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戦いの結果

 ノディと共に現れた面々に視線を送ろうとしたが、一際大きな金属音が聞こえ、慌てて視線を戻す。

 セシルがエリッカを押し返しているところ……とはいえ、彼女だって体勢を崩したわけではない。


「話通り、互角というわけ?」


 ノディの声ではない。けれど聞き覚えのある女性の声。


「……ロサナさん」

「ええ」


 一瞥すると、彼女に加え隣には見慣れない騎士の姿。どうやらさらに二人、自力で脱出したらしい。


「簡単に事のあらましは聞いたわ。セシルを勝たせるらしいわね?」

「はい」

「セシルがどんな風に考えているかは知らないけど、魔法を一度使って、というのは多少なりともリスクとなる……けど、こうやって私達も抜け出した。ここはセシルの意見に従い、魔法を使いましょうか」


 ――言葉と同時に、今度はエリッカが押し返した。セシルは多少後退したが、彼女と同様体勢は崩さない。

 両者は完全に互角……ここまではセシルの語った通り。けれど現実ではその内セシルがエリッカを押し始めるはずだった。


 それがあるのかどうか……考える間に、闘技場にまたも人影。セシルだ。


「本人の登場か」


 ルルーナが言う。そしてセシルが近づいた時、俺に向け口を開いた。


「ここまでは状況がまったく同じだ……このままいくと、僕が押し始めることになるんだけど……」

「どうだろうな」


 ルルーナは呟きながら戦いに視線を送る。本来ならば闘技場の中に入り間近で観戦するなんてありえない状況……しかも大人数が幻術世界に入り込んでいる状況。奇妙この上ない。

 考える間に、セシルが仕掛ける。エリッカは迎え撃つ構えを見せ――なおかつ、セシルの一撃を受け、僅かに顔を歪ませた。


「お?」


 ロサナが呟くと同時に、セシルが押し込んだ。その時、


「この時点で、僕はエリッカの上をいっているのでは――そう思いながら剣を振っていた」


 現実のセシルが言う。となると、ナーゲンは――


「こうなってくると、僕が勝つ流れになるのか……その場合ナーゲンさんはどういう風に望んだ世界にするのかが気になるな……」

「最後の最後でエリッカが逆転、という可能性は?」


 ルルーナが質問。セシルは押し始めた幻術世界の自分自身を見据え、答える。


「ゼロではないと思う……けど、僕が剣を振った流れをそのまま踏襲しているみたいだし、こうなってくると――」


 彼が答える間に、一際大きい金属音が響いた。エリッカは数歩たたらを踏み、同時に険しい顔を見せる。


「さすが、ね」


 不敵な笑みを浮かべ彼女は言う。だが俺の目からは、苦し紛れのようにも見えた。


「どうする? 介入するのか?」


 現実世界のセシルにルルーナは確認を行う。彼女の言う通り最後の最後でという可能性も十分あり得るが……けど、そうなると一瞬の判断ができる人物が干渉する必要がある。

 その判断ができそうなのは、戦いの流れを知るセシル本人か、あるいはルルーナやロサナか……戦い自体どうやら終盤に差し掛かっているようなので、ここで決断をしなければならない。


「……このままいこう」


 やがて、セシルは決断した。


「城側は元々僕を城に特例として入れるよう目論んでいた……それはきっとナーゲンさんも理解しているはず。となれば、この幻術世界でエリッカが認められるためには、僕に対し圧倒的な力を見せつける他ないと思うことだろう」

「それができていない以上、現実通りに話が進むと?」


 俺が質問するとセシルは頷いた……が、疑問は残る。


 この世界はあくまでナーゲンが望んだ世界のはず。となるとおそらく彼としてはエリッカが死なない世界を望んでいるはずで――そうか、もしかして現実通りの流れから、彼女を救うという話になるのか?


