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闘士の言葉

「ジオ、ちょっと待ってくれ」


 魔法を放つ前に、セシルが呼び掛ける。何かを思い出したような顔つきだった。


「僕は魔法を使用し外に出た後、無事かどうかを確認するためにちょっとしたことを行おうとしたんだけど――」

「ああ、そうか。言わんとしたことはわかった。そして、セシルがやろうとしたこともな」

「なら、魔法を使った直後、試してくれないか? 場所は城の入口だ」

「いいだろう」


 ジオは言うと笑みを浮かべる。セシルが「頼んだ」と短く告げると、彼は頷き返し、改めてノディを救うために行動を開始する。


 幻術世界に取り込まれているノディは、相変わらず幻術内のセシルと共に露店を見回っている。そこでゆっくりと近づくジオ。ノディからは見えないのだが……おそらく、タイミングを窺っているのだろう。

 残る俺達三人はジオの行動を見守る……唯一セシルだけは相変わらず微妙な表情をしているが、無言には徹している。


 周囲からは人が作り出す雑音……その中でジオは剣を構え、意識を集中させたのか動かなくなった。

 ノディは別の露店を物色している……位置的に俺達はそれを横から眺めるような形。さらに彼女の左隣に幻術世界のセシルがいる。


「――いくぞ」


 ジオが呟く。それと共に一瞬だけこちらに首を向ける――おそらくそれはセシルを一瞥したものだろう。先ほど話したことを忘れるな……そう言いたいのかもしれない。


 刹那、ジオの体が前へと動き、斬撃が繰り出される。その狙いは――ノディの腰にあるリデスの剣。

 薙ぎ払われるように放たれたジオの斬撃。それが魔法の効果によって幻術に取り込まれたノディの――腰に差したリデスの剣に、触れる。


「っ!?」


 ノディが短く声を上げた。目論見は成功。剣は腰から離れ、地面に。さらに滑るように剣が彼女から離れ、大通りの真ん中で止まった。


 そしてジオの体が光と共に消え――それを見送った直後、


「どうした?」

「さあ……」


 幻術世界のセシルによる問い掛けに、ノディは首を傾げた。


「何もしていないの……人に当たったのかな?」

「拾ってくる」


 こちらの理想通りセシルが剣へと歩み寄る。剣に近づきそれを拾い上げ、ノディの所へ戻ろうとする。


「……あれ?」


 その時、ノディがセシルを見て声を上げた。


「成功、かな」


 セシルの呟き。後は、ノディが自力でどうにかするしかない。


「セシル、その剣……」

「ん? リデスの剣だろ?」


 そう言ってノディに差し出す。その姿に違和感を覚えたのか、ノディは固まった。

 これは間違いなく……思っているとノディはゆっくりと、天を仰いだ。


「……馬鹿みたいね」


 そうした言葉を吐いた。ここが現実ではないと悟った明確な言葉。

 同時にノディは幻術世界のセシルに目を向ける。


「いらない。それはセシルのものでしょ?」

「え?」


 相手が聞き返した直後、ピシリと音がなった。これで彼女も解放――そう認識し、俺達は光に包まれる。

 気付けば魔王城の廊下。俺は小さく嘆息すると共に、セシルに問う。


「で……どうするんだ?」

「少し待つよ」

「俺も、事実を知ってしまった以上、謝るよ……黙ったままという選択もあるけど、それが後でバレたら大事になりそうな気もするし」

「同じく」


 ルルーナも同意。よって三人でノディが出てくるのを待つことにしたのだが――

 少し経っても出てこない。変な沈黙が生じ、しばし扉を凝視する。


「……もしや、誰かが介入したことに気付いたのかもしれないな」


 やがてルルーナが呟いた。


「あれだけ剣が盛大に吹き飛んだ以上、誰かに見られていたという可能性を考慮したんだろう」

「だから部屋の中で頭を抱えていると」

「そうだと思う」


