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ルールの追加

 俺はフィクハと相談を行い……まず、一つの結論に達する。


「どちらにせよ、捕まっている人達を助けるのを優先にする……」

「ああ。タイムリミットは明日まで……使用者の魔力を吸い出して幻術を使うから、明日までもつのかも個人差がある……できるだけ急いだ方がいい」

「アクアさんとかが気掛かりね」


 フィクハが言う……確かに、アクアは闘技大会で戦っていて魔力が少ないことを明かしていた。他に似たような魔力容量を持っている人間がいるかどうかはわからないが、注意するべきだろう。


「で、今の時刻だけど……」


 フィクハがゴソゴソとやりだす。そして懐から懐中時計を取り出した……もっとも、動力は魔力だが。


「……ふむ、全然時間が経っていない。やっぱり幻術に取り込まれると時間が大幅に遅くなるみたい」

「なら、すぐにでも他の所に行った方がいいな……しかし」


 俺は廊下を見回す。


「散策くらいはした方がいいのか?」

「後にしようよ。仲間が増えた場合にやった方がいい……さて、レン」


 フィクハは俺に視線を送りつつ、言及する。


「レンは今、私に対し貴重な魔法を使ったわけだけど……」

「ああ」

「魔王が言ったことをそのまま受け取れば、残りは三回……それだけしかレンは魔法が使えない」

「そうだな……きちんと選べってことか?」

「ううん。ここで一つ疑問がある」

「疑問?」

「残りは三回……レンは魔法を使うことに対し、猶予があるわけど、私の場合は?」

「使った時点で強制転移だろ?」

「それはわかるけど、それは魔力を発露した瞬間? それとも、魔法が放出された時点?」


 ……何が言いたいのか理解できた。もし放出された時点でというなら、強制転移と引き換えに仲間を助けられるというわけだ。


「つまり、俺が魔法を使い誰かを助け……そこからは他の仲間達が魔法を使って助けていくというわけか」

「そういうこと。けど、魔力を発した瞬間転移されるならこの方法は通じないし」

「となると、どうすれば……」

「レン、別に全員助けなくてもいいんじゃない?」


 そこでフィクハがとんでもないことを言った。


「は? ちょっと待て――」

「見捨てるなんて言うつもりはない。けど、アクアさんのように少しばかり魔力に不安がある人ならばともかく、一日もつというのなら、先に魔王を倒すべく動くべきじゃないかと思う」


 先に……つまり、五人集めて魔王の所に踏み込むということか。


「とすると、残り三人が重要になるな」

「イーヴァさんとルルーナさんは確定として……残るは一人か……」


 困った顔をするフィクハ。きっとその中に自分も入っていることが悩ましいのかもしれない。まあ俺も何も考えずに動いてしまったのも問題があるか。


「……フィクハ」

「ああ、ごめん。別に戦いたくないとかそういうわけじゃないの。というより――」


 と、彼女は意味深な笑みを浮かべた。


「多少時間は掛かるけど……戦法は一つ浮かんでいる」

「魔王と戦うために?」

「うん……けど、この手が成功するかもわからないし、それには必要な人もいるし」

「どんな方法だ?」


 問い掛けるが、彼女は首を左右に振る。


「さすがに、魔王に監視されている可能性があるでしょ? だから話すのは――」

「賢明、ですね」


 声がした。横からで振り向くとそこには――


「……何の用だ?」

「お悩みのようだったので、捕捉をしに来たのですよ」


 アルーゼン……魔王がこの場に現れていた。


「そこの女性の方は賢明ですね。さすがに対策を話されるとなると、私も聞き耳を立ててしまいます」

「監視の間違いじゃないの?」


 フィクハが不敵な笑みを浮かべて問い掛けるが、アルーゼンは肩をすくめ、本題に入る。


「女性のあなたが言ったように、このゲームは私の所に踏み込み、そして私を倒すことができたなら……確かに、全員が救える。なぜなら幻術の魔法は私の権限で稼働している。だから私を倒せば、稼働が強制的に止まる」

「なら――」

「けれど、それでは私としても面白くない」


 ぴしゃりと言うアルーゼンに、フィクハは険しい顔をする。


「あなたはおそらく、勇者レンが仲間のために立ち回り疲弊することを危惧したはず……私としてはそう悲観的になる必要はないと思うのですが……何より、このゲームの本質は別にある」

「別……?」

「多少、人間というものに興味があるのですよ。魔に侵されたにしろ英雄という存在もまた人間……彼らが何をしようとしているのか、人間を見て私なりに推測しようという面もあるのです」


 人間観察というわけか。俺としては魔王の表情を見て、ただ面白くてやっているだけのようにも見えるが――


「そういう目的もあるので……私としては、このまま踏み込まれるのは避けたい。そこでルールを追加しましょう。玉座へ通じる扉は、全ての幻術が解放されて以後に開けることができる」

「……解放、というのは生死問わずよね?」

「もちろんです」


 フィクハの問いにアルーゼンは嬉々として答える。


「魔力が途切れれば、魔法も強制的に解放される。あなた方がどれほどの人数救えるのか、大いに興味がありますし……なおかつ、あなた方を通して人間という存在をじっくり観察させて頂きましょう」


 ……ここが魔王のフィールドである以上、とことん不利な状況に晒される。それは仕方がないが、何か打開策は――


「とはいえ、これではあなた方も不満があるでしょう。それに、救う手段が限られればあなた方自らが犠牲を顧みない手段を用いる可能性もある……正直それは、面白くない。よって、一つ助言をしてあげましょう」


 アルーゼンが語る……どういうことだ?


「先ほど女性が述べられていましたが、勇者レン以外が魔法を使用した場合……この場合は、魔力が発露した瞬間強制転移します……ただし、城の中では」

「……何?」


 俺が聞き返すと、彼女はにこやかに告げる。


「幻術の中では、魔力探知が若干ながら遅れる傾向にあります……よって、幻術世界の中では魔法が発動し終わった瞬間に強制転移となります」

「なるほど……つまり、私も使えるわけね」


 フィクハの言葉にアルーゼンは笑みを浮かべ、


「状況が理解されたようなので、私はこれにて失礼させて頂きます……勇者レン、あなたのご活躍を楽しみにしていますよ」


 皮肉と言える言葉を残し……彼女は、その姿を消した。


「……やれやれ、結局はあいつが望む方向に持っていったわけか」


 俺は小さく息をつくと、フィクハもまた同意するように頷いた。


「なんというか、やり方が強引ね……でも、助かったわ。レンだけでなく他のメンバーも魔法が使えるのならば、全員助け出せる可能性はある」

「そうだな……で、ここからどうする?」

「魔王城の構造を把握し、幻術がどの場所で作動しているかを確認したいところだけど……ひとまず、今はどんどん人を解放するべきね。それにもし自力で抜け出す人が出てくれば、その人物を上手く活用して仲間を救い出したり、他のことができる。後にしてもいい」

「何はともあれ人員の確保ということだな……わかった。それじゃあ時間も惜しいし進もう」

「ええ……ちなみに、誰が捕らわれているのかとかはわかるの?」

「いや、その辺りの魔力は一切感じられない。ただ俺達は出ることはできるみたいだから、わからなければ一度外に出て別の人を助けるようにすべきだとは思う」


 そうした会話を行いつつ――俺達は、別の部屋へと入り込んだ。


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