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さらなる問題

 入口まで到着すると、まずはセシルが解説を始める。相変わらずノディに対しては微妙だったが……まあ、その内慣れるだろ。


「城はおそらく魔法で破壊されないように処置が施されているはずだ。加え、外の様子を窺う窓もない……上の方にはあるのかもしれないけど、少なくとも僕らが歩き回れるフロアにはないということで間違いないと思う」

「だろうな……で、セシルの策って?」


 問い掛けると、セシルは城の入口である両開きの扉をコンコンとノックでもするように叩く。


「僕らは魔法を使えないから、これをどうにかするのは無理……で、外からも破壊するのは困難だろう。これが破壊できたらどれだけ楽かとは思うけど……ともかく、現状こいつを壊す手立てはないと思う」


 セシルは手を扉から離すと、俺達を一瞥。


「そして物理的に遮断するだけでなく、結界のような魔力を用いて封鎖しているのは明らか……遮音しているだろうし、外側の音が聞こえてくる可能性は低いけど……例えば、建物に取り巻いている魔王城の魔力に干渉して、振動くらいはさせられるんじゃないかと、僕は考えた」

「ああ、なるほど。その点は私も失念していた」


 ルルーナが言う……まあきっと、彼女も自身の望みを知られテンパっていたのだろう。


「そうか、振動……なら、ジオは入口でそれを――」

「ということだよ。で、こうやって手を扉に当てる」


 セシルは解説しつつ手のひらを扉に押し付けた。


「魔力を振動させ、それが物理的な扉に干渉できれば、多少ながら反応があるんじゃないかと思ってね」

「で、それを確認するわけか……だが、果たしてそう上手くいくのか?」


 眉をひそめるルルーナ……俺はじっと扉を注視してみるが、反応は一切ないように見える。

 試しに俺も扉に近づき手を当ててみる……ジオがどこに転移されるのかわからないし、時間が掛かるのかもしれない――


「ん?」


 ふいにセシルが呟いた。何事かと口を開こうとした時、扉が少しばかり揺れた気がした。

 それは気のせいだったのかはわからないが……いや、魔王が俺達の行動を見てわざとそうしているという可能性もゼロではないが――


「どれ、私も試そう」


 ルルーナもまた手を当てる。そしてすぐに、彼女は眉をひそめた。


「ああ、なるほどな……多少ながら振動している。本来なら結界越しである以上振動なんて届かないはずだが……ジオの剣技は扉をほんの僅かに震えさせる、ということだな」

「これが、本当にジオの?」


 セシルが問うと、ルルーナは笑みを浮かべる。


「魔王の仕組んだこと、という可能性もゼロではない……が、今私の手先から感じているのは一定のリズムがある。私はルファイズ王国に出入りし、ジオとも多少ながら剣を打ち合った経験がある。そうしたリズムに非常に似ている。いくら魔王でも、そこまで真似するのは難しいだろう」


 少しすると振動が止まる……俺が感じられるのはあるかないかくらいの感触なのだが、それでもルルーナはこれがジオのものだと察したらしい。


「ひとまず、魔王の言葉は本当のようだ……魔法を使えば強制的に外へ出される……現状内外は遮断されている以上、この程度の情報が限界だろう」

「そうだな……じゃあ、仲間の救出を再開しようか」


 俺の言葉に一同頷き、歩み始める。そこで、玉座へ繋がる扉近くで作業をしているフィクハと、護衛をするイーヴァが視界に入った。

 見ると、フィクハは床に手を当て動かない。それをイーヴァが見守るような形……そっちに少しばかり興味はあったが、声は掛けず俺達は廊下に入る。


「ねえ、誰がどこに捕らわれているのかはわからないの?」


 ノディが問う。俺はそれに対し小さく頷き、


「ああ。なおかつ幻術世界に入っても誰なのかわからないケースもある」

「そっかぁ……」

「どうした?」

「いや、ちょっとね……」


 言葉を濁すノディ。首を傾げているとセシルが「まあいいじゃないか」と応じる。


「ひとまず、そこの部屋に入ろう。ここは光がある場所だよね?」

「ああ、そうだ」


 ルルーナが頷くと、俺を先導して部屋へと入る。

 そして幻術の光を見据え……って、え?


「あれ?」


 部屋の中央に、光が無かった。思わず眉をひそめ、俺はルルーナに確認する。


「ルルーナ……ここにはあったんだよな?」

「ちょっと待ってくれ……メモを取った時はあったはずだ」

「ということは、抜け出したのか?」


 俺は呟き、近くに騎士がいたため確認を行う。だが、


「いえ、そこから人は出てきませんでしたが……」

「……どういうことだ?」


 首を傾げる。視線を転じると、同じように首を傾げるセシル達の姿。

 念の為もう一度部屋に入り確認してみるが、やはりそこに光は無い。単純にルルーナのメモが間違っている、という可能性もゼロではないのだが――


「もしかして……」


 ルルーナが呟く。俺が訊こうとした時、先んじて彼女が話し始めた。


「これについては、幻術を自力で抜け出す者が出てくるか、それとも私達が救い出さないと判断のしようもない……だが、もし推測通りだとすると――」

「誰かを救い出す度に場所が変わる、ということかな?」


 推測をセシルが述べた。


「ルルーナのメモ通りなら、ここに光はあったはず。しかし今は存在していない……ということは、何かをきっかけにして光が移動した、という感じかな?」

「だろうな。助け出すごとに場所が変わるのだろう……とはいえ、疑問はある」


 くしゃりとルルーナがメモを握り潰しながら話す。


「先ほどイーヴァが自力で脱出した時、場所は同じだったはずだな?」

「言われてみれば……魔王が勝手にルールを変えている可能性もあるな。あるいは、偶然同じ場所だったか……」


 事情を知っているのは魔王だけ……魔王が唐突に出現しその辺りの説明をしてくるかもと一瞬身構えたが……来ない――というわけで、


「これまで順調だから、魔王が介入してきた可能性もあるな……ともかく、以後は光が入れ替わるというのを念頭に置くことにしよう」

「いいだろう……では、別の部屋に行くか」


 ルルーナの言葉に、俺達は移動を再開。後ろを歩くセシルやノディは会話も無く、背後から微妙な空気が漂う……なおかつ横を歩くルルーナも、俺達に露見したことを思い出したか微妙な表情。まあこればっかりは、仕方がないだろう。

 そして適当な部屋に入ると、光が存在。俺達は互いに目配せを行い、光の中へと入った。


 次に辿り着いたのは――


「まただね」


 セシルが言う。そう、彼の言う通り、またもベルファトラスだった。


「取り込まれている人物によっては、誰なのかわからない可能性が高い。場合によっては離脱することも考えて行動しよう」

「ああ」


 頷き、俺達は歩み出す……そこでこのベルファトラスを舞台にしている場合、相当厄介だと認識する。

 まず、誰なのかを調べないといけないのだが……なおかつこの場所に縁がある人は多いだろう。例えばナーゲンやマクロイド、さらに戦いに参加した闘士がベルファトラスを舞台にしている場合……確認するのも難しそうだ。


 そればかりではなく、今後光の位置が入れ替わるとしたら、入る度に誰なのか確認する必要が出てくるわけで……これはかなりしんどい上、判断するのも大変だと、心の底から思った。

 ともあれ、こういう状況下で俺達は行動していくしかない……顔を険しくさせつつも、俺は仲間達と共に幻想世界のベルファトラス内を歩み続けた。


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