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さらなる交戦

 黒衣の戦士と向かい合った時、奴を挟んで反対側にいるリミナのことが気になった。


 まずい――直感し、頭を巡らせる。相手と俺の距離は数メートル程で、一瞬で距離を詰められる恐れはあった。けれどもしここで後退すれば、リミナが狙われると確信する。

 だから俺は足を後ろではなく前に出して間合いを詰め、剣を薙いだ。しかし襲撃者はそれを易々と弾く。


 先ほどタネは見せてしまったためか、襲撃者は元より隠すことなく一撃を防いでみせる。やはり別格――俺は無理をせずリミナに視線を送る。

 一瞬の目配せ。さらに顎をほんの少しだけ前に出し距離を取るよう指示を送った――つもりだった。しかし彼女は何を思ったのか、魔法の詠唱を始める。


 直後、襲撃者が何か呟いた気がした。詠唱に反応しそちらを攻撃するつもりなのか。

 俺はすかさずフォローに入り、剣を振り下ろす。襲撃者はそれを短剣で払いのける。


「くっ!」


 俺が呻いた時、襲撃者が反撃に転じる。短剣を順手に素早く持ち替えると刺突を放つ。


 それを見ながら避ける。剣の腕は確実に落ちているが、反応速度に関しては勇者レンの経験が確実に生きており、それほど苦も無くかわせる。

 さらに刺突が加えられる。俺は身を捻り、時には剣で弾き全て防ぐ。すると襲撃者は短剣を逆手に握り直すと、半歩退いた。


 こちらは動きを止め、相手の動向を窺う。ここから先ほどのように距離を詰め仕掛けるのか――推測を立てていると、襲撃者は右足を僅かに後退させた。このままさらに後退――考えたのは、詠唱を続けるリミナの姿。

 即座に駆ける。襲撃者は待ち構えていたように腰を低く構えた。先ほどの行動はどうやら誘い――けれどここで距離を取ればきっとリミナが標的となる。だからそのまま剣を振り下ろした。


 襲撃者は腕を伸ばし短剣を盾にするように一撃を防ぐ。さらには剣を押し返し接近しようとした。

 俺は最小限の動きでほんの少し距離を取る。襲撃者はそれでも追いすがり、短剣を放った。いつのまにか順手に変わり、先ほどの様な刺突が俺に迫る。


 ――このまま下がっても避けられない速度で来ている。俺は半ば無意識の内に体を右方向に傾けた。短剣が俺の腕を掠めつつもクリーンヒットは避けられた。

 さらに相手は刺突により腕が伸びきっている。ほんの僅かな隙――俺は無謀とも思える突撃を敢行(かんこう)した。


 襲撃者の瞳が僅かに揺らぐ。相手は腕を戻しつつ横へ逃れようとして――俺の剣が一閃する。

 本来ならば短剣で弾くか、身を捻るかするべきところだった――しかし俺の動きの方が速かった。右腕に収束する魔力が体まで強化したのかもしれないが、とにかくその一撃は相手の行動速度を凌駕し、左脇腹にヒットした。


 衣服に刃が食い込み、俺はさらに力を入れ振り抜く。襲撃者はその反動に負け、姿勢を大きく崩し床に倒れる。


「――精霊よ! 押し潰せ!」


 そこへリミナの魔法が放たれる。

 ヒュン――と、風を切る音がしたかと思うと、倒れる襲撃者を中心に轟音が響いた。


 続いて屋敷自身から発せられる軋む音。俺はリミナへ首をやり何か声を発しようとした。

 だがその前に魔法の効果が終了する。周囲は再び静寂が生じ、視線を戻す。倒れる襲撃者と、多少歪んだ床板が目に入る。


「風を圧縮し、衝撃を体に流す魔法だったんですが……」


 リミナが言う。魔法自体は通じなくとも、魔法の衝撃を体に通せば効くかもしれないと思ったのだろう。

 けれど、襲撃者はゆっくりと起き上がる。短剣を構え銀の瞳をこちらに向け、警戒を露わにする。

 外傷は一切ない。リミナの魔法にも堪えてない様子。


 そこで俺は短剣を掠めた衣服に目をやる。傷一つついていない。

 深く考えていなかったが、この衣服だって剣と同様魔法の力によるものだろう。だとすれば現状の攻撃では、切り裂くことはできないのかもしれない。


 再度目を戻し剣を構えると――襲撃者は短剣を逆手に構えつつ、先ほどとは異なる気配を生じさせる。


「魔力が強まっています」


 リミナが警告し――襲撃者が走る。俺はリミナを庇うように前に立ち、牽制する意味で剣を振った。

 それはあっさりと短剣に弾かれ、さらには一気に詰め寄られる。


「リミナ!」


 俺は後方にいる彼女に呼び掛けつつ、眼前に迫る襲撃者を(にら)んだ。

 短剣が向けられる。俺は後ろに下がりつつ剣で捌く。金属音がこだまし、同時に僅かながら腕に痺れを感じた。


 威力が上がっている――どうやら先ほどの攻撃により威力を上げる必要があると判断したらしい。俺は迫る短剣をどうにか防ぎながら、もう一歩後退する。

 このままさらに距離を取って――そんな風に考えた時、視界の横にリミナが映る。


「っ!?」


 距離を取ったと解釈していた俺は虚を衝かれ一瞬動きが鈍る。

 もっと離れてくれ――そう呼び掛けたかったが、隙を生じた襲撃者の攻撃をからくも防ぐので精一杯だったことに加え、リミナ本人も詠唱を始めていたため、どうにもできなかった。


 これは――俺はある予感を抱きながら襲撃者を押し返す。位置的には右側、部屋の入口付近にリミナが立っている。距離は数メートルで、襲撃者と彼女が直線状に並ぶ――


「くっ!」


 瞬間、襲撃者が跳んだ。俺にではなく、リミナに。

 彼女の瞳に緊張が走る。杖を握り、相手に向ける。


 俺は――咄嗟に足へ力を入れた。襲撃者の方が距離は近い。けれどリミナへの攻撃を阻むには、両者の間に割って入るしかない。

 初めてだったが――足に魔力を流すイメージをする。効果があるのかわからないその行動に、体はどうにか応えてくれた。駆ける速度が増し、二人の間へ一気に近づく。


 その間に襲撃者が短剣を放った。リミナは杖で防ごうとしたが、力負けして杖が弾き飛ばされる。

 リミナが僅かに呻き、大きな隙が生じる。そこへ襲撃者の追撃と――横から乱入した俺の剣戟が放たれた。

 刃が交錯する。襲撃者は相当接近している上、後方にリミナがいるため下がることもできない。


 だけど、ここで突破されれば――俺は捨て身のつもりで一撃を加えた。襲撃者はその心情を悟ったかどうか知らないが、変わらぬ動作で短剣を薙ぐ。

 そして双方の刃は今度こそ互いをすり抜け、見事に交錯した――

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