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思わぬ理想

 どの部屋に入るか歩いている間に、見慣れない騎士の一人が幻術を突破し部屋を出る姿を目撃する。俺達はすぐさま駆け寄り事情を説明。俺達が光の中に入っている間、他に突破する人が出ないとも限らないので、説明役として待機してもらうことになった。


「今の所脱出できたのは六人か……順調なのかもしれないけど、ペース的にはどうなのかな」


 セシルは言いつつ、近くにあった扉を開ける。


「ここはハズレか……レン、鍵についてある程度明確にわかればアクアが魔法を使う。そうでなければ一度保留ってことでいいのかい?」

「それでいいと思う……正直、鍵が何なのかについては確実なことが言えないから、どうやっても賭けには違いないわけだけど……」

「鍵について、一つ考えがあるわ」


 アクアが言う。俺は興味を抱き彼女に聞き返す。


「考え?」

「鍵が魔力を発しているかどうかについて断定的なことは言えないけど……もしかすると、幻術に取り込まれている人物の魔力量に関係しているのかもしれない」

「魔力量……アクアの場合はあんまり魔力がなかったから、鍵も魔力が薄かった、ということか?」

「そう」


 うーん、断定できないけど……アクアの魔力量を勘案すると、あながち間違いとも言えないかもしれない。

 まあ、アクア以外のメンバーについては少なからず魔力が感じられたということも事実だし、彼女が語った通りかもしれない……思いつつ、俺達は別の部屋へ。そこには光。よって俺を先頭にして足を踏み入れる。


 視界が白く染まり――やがて見えたのは、草原だった。


「またずいぶん人気のない所だな……」


 けど、こうなると誰なのか特定しやすいかもしれない……そんな風に思いつつ俺は歩み始める。すると、


「あ、ちょっと待って」


 アクアが言う。何を、と思った時、後方から(とき)の声が聞こえてきた。


「後ろか」


 俺は振り返り、正面にある幻術の光を避けつつ歩むと……戦士団の姿が見えた。

 それも、戦士同士が戦っている……どうやら演習らしい。


「ルルーナか、カインかな」


 俺は戦士の顔を見てそう呟く。遠目でもわかる。見覚えのある人物ばかりだった。


「ふむ、二択か」


 セシルは腕を組み、思考し始める。


「演習、ということはそれぞれの陣営にルルーナやカインがいるわけだろ? なら、双方調べてみて魔力が感じられるかどうか見ればいいんじゃないかな」

「そうだな……アクアさん」

「私もそれでいいと思う」


 彼女も賛同したので、俺達は歩き出す。陣営的には俺達から見て右側がカイン。左側がルルーナの戦士団だ。

 捕らわれた人としては、戦士団として活躍したいという願望が存在するのだろうか……そんな風に推測していた時、俺達の目の前にとある人物の姿……カインだ。


「ふむ、今回は互角のようだな」


 カインは呟いたと同時に立ち止まる。さらにはルルーナの姿も現れ……カインを右、ルルーナを左として並び立った。


「こちらは以前は負けてしまったが、今回は調子が良いようだ」

「の、ようだな」


 会話をする二人。うーん、こうなってしまうと、果たしてどちらが捕らわれているのかわからない。

 双方の拠点に向かい、鍵について調べた方がいいか……そう思った時、


「……レン」


 セシルが俺を呼んだ。


「僕、とんでもないことに気付いたんだけど」

「え?」


 もしや鍵を――そう問い掛けようとした時、今度はアクアも声を上げた。


「あ、嘘……」

「二人とも、どうした?」

「レン、よく見てくれ。特に手の辺り」


 セシルが指摘するので、俺は二人の手を注視する。両者共自然体なので後ろ側からもだらりと下げた双方の手がよく見えた。

 その中で、太陽光に反射して輝く物を発見。それを注視すると、指輪だった。


 なおかつ二人とも右手の薬指――異世界であるこの場所でも、指輪は結婚などの意味合いを持たせることがある。しかし場所は元の世界と違う。この世界の場合、結婚指輪は右手の薬指――


