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闘士同士の戦い

 セシルの考えた意見を参考に、俺はひとまずエリッカのいる側の控室へ急ぐ。

 そして部屋に入った。そこには、ルルーナとノディが待機していた。エリッカは闘技場へ繋がる道の前で待機しており、精神統一でもしているのか微塵も動かない。


「レン? どうし――」

「セシルから、伝言だ」


 ルルーナの言葉を遮り、俺は話し出す。

 試合が始まるまでそう時間は無い――だから俺は、急ぎエリッカが今後どうなるかを簡潔に伝える。


 その感想を先に吐き出したのは、ルルーナ。


「騎士を目指し、最後は自殺か……報われないな」

「ああ……で、ナーゲンさんを目覚めさせる手段として、どちらを勝たせるべきかを考えたんだが」

「どっちだ?」


 ルルーナの問い掛けに、俺は視線を合わせ、


「……セシルを、勝たせてくれ」

「それでいいのか? 根拠は?」

「エリッカが勝った未来の場合、予測もできないため対応が難しいというのが一つ。それに、もしこれがナーゲンさんの願望を含んだ世界なら、この試合はエリッカが勝つ可能性がある。それを阻んだ段階で、ナーゲンさんが違和感を覚えるんじゃないかという可能性もある」


 後者の意見については一考の余地もあるのだが……ともかく、セシルは予測できる展開の中で、対応する心積もりをした。


「どちらにしたって、ナーゲンさんを目覚めさせる可能性はあると思う。けど、セシルは現実世界に沿ったやり方で、対応するつもりみたいだ」

「なるほど、わかった。しかし、そうなると一つ問題があるぞ」


 ルルーナが言う……それは、俺もわかっていた。


「魔法の回数についてだろ?」

「そうだ。ここで介入を一度した場合、誰かが消えるわけだが……それでナーゲンが目覚める可能性は、どうやら低そうだ。とすると、この世界で二度、魔法を使うことになるというわけだな?」

「そういうこと……ルルーナは魔王と戦う以上魔法は使えない。俺は残り二回あるのを考えると、一回は俺でもいいかなと思う。自力で脱出している人もいるからさ」

「そうか……ところで、セシルは?」

「ナーゲンさん達の会話を聞いている。目覚めさせるための情報を集めているといった感じだ」

「なるほど……わかった。ただ、どう介入する?」

「セシルからどういう戦いの流れになるかはある程度聞いている……けど、現実に即した展開になるとも限らないんだよな」


 そこも大きく問題だった。セシルの話によると最初は完全に互角で、剣を打ち合っていたらしい。しかし徐々にセシルが押し始め、彼の剣戟がエリッカを大きく吹き飛ばす。その後両者は全身全霊の剣戟を放ち、エリッカの剣をセシルが吹き飛ばし、試合が終了とのことだった。

