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違和感

 女性の後を追うと、彼女は別の部屋にいるグレンの仲間と話をしていた。グレンに語った通り説得しているらしい。中には不満を零す者もいたが、最終的には全員が承諾した。

 で、その間に名前が判明する。マイという名だ。どうも彼女が仕事をもってくる役目を担っているらしい。


「それじゃあグレンに報告と」


 淡々と語るマイはグレンの部屋へと足を向ける。俺はじっとその姿を見据えるが、先ほど感じた違和感は生まれない。

 気のせいだったのか……いや、フィクハもまた同じような心境を抱いている以上、鍵と関係がある可能性は十分ある。


「ねえ、レン」


 マイを追っている時、隣にいるフィクハから声が。


「どうした?」

「鍵についてだけど……物じゃなくて人という可能性はある?」

「は?」


 思わず聞き返した。するとフィクハはマイを指差し、


「現在の彼女からは何も感じないけど……一目見た時点で何か違和感があったし……けど、彼女の身に着けている物については何も感じない……だから、彼女自身が鍵なのではないかと」

「可能性は否定できないけど……グレンは彼女と面と向かってもそれらしい反応は示さなかったけど」

「そうだよね。うーん……」


 唸り始める彼女。結局の所、相談しても確実なことはわからない……フィクハの時と同じように、賭けるしかなさそうだ。

 とはいえ、もう少し情報は欲しい……考えているとマイが再度グレンの部屋を訪れた。


「グレン、連絡は済んだから」

「そうか。納得したのか?」

「ええ」


 笑みを浮かべ語る彼女。それにグレンは「わかった」と応じ、


「仕事は明日か?」

「ええ。これが終わったら、全員で宴会でもしましょうか。用意しておく」

「そうだな……頼む」


 そうグレンが述べた時、その瞳が僅かに揺らいだ――気がした。

 俺はすぐさま彼の表情に注目する。一時マイを見据えていたようだが……彼女に対し、違和感があるのだろうか?


「どうしたの?」


 異変に気付いたマイが問い掛ける。するとグレンは「すまない」と返し、


「準備はしっかりやっておく」

「ええ。よろしく」


 彼女は言い残し扉を閉めた……そこで、


「レン、二手に分かれよう」


 フィクハが提案。すぐに理解できた。俺がグレン、フィクハがマイを調べるというわけだ。


「いいよ……フィクハ、頼んだ」

「任せて」


 フィクハは速やかに立ち去った。そしてグレンに目を移し……その表情が、どこか疑問を抱いたものなのだとわかった。


「……どうした?」


 ルームメイトの仲間が問い掛ける。グレンはそこで我に返り「何でもない」と返答した後、


「ちょっと散歩でもしてくる」


 そう言って部屋を出て……俺もまた、彼に追随した。






 どこか物憂げな態度を見せつつ、グレンは街の中を歩く。その最中、彼に声をかける者がいる。幻術世界の中ではどうやらそれなりに名が知れているらしく、彼の勇者としての立ち位置はかなりのものなのだろうと想像することができた。


 で、一つ疑問に思うことがあった。ああした仲間と共にいることが彼の望みだとしたら……現実のグレンは、俺達と共に戦ってどう思っているのだろうか?

 さして気にするようなことではないのかもしれないが……現実世界でグレンの仲間達がどうなっているかも気になるし……とはいえ、幻術から解放したとしても迂闊に訊けないだろうな。


「ま、その辺りのことは置いておくか……他に怪しいところは――」


 俺は目を皿のようにしてグレンを観察。やっぱり所持品から魔力を感じられる物はない……そもそも魔力を感じられるから鍵だというのも不確定なわけだが――とにかく、怪しい所がないか確認し続けるしかない。


 やがてグレンは宿に戻り、夕食。そこでフィクハと合流し、俺達は喧騒が存在する酒場の中で会話を行う。


「時折、彼女に関しては魔力が感じられたよ」

「最初だけじゃなかったんだな……でも、いつもってわけじゃないみたいだな」

「ええ……で、ここで一つ疑問が。もし魔力を発する物が鍵となるなら、私達にとってはすぐにわかってしまうわけだけど……魔王にとっては不利よね? そんなあからさまなこと、相手がやると思う?」

「どうだろうな……この幻術自体は城の機能みたいだし……ある程度ルールについては変更できるみたいだが、根本的な機能を変えることができないのだとしたら、あり得るかもしれない」

「うーん……仮に彼女が鍵だとしたら……会話は普通にしているわけだから、単に接しているだけでは幻術から解放されないみたいだけど」

「直接手を繋いだりしていないわけだから、駄目なのかもしれない……あ、そういえば。グレンはフィクハが出て行った後、何か考える素振りを見せた。何かしら思う所はあるのかも」

「となると、彼女とグレンを実際に接触させてみる?」

「魔法で、か……やるとしたらそれしかないだろうな」


 というわけで、俺達は決定してグレン達を見る。その時、


「マイ、お前怪我の方はどうなんだ?」


 ふいにグレンの仲間の一人が尋ねる。それにマイは肩をすくめ、


「かなりよくはなったけど……まだ、前線に出るのは難しそう」

「無理はしないでくれ」


 グレンが言う。それにマイはすまなそうな表情をして、


「わかってる。私も足手まといにはなりたくないし……それと、ごめんなさい。帰って来たばかりだといういうのにまた仕事で」

「そういう時もあるさ」


 グレンがフォローを入れると、他の仲間達も同意するように頷く。


「マイが城との連絡役をしいるおかげで、こちらもずいぶん楽にやれている……決して足手まといにはなっていない」

「それはありがたいけど……このまま連絡役を続けるのは嫌だからね?」

「わかっているさ……留守は頼んだぞ」


 グレンは笑いながら返答……ふむ、どうやら彼女は怪我をしたことにより、都に留まっているらしい。

 となると俺達の目論見を達成させるには、時間がない……リミットはグレン達が旅立つまでか。


「夜、二人で話をしたりとか……そういうのがあればいいけど」


 フィクハが言う。俺は小さく頷きつつ……グレン達の談笑に視線を送り続けた。






 やがて、グレン達は就寝することになった。マイはかなり早い段階で寝てしまったため俺達の目論見通りとはいかなかった。最悪幻術の外に出ることも考慮しつつ……フィクハとどうやってグレンとマイを接触させるか考える。


「レン、私の時はどうやって魔法を使ったの?」

「アミュレットに簡単な雷撃を放った」

「そう……グレンとマイを接触させるには、氷とか雷とかではあんまりよくないね。風とかが使えれば話は別だけど」

「簡単なレベルなら使えないこともないけど……人の体を動かすくらいの風の魔法って、結構な力必要だろ? 正直俺は自信ないな……」

「とすると、私の魔法?」


 フィクハが問い掛けるが……俺は、彼女の頭に浮かんでいる魔王に対する戦法について言及。


「フィクハ、魔王に対する戦法についてだけど……効果はあるのか?」

「わからない。何はともあれ城内を少し調べないと」

「そうか……となると、それが有効な策になるかもしれないし、フィクハはまだ魔法を使わないでくれ」

「とすれば、どうするの?」


 問い掛けに、俺はしばし考え、


「……見送りがきっと最後のチャンスだと思う。それまでに、考える」


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