 こちらの言葉にルルーナが頷いた時、ようやく部屋の扉が開いた。やがて部屋の中から外の様子を覗くようにノディが顔を見せる。

 で、俺達と目が合った時、


「うわあ……」


 頭を抱えた。セシルを見ての反応だ。


「えっと、その、ごめん」


 俺が謝ると、続いてルルーナが解説を行う。


「事情は理解しないまでも、どういうことがあってこうやって戻って来たのかは、理解しているようだな」


 ルルーナはそう語ると、咳払いをしてから改めて語る。


「えっとだな、私としてはすまなかったと思っている。本来ならば自力で抜け出すのが一番いいと思ったのだが……ノディの場合は他の者と違い魔族の血を持っている。だからこそ放置していると、何か異変が起きるかもしれないと思った……だから――」

「ああ、うん。わかった」


 ノディは淡泊な返事をした後、部屋を出て扉を閉める。そして複雑な表情を、セシルへ向けた。


「……えっとですね」

「先に言っておくけど、僕は茶化す気なんて一切ないからね」


 セシルの言葉にノディは押し黙る。冗談でした、などと言うこともこれでできなくなった。


「経緯とかも別にいいや……答えについてはこういう場だからすぐに言えない。けど、この戦いが終わったら僕の気持ちをきちんと伝える」


 明言かつ、至極冷静なセシルの言葉……なのだが、俺としては感情をできるだけ排し、内心の動揺を悟られないよう演技をしている風にしか見えない。


「……わかった」


 ノディはセシルになおも複雑な視線を向けつつも、頷いた。

 この二人についても、ひとまず保留といったところか……まあすぐに結論を出すのなんて無理な話だろうけど。


 しかし、ノディが……心の中で呟いた時、ルルーナが口を挟んだ。


「さて、思う所はあるだろうが……ノディ、話を進めさせてもらうぞ」

「う、うん」

「あ、その前に一ついいかな」


 セシルが手を上げる。ノディは何事かとちょっと身構え、それに対しセシルは小さく息をつく。


「そう反応しなくてもいいじゃないか……」

「そ、そうなんだけど……」


 なんだかぎこちない……のは仕方がないか。


「えっと、ノディに対する説明に関しては歩きながらするとして、ひとまず入口に向かいたいんだけど」

「ジオがやることの確認か?」


 ルルーナの問いにセシルは深く頷く。


「どうやら僕のやろうとしていることを理解していたようだから……それで外側が問題ないかを確認しようじゃないか」

「……わかった。いいだろう。他の二人もいいか?」


 彼女の問いに俺とノディは同時に頷き、歩き出す。


 ノディに対する説明については、ルルーナが彼女と共に前を歩きながら行う。その間ノディは普段と比べちょっとばかりリアクションが大きい気がしたのだが……まあきっと、先ほどまでの会話を無理矢理感情を出して忘れようとしているのだろう。


 俺は何も言わずそうした光景を見やり……ふと、セシルを見た。彼はノディに視線を送りつつ、先ほど彼女が見せたような複雑な表情を顔に出していた。


「……さて……どうしよう……」


 小声。ノディには聞こえないだろうが、俺にはきっちり聞こえた。

 まあ、唐突にああいうことを知ったのならば仕方のない反応だと思うけど……ともかく、セシルは結論を出すと言ったわけだし、さらにジオからの言葉もあるので逃げることは許されない。


 ここは頑張ってくれとしか言いようがない……魔王城の中でこんな呑気に考えていいのかと内心ツッコミを入れたくなるのだが、この辺りも魔王の計略なのかもしれない。心の内を知ることで、俺達の関係に変化を与える。実際セシルとノディはちょっとばかり微妙な空気。こういうことが、魔王などとの戦いに支障をきたす可能性も、ゼロではない。


 ま、どちらにせよ俺は部外者だし、セシル達に任せるしかない……そんな風に考えていると、俺達は入口に到着した。


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