「これは、もう少し調べてみないとわからないな」


 さらにセシルが言う。


「ナーゲンさんを救うには、ナーゲンさんがこの幻術世界で何をしようとしているのかを明確にしないと難しそうだ……」

「これ、目覚めさせるにはどうすればいいと思う?」


 俺が再度質問すると、セシルは難しい顔をした。


「この幻術世界はナーゲンさんが望む世界……後悔の度合いが強いのであれば……シナリオ通りにいくとすると……」

「目論見を邪魔するか?」

「それも一つの方法かな……さて」


 セシルが呟いた時、さらにセシルが押し始める。見た目は互角といった感じなのだが、俺にはわかる……エリッカが劣勢。少しずつ、セシルの剣戟についてこれなくなっている。


「……私達は、出番無さそう?」


 ロサナが問う。そこで俺達は互いに目を合わせ、


「ここは私達に任せてもらおうか」


 ルルーナが述べた。それにロサナは「わかった」と短く答え、


「私は、別の人について調べることにするわ……ここは、頼んだわよ」

「任せてくれ」

 セシルが応じると、ロサナは騎士と共に歩き始めた。


 同時、剣戟の音が止んだ。見ると、両者は多少距離を置き、睨みあっている状況だった。


「次の一撃で、決まる」


 セシルが言う。俺は無言で戦いの様子を確認。これで決まる――ゴクリとつばを飲み込み、この戦いの結末を見守る。そして――

 セシルが走った。エリッカもそれに応じるように駆ける。両者は魔力をありったけ込め、全力の一撃を放った。


 セシルは動かない。その時の光景と同じであり、結果が見えているからだろう――

 次の瞬間、金属音と共にエリッカの剣が弾かれ、地面に落ちた。そして幻術世界のセシルはエリッカの首筋に剣を突きつける。


『――勝者、セシル!』


 実況の声。歓声が上がり、セシル――いや、双方を称える声が、闘技場内に降り注いだ。


「……ここからも、二手に分かれよう」


 セシルがエリッカ達を見据えながら俺達へ告げた。


「二人一組で行動し、ルルーナとノディはエリッカを観察。そして僕とレンはナーゲンさんを……もし何か変わったことがあれば、連絡を行うようにしよう……とはいえ、今日の内はまだエリッカも死ぬことはない。夜まで待っても情報交換してもいいかな」

「明日以降はどうする?」


 ルルーナが尋ねると、セシルは彼女を一瞥し、


「そうだな……行動を開始して一定時間おきに連絡役が集まることにしようか」

「その連絡役は、俺がやるよ」


 そこで俺が手を上げる。


「事情を知るセシルがナーゲンさんの傍にいる方がいいだろ」

「そうだね……そっちは?」

「なら私が」


 小さくノディが手を上げた。胸中複雑な心境を抱えているのは確実だが……この世界の状況を理解した事で、そちらに思考がシフトしたのか表情には現れていない。


「よし、それじゃあそういうことで……ここからは先ほど以上にエリッカに対し注意してくれ。ひとまず、夜の段階で僕の屋敷前集合でいいかな?」

「それでいいだろう」


 ルルーナは同意。よって、俺とセシルは移動を開始する。目的地は、ナーゲンのいた部屋だ。


「ここから、どうなるだろうな……」


 廊下を進みながらふと呟いた俺に対し、セシルは大きく肩をすくめた。


「ここからは僕自身どういう流れとなり、エリッカが自殺したのか不明瞭な部分もある……けど、ナーゲンさんが何か知っているかもしれない」

「ん、何か根拠があるのか?」

「こうやってエリッカが負ける展開となったわけだから、ナーゲンさんとしてはこの後起こった出来事に対し後悔している……みたいに思えないか? そうでなければ、普通にエリッカが勝った世界となるはずだろ?」

「ああ、確かに」


 ナーゲンはエリッカが自殺した原因がわかっていて、それを防ぐことが望んだ世界……そんな風に考えているのかもしれなかった。


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