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新たな脱出者

 その後、俺達は廊下を歩き回り……結果として最初の廊下に戻ってきた。構造としては魔王城の入口付近をぐるりと一周、円を描くようにして歩いた感じだ。


「ふむ、光の数と人数は一致しているな……現状の階層に全員捕らわれていると考えていいだろう」


 ルルーナはメモの内容を呟く。俺はそれに頷きつつ、彼女に言及。


「で、これからどうしようか?」

「ひとまず適当な光の中に入り、適宜判断していこう。もし魔法が必要ならセシル、貴殿が魔法を使用することになるだろうが、それでも構わないか?」

「今の所グレンと二択だけど、僕でいいの?」

「私個人としては、そう変わるものではないと思うが。戦うメンバーは五人中三人が決まっている。残る二人は……」

「ま、わかったよ。魔法を使うのが早いか遅いかくらいの違いしかなさそうだ」


 セシルはそう言うと、こちらに視線を向ける。


「干渉するということになったら、僕がやるよ。ただ、本当に外に放り出されるかどうかは一考の余地があるだろ? その辺り、確認したいと思わないかい?」

「何か手があるのか?」


 問うと、セシルは意味深な笑みを浮かべた。


「まあ、そう変なことをするつもりはないよ……僕が魔法を使って転移したら、入口の近くで待機してもらいたいんだ」

「それで、何をするんだ?」

「あの扉を破壊することは、まあ無理だと思う。そして結界によって内外は完全に遮断されている……けど」

「けど?」


 聞き返すと、そこでセシルは言葉を止める。


「これ以上は魔王に聞かれているだろうから、やめとくよ。とりあえず、入口近くで待機しておくこと。あと、扉に対し手を触れてくれれば完璧だ」

「なんだかよくわからないが……わかったよ」

「何か反応があったのなら、僕やアクアさんは無事だったということで」


 セシルはそうまとめ、俺達は行動を再開。歩き回った結果、多少ながら時間を費やした……まだ急ぐ必要はないと思うが、できればミスなく救出していきたいところだ。

 やがて俺達は適当な小部屋に入り、光の中へ――抜けた先には、見慣れない村が見えた。


「さて、誰かな?」


 セシルは周囲を見回しながら村へと歩く。一方俺とルルーナは周囲に人がいないかを確認しつつ、彼と同様歩を進める。

 村に入り辺りを見回すが……あいにく、幻術に捕らわれたと思しき人物は見当たらない。いや、会ったばかりの人間だったりすると俺も顔を憶えているわけじゃないので判別がつかない。そうなるとお手上げなのだが――


「ふむ、鍵らしきものが先に見つかったな」


 ルルーナが呟く。その視線の先は村の中央付近……見ると、噴水らしきものがあった。

 小さな村には場違いな大きな噴水。さらに言えばそれからはっきりと魔力が感じ取れる。


「となると、あれが鍵なんだろうな」

「そうだろう。こうした大きい物が鍵となる場合もあるというわけか」

「幻術に取り込まれた人間の思い入れのある物や人みたいだから、大きさとかは関係ないんだと思う」


 俺の言葉にルルーナは頷いて同意。そこで辺りに目を向ける。

 噴水周辺は村の中心に位置する場所らしく、噴水の近くで村人達は挨拶をし、なおかつ会話などを行っている。さらには子供が走り回る姿なのも散見され、平和そのものと言ってよかった。


「それらしい人は、いたか?」


 俺は二人へ問い掛けてみるが、双方何も答えない。


「駄目か……とりあえず鍵についてはわかったから、この場所の詳細をメモしておこう」

「他に幻術から解放された人間を救い出し、その人達に聞いてみるしかないだろうな」


 ルルーナは言う。俺は「だと思う」と返答し、セシルへ目を移す。


「今の所、わからないね」


 肩をすくめる彼。ならばと、俺は一度引き上げることを二人に告げようとした。


「……ん?」


 その時、ルルーナが声を上げた。見ると、道の一点を見据えている。


「どうした? 誰かいたのか?」


 問い掛けるが、反応はない。視線の先には、道の真ん中ではしゃぐ子供の姿があったのだが……何か、わかったのか?