「……は?」


 思わず、間の抜けた声を上げてしまった。


「これは……どう解釈したらいいんだろう」


 セシルが呻くように呟く。するとアクアがひどく冷静に彼へと応じる。


「どう解釈も何も……一つじゃないかしら?」

「……アクア、何でそんなに顔を輝かせているんだ?」


 俺は顔を見ながら尋ねると、彼女は自身の表情に気付いたかはっとなった。


「あ、えっと……ごめんなさい。そうよね、人の心を覗き見て笑うなんてダメよね」

「……そう言いながらも、表情はあんまり変わっていないよ」


 俺の指摘にアクアはとうとう俯いた。反省はしているようだが、笑いは止められないらしい。


「ご、ごめんなさい。まさかこんな展開だとは思わなくて」

「これ、ルルーナかカインのどちらかって判断していいのか?」

「いいんじゃないかな。結婚指輪から魔力が漂っているし」


 俺の質問にセシルが指摘。よくよく見ると……確かに、指輪から魔力が発せられている。ちなみにその指輪はルルーナがはめている方。

 それを確認した後、俺は二人に問題点を提示する。


「問題は、果たしてどっちが取り込まれているのか……そして指輪にどう干渉すればいいのかだけど。すでに身に着けているから……」

「いや、それは簡単だと思うよ」


 セシルが言う。彼は指で指輪を示しつつ、


「あの指輪を破壊すればいいんだよ」

「え、破壊?」

「そう。突然結婚指輪が破壊されたら、どちらが捕らわれていようとも反応するはずだ」

「ああ、確かに」

「ならその役目は私が」


 アクアが手を上げた。顔は相変わらず笑っていたが……口調は真剣そのもの。


「指輪という小さな物を破壊するには、結構繊細な作業が必要だし……失敗できない以上、魔力制御の度合いが高い私に任せて」

「わかった。アクア、頼む」


 俺が言うとアクアは頷く。そして談笑するルルーナ達へ体を向け……口元に手を当てる。あ、また笑った。


「……アクア」

「ご、ごめんなさい……あ、そうだ。いくつかいいかしら?」

「何を?」

「魔王によると、私は魔法を使ったら外に飛ばされる……これについて真偽を確かめるのは難しいけど、魔王城自体に敵意はなさそうだしたぶん大丈夫でしょう……で、外に出たら中の状況をフロディアへ話すことにするから」

「ああ、わかった」

「それと、伝言をお願いするわ」

「伝言? この幻術に捕らわれている人に?」

「ええ。正直、話ができなくてとても残念」


 わからないでもないけど……俺はとりあえず頷いて承諾し、アクアから伝言を受け取った。

 そして彼女は二人へ近づく。魔法を使わなければこちらの存在などまったく認知されないのだが、それでも彼女は忍び足となる。


「さて、どうなるか……」


 セシルはルルーナ達とアクアを交互に見ながら呟く――そういえば、強制転移されるという状況を見るのはこれが初めてとなる。注視して検証する必要はあるだろう。


 アクアがルルーナ達の背後に立った。首だけ向け自然体のままで話をする両者を尻目に、彼女は右腕を僅かに上げる。

 魔力を生み出している……おそらくそれを発露した瞬間、強制転移ということになるのだろう……思う間に、アクアの腕が振り下ろされた。


 彼女の手が、指輪に直撃する。きっちり指輪だけに攻撃を当てることに成功したようで、パキンという指輪が砕ける音を、しかと耳にした。


 直後、アクアの体に変化が起きる。唐突に彼女の体に魔力――おそらく魔王城の魔力が取り巻き、その姿が光に包まれる。声を上げる間もなく彼女の姿は消え――幻術の世界に、俺とセシルが取り残された。

 俺はアクアのことも気になったが、ルルーナを見る。彼女は驚き、砕けた指輪を見据えていた。


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