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謝罪と本音

「申し訳ありませんでした」


 いの一番に、リミナは頭を下げた。


「その……敵の力量を把握せず猪突猛進して、結果的に勇者様にお怪我を……」

「ああ、いや」


 俺は首を左右に振る。

 結果的に見ればその通りなのだが――経緯を考えると仕方ない気もする。


「本当に、申し訳ありません……」


 もう一度リミナは頭を下げ、俺を見た。どこかすがるような目つき。


「リミナ、質問に答えてくれないか?」


 視線に対し、俺はそう告げた。


「え、あ、はい」

「じゃあ訊くけど……夕食時の俺とクラリスの会話、聞いていたよな?」


 ――リミナはビクリと体を震わせる。アミュレットの一件で推測できてはいたが、ようやく確定した。


「あ、あ、あの……」

「あれについては、クラリスの冗談だよ。本心で言ったものじゃない」


 まずはそこを訂正。リミナは口を閉ざし、続きを待つ。


「そして……はっきり言っておくけど」


 不安しか見られない彼女を表情をしっかりと見据えながら、決然と言った。


「俺の従士は……リミナ一人だよ」


 告げた言葉に――リミナは目を見開きこちらを凝視する。


「……勇者、様」

「それだけは、間違いないよ」


 はっきりと言う。他にも言いたいことはあったのだが、どうにも要領を得ずその点にしか言及できなかった。

 もしこれで安心してくれればと思ったのだが、リミナは目の色を悲しい物に変え、尋ねてくる。


「ではなぜ……私には相談してくれなかったんですか?」

「相談?」

「遺跡における、あの人に対しての感想などです」


 弱音の部分か。俺はなおもリミナの目を見ながら話す。


「それは……リミナは俺のことを勇者として、絶対的な信頼を置いてくれているだろ? その、俺としては弱音を見せることで失望されるんじゃないかと思って」

「そんなこと……ありません」


 首を振り否定するリミナ。さらには瞳から涙が零れ始める。


「私……もしかして勇者様に重荷を負わせてしまっていたんですか?」

「それは……」


 ゼロとは答えられなかった。信頼を裏切りたくないという感情は少なからずあった以上、そこは否定しようもない。


「そうだな、多少なりとも」


 だから正直に答え、リミナの顔を見ながら続けた。


「でも、共に旅をする上では当然だろ? リミナだって、記憶喪失である俺のことを色々と気に掛けている。リミナはそう思っていないかもしれないけど、これだって十分重荷になっているはずだ」


 一度言葉を切る。そしてズボンのポケットを探る。

 取り出したのは、あのアミュレット。襲撃があるということから、現場に急行する途中でポケットに入れたのだった。


「あ……」


 リミナが声を上げる。アミュレットを見て、驚いた。


「そ、それ……どこで?」

「部屋の前に落ちていたよ」


 口上から今の今まで落としたことも気付かなかったのだと理解する。きっと会話を聞いて錯乱したためだろう。


「これ、俺に渡そうとしていた物だよな?」

「……はい」


 リミナは袖で涙を拭い、答える。


「そのアミュレットは……魔力の一時強化と、収束を補助する役割があります」

「一時強化はわかるけど、収束?」

「魔力が拡散していたので、それを一まとめにすれば、元通りになるかと思いまして」


 リミナは言うと、途端に俯いた。


「けれどクラリスから詳細を聞いて……制御できていない現状でこれを使っても、強化した分の魔力がさらに拡散させるだけだと結論付け、渡すに渡せなかったんです。でも、今回の戦いで少しでもお役にたてればと思い……」

「これ、いつ買ったんだ?」


 純粋な疑問を投げかけると、リミナはなおも俯きながら、


「図書館に行くと勇者様に申し上げた時です」


 と言った。

 ああ、なるほど――リミナも俺と同じように動いていたのか。


「……そっか。同じだな」


 俺は苦笑した。そこでリミナは小首を傾げ、こちらを窺う。


「同じ、とは?」

「俺さ、リミナから記憶を失う前の話を聞いて、何かお礼でもしなきゃと思って、街を回っていたんだ」

 ちょっとばかし照れながら話す――対するリミナはびっくりしたようだ。


「え……私に……?」

「ああ。記憶を失う前の俺には何か理由があったのかもしれないけど、今はリミナに助けてもらってばかりだからさ……俺には従士が必要だし、何か形になる物を贈りたかった。で、クラリスが現れて協力を取り付け、色々理由をつけて物を探そうとした……その前に、この仕事が入った」


 俺は再度苦笑し、それを先ほどよりも深めながら話し続ける。


「誤解を招いたのは謝るよ。こちらこそ、ごめん」

「いえ……そんな」


 謝罪にリミナは首を振ると、さらに姿勢を正し俺に訊いた。


「私は……勇者様の傍にいて、いいんですよね?」

「ああ」


 はっきりと答えた。

 その瞬間、リミナは()き物が落ちたかのように表情が穏やかなものに変わる。そして一度頭を下げ、顔を上げた時、


「……これからも、よろしくお願いします」


 満面の笑みで、俺に告げた。


「こちらこそ」


 俺もまた笑いながら答え――次に生じたのはノックの音。


「はい」


 俺が応じると扉が開き、クラリスが顔を覗かせた。


「まだ話し合いの途中?」

「終わった所だよ。どうした?」

「王子から連絡。朝まで二人は待機だって」

「朝まで?」

「うん。朝になったら色々と動いてもらわなければならないって」

「そっか」


 俺達が戦っている間に、目的を知る手掛かりを見つけたのかもしれない。


「クラリス、了承したと伝えてくれ」

「オッケー」


 彼女は扉を閉める。再び二人となり、リミナは改めて話し出す。


「勇者様は休んで下さい。私は見張っていますから」

「……いや、さすがに」

「休んで下さい。お怪我をしているんですから。外には兵士の方もいますし、異常があればすぐに起こします」


 有無も言わせぬ雰囲気。けれどどこかリミナは晴々とした顔つきで、以前とは大違いだった。


「……わかったよ。じゃあお言葉に甘えて」

「はい」


 俺は返事を聞くと目を(つむ)る。

 さすがにすぐとまではいかなかったが、それでも体が眠気に満ちていく。


「……ありがとうございます、勇者様」


 完全に眠る寸前、リミナの言葉が聞こえた気がした。けれどそれには答えられず、意識は闇へと沈んでいった――

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