルーナが代表して状況説明を始め、彼は唸った。


「ふむ、幻術か……相当厄介だな。さらに言えば、五人しか魔王と戦うことができないというのも、また辛いところだ」

「ナーゲンさんはどうします? その五人の中に入りますか?」


 問い掛けてみると、ナーゲンは「考慮には入れよう」と答えた。


「私は魔王に傷を与えることはできない……どうするかは救出したメンバーを踏まえ、考えればいいだろう」

「わかりました……これからナーゲンさんはどうします?」

「そうだな……ひとまずどれだけ幻術から脱したか確認してもいいんじゃないかい?」


 その提案に、俺は「わかりました」と応じ、一度エントランスまで戻ることにした。

 全員が揃って歩を進めていると、別の部屋の扉が開いた。中からは――


「ロサナさん」

「ああ、レン。救い出せたようね」

「おかげさまで」


 ロサナの言葉に、ナーゲンが応じる。すると彼女は、小さくため息をついた。


「ごめんなさい、ここにいる騎士を救おうとして、私と同行していた人が魔法を使ったのだけれど、失敗した」

「そうですか……」


 自力で抜け出す人もいる以上、余裕はあるはずなのでで大丈夫だとは思うが。


「俺達は一度他の面々と合流しようと思っていたんですけど」

「あ、そうなの。それじゃあ追随しようかな」


 というわけで、ロサナも同行し俺達は入口近くに。そこには相変わらずグレンやフィクハ。さらにイーヴァの姿。

 他に何かあったかとグレンに尋ねてみたが、ロサナ達が自力で出てきた以外は何も変化がないとのことだった。


「ふむ、まだ捕らわれている仲間も多い……早く助け出さないと」

「とはいえ、無闇に行動して解決するというわけでもないからね」


 セシルが言う。それはそうなのだが――


「レン、ここは少し休憩しなよ」

「休憩?」

「最初からずっと活動しているだろ? 幻術世界に入り込んでも大して時間は経過しないにしても、最初からやっている以上疲労があってもおかしくない」


 指摘され、俺は自分の体に質問してみる。それほど疲れてはいないが……ただ、色々な人の心に触れ、精神的な疲労が生じているのは事実だろうか。


「レンも残り一度しか魔法を使えない……ここは他の面々で見て回ることにするよ」

「……なら、お言葉に甘えさせてもらうかな」


 俺は告げると壁にもたれかかって座り込む。そこからセシルやロサナは話を始め……メンバーがセシル、ロサナ、そしてナーゲンの三人に決まる。残りのルルーナとノディは城の中を再度確認することに決まり、俺が見守る中で全員が行動を開始した。


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