「ルルーナ?」

「……ああ、いや。すまない」


 こちらの言葉に彼女は少しして声を上げる。


「もしや、と思っただけだが……確証も持てないので、まだ言及することは控える」

「そっか。何かわかったら俺に言ってくれ」

「わかった」


 ルルーナが了承し、俺達は元来た道を引き返す。そして光を抜け、魔王城へと戻る。そこからまた別の部屋へと入り込んだのだが――そこでは、人の姿はおろか鍵すらも見つからない。

 見覚えのある人物がいたのならば、まだ探しようもあったのだが……これではどうにもならないので、また戻ることにした。


「うーん、煮詰まってきたなあ」


 ルルーナがメモを取る間にセシルがコメントする。


「さっきといい、ここといい……」

「いや、これまでが上手くいきすぎていた、というのもあるだろうな。連続で仲間を救い出せたというのは、幸運だったんだろう」


 二回連続で誰なのかもわからないというのは焦りそうな状況だが……ここで下手に焦ってもロクなことにはならない。


「まだ時間はある……幻術内についてはまだ全て見回ったわけじゃないし……すぐにわかる仲間だっているだろう。そういうとことから、少しずつやっていくしかない」

「そうだけどさ……」


 と、セシルは廊下を見回した後、俺へと告げる。


「仲間内で捕らわれている人間もまだまだいるな……全員大丈夫かな?」

「リミナやノディは普通の人と比べて魔力量も多いから大丈夫だと思うけど……案外、自力で脱出するかもしれないぞ」

「そうかもね……けど、僕らが干渉しないと抜け出せない場合――」


 そこでセシルは、俺のことを凝視した。


「どうした?」


 首を傾げ問い掛ける。対するセシルは憮然とした表情。


「いや、ほら。例えばリミナさんの内面に触れることになるわけだろ?」

「……言いたいことはなんとなくわかる。仲間内で色々と心の内を覗くのは、こっちとしても罪悪感がある」


 フィクハやグレンに対しても少しばかり申し訳ない……俺は別に話してもいいし、セシルも似たようなものだが、だからといって他の仲間がいいというわけではないし、実際フィクハなどについては踏み込んではいけない領域に到達してしまったような気もしている。


「その辺のことについては……やっぱり全て終わってからにしよう」

「ま、そうなんだけどね……今回の戦いの後、厄介そうだ」

「まだシュウとの戦いがある。気を引き締めてくれよ」

「もちろんだよ」


 セシルは頷くと、別の部屋を指差す。


「あそこに入ろう」

「了解」


 俺は言葉を受け中へ入ろうと歩む。その時――


「ここにいたか」


 声がした。俺達が一斉に振り返ると、そこには、


「ジオか」


 ルルーナが言う。そう、ルファイズ王国騎士団のジオが立っていた。


「貴殿も抜け出せたようだな」

「ああ……どうにか自力で」


 頷いた彼の表情や声音は力強い。身体的にも大丈夫そうだ。


「他の面々から説明を受け、君達の援護をと言われたんだが……」

「ああ。お願いする」


 ルルーナの言葉にジオは頷くと、セシルへと視線を移す。


「魔法を使うのは……私か君だな?」

「どちらかというのは、適宜考えていけばいいんじゃないかな」


 セシルの言葉にジオは「そうだな」と同意し、扉に目を向ける。


「さて、次の部屋を物色しているところみたいだが……当てはあるのか?」

「まだ全ての幻術を見て回ったわけじゃないから、まだ適当だよ」


 そう俺は言いつつ、扉を指差す。


「入ろう」


 ――その言葉と共に、俺達は次の幻術世界へと入り込んだ。


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