 ただ、その推移通りいかない場合は……間違いなく、エリッカが勝利する流れとなるだろう。


「もしエリッカが勝つ方向に戦いが進んでいく場合でも、セシルを勝たせる方向に持っていくとのことだった」

「ふむ、もし戦いの流れがエリッカに傾いたとしたら、そちらに持っていき魔法を節約するのも一つの手ではないのか?」


 ルルーナが質問を行う。それはそれでもっともな意見。


「確かにそうだけど、セシルとしては自分が勝った方がいいのでは、と思っているみたいだ」

「そうか……弟子であるセシルとしては、何か思う所があるのか――」


 言いかけた時だった。


 突如、どこからか魔力が生じるのを感じ取った――まるで、この幻術世界に直接干渉するような気配。


「ん?」


 ルルーナも気付いたらしく周囲を見回す。ノディも同様。

 俺も控室を確認するが、特に変化はない。


「今のは……?」

「この場にいる全員が気付いたらしいな」


 ルルーナが言う。次いで、


「もしかすると、この幻術空間に新たな人物が入って来たのかもしれない」


 推測を述べた……ふむ、そうだとしたらどうするか――


「私が確認してこようか?」


 今度はノディが提案を行った。


「今回、私はあんまり役に立ってないし」

「……いいのか?」

「うん。それじゃあ急いで確認してくる」


 ノディは俺が返答するよりも先に走り出す。もし誰かが入って来たのなら、ノディが説明するだろうし……とりあえず、大丈夫か。


「それでは、私達は私達で判断することにしよう……闘技の内容を見て、もし私達にとって望まぬ展開なら……魔法一回分を使用し勝利者を変えることにメリットがあるのか」


 俺は沈黙しつつ頷く……同時に、ノウェルの実況の声が聞こえてきた。






 やがて実況の声によりエリッカが闘技場に歩み始め、俺とルルーナは追随。闘技場へ出ても俺達のことに気付く存在はいない。変な感じだと思いつつ、俺は対峙するセシルとエリッカに視線を送った。

 歓声が上がる中で、セシルとエリッカは同時に剣を抜く。セシルは二刀流だがエリッカは両手持ち。双方言葉を発することはない。


『――決勝戦、始め!』


 実況の声が俺達に降り注いだ直後、セシルとエリッカは同時に駆けた。一瞬で間合いを詰めた両者はまず出会い頭に剣を激突させた。

 途端に金属音が周囲に響き、歓声も生じる。両者の力はまったくの互角らしく、一時せめぎ合いをするが動かない。


「さすが……といったところね」


 エリッカが言う。するとセシルは口の端に笑みを浮かべた。


「こっちのセリフだよ……今日こそ、決着をつける!」


 声と共にセシルは後退。そこから、速さを生かした連撃を放つ。

 手数ではエリッカの方が不利ではないかと思ったのだが、彼女は的確に二本の剣を防いでみせる。


 どうやら魔力強化を施し、セシルを上回る反応速度を獲得している……両者が訓練により常日頃打ち合っているのは間違いなく、エリッカはセシルの攻撃を受けどの程度強化すればいいのかなども理解しているのだと俺は思った。

 一見すると手数で上回っているセシルを抑えるエリッカの方に軍配が上がるようにも思えるが……魔力強化に頼る以上、エリッカの方が先に消耗するのは間違いない。となれば長期戦となれば不利なのは彼女。


 それはエリッカも理解しているのか、剣速が次第に増していく。おそらく短期決戦に持ち込むつもり……だがセシルは乗らず、二刀流という利点を利用し、彼女を寄せ付けない。


「……さすがに、そう簡単には勝たせてもらえないか」


 エリッカは呟くと一度後退。対するセシルは追撃しなかった。

 両者は改めて対峙。ここまではセシルの語っていた通り互角だが……果たして、ナーゲンの幻術世界では展開が変わるのか。


「どうするんだ?」


 セシルが剣を構え直し問う。その表情には余裕の笑み。


「そっちの魂胆は理解できるし、僕だって馬鹿じゃない。どう動くかは、そちらも予測済みだろ?」

「そうね」


 エリッカはセシルの問い掛けに対し、頷いて同意。


「けれど、実力伯仲な状況である以上、取れる手もそう多くないのよね」

「さらに言えば、お互い手の内は知り尽くしているしね……やり方を変えるかい?」


 セシルが提案する――すると今度はエリッカが笑みを作った。


「いいえ……セシル相手なら、正面から打ち負かしたい」

「奇遇だね。僕も同じことを考えていたよ」


 セシルが返事――その直後、エリッカが仕掛ける。

 エリッカが攻勢をかけるのに対しセシルが守勢……だが、セシルだって隙あらばカウンターをお見舞いしてやろうという気配を見せている。


 やはり、実力は互角か……そんなことを思っていた時、俺はエリッカの控室に繋がる通路から、ノディを含めた数人の人影を捉えた。


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