ゲームの内容
「まず、この城の成り立ちから説明しましょうか」
アルーゼンが話し出す。微笑んでいる所を見ると、こうして罠にはまった俺達を見て楽しんでいるのかもしれない。
「魔王城が生み出された当初、魔王という存在を良く思わない存在もいました。魔王はそうした存在に対して何かをしたわけではありませんでしたが……同族が争う可能性を考慮し、城に防衛魔法を組み込んだ」
「それが、この魔法だと?」
「ええ……この城の異名をご存知ですか? ジュリウス辺りから聞いてはいませんか?」
「……『夢の城』」
ボソリと呟いた俺に対し、アルーゼンは満足げな表情を見せる。
「それです……城に入った存在に対し城全体が保有する魔力を浴びせ、幻想世界へと誘う……それが先ほどあなたも体験した、あの世界」
「他の仲間達も全員、ああした魔法に捕らわれていると?」
「まさしく。現在突破できたのはあなた一人ですね」
嬉しそうに語るアルーゼン。俺はなおも険しい表情をのまま、言葉を聞き続ける。
「これは一種の『試練』でもあります。魔王たる者……そして魔王に挑む者はどのような誘惑にも耐え、自らを殺し続けなければならない……これは魔王になるための試練……あなた方は魔王になるわけではありませんが挑戦者。試練を受けるに足る人物達でしょう」
「で、ここでは剣を抜くのはご法度だと?」
「魔族同士の戦いは熾烈を極めます。そうなればこの城とてただでは済まない。そこで、もし魔力を発露したならば強制的に城外へと飛ばされる罠を構築しています。ちなみにこれは、私も例外ではない」
自身の胸に手を当てアルーゼンは語る。
「城外に弾き飛ばされた者は、以後城に足を踏み入れても強制的に外へ……つまり、二度と入ることができなくなる」
「それはあんたも、か?」
「さすがに魔王である私は特権を持っているため転移はしませんが……この城を構築した魔王はどこまでも自身を律する気のようで、私が魔力を発露すればしばらくの間強制的に力が抑え込まれる」
魔王自身特権を持っていても濫用しないよう示しをつけていた……といったところか。
「とはいえ、こうした強制転移は例外箇所も存在する。いわばこの城の中で戦っても構わない場所。それは合計三ヶ所」
「三つ……?」
「一つ目は地下の儀式場。転移魔法や仇名す者の処分のために用意された部屋です。二つ目は魔王の自室。これはどちらかというと羽を伸ばすための処置でしょうね。そして――」
と、アルーゼンは笑みを浮かべた。
「三つ……玉座の間」
「読めたよ。つまりそこに来いというわけだな」
「そういうことです。そこでは私も力が使える……とはいえ、この城の周囲に忌々しい英雄の結界が存在する。それにより力は多量なりとも減退していますが――」
そこで、アルーゼンは笑みを向けながらも目つきを鋭くし、こちらを威嚇する。
「この程度のことで私を倒せるなどとは、思わないことです」
目の前に像を成すのは幻……だが、魔王そのものがいるような錯覚すらする程の強烈なプレッシャーが生じる。
「さて、ゲームの説明に参りましょう……といっても、そう難しくはありません。この城には今あなたがいるような小部屋が数えきれない程存在します。その中に、あなたと同じように捕らわれている仲間の方々がいる……それを救うだけです」
「だけって言い方に、裏がありそうだな」
俺が告げると、アルーゼンは「当然」と返す。
「あなたには、四回だけチャンスをあげましょう」
「……チャンス?」
「城内では魔力を発露することができないと言ったでしょう? けれど私の権限でそれを緩和することができる……あなたには、合計四回だけ魔法を使う権利を与える」
「それで、何をするんだ?」
「幻想空間に入り込んでも、基本的にあなたは干渉できない……けれど、魔法を使えばその中に捕らわれている人物や世界に何かしら干渉することができる……けれど本来なら使った時点で強制転移してしまう」
「ただし四回までは、お前の特権で猶予されるということか?」
「正解」
四回……ということは、順当に考えれば俺を含めて五人か。
「その回数に意味はあるのか?」
「玉座の間に入ることのできる存在の上限」
それだけ……その数に意味があるのかはわからない。しかし、俺が魔王と戦うために率いることのできる人数は俺を含め最大五人というわけだ。
「これについては魔王城に組み込まれたルールであるため変更は一切できません……不満はおありでしょうが、これにはしたがって頂きます」
「……わかったよ」
俺は頷き、頭の中を整理しつつ口を開く。
「俺達は強制的に幻術に掛かった……で、俺は強制転移の権限を少しばかり猶予されて仲間を助け、お前と戦う……というわけだ」
「ええ」
「権威を守るためか?」
「そのようなものです」
この魔王城で決着をつけたならば、一応面子は保たれる……そんな漢字か。
まあ、何をするのかは俺も理解できた。だから俺はアルーゼンを睨み、
「受けて立つしかなさそうだな……首を洗って待ってろ」
「好戦的でよろしいですね……そしてまだ、あなたに伝えておかなければならないことがある」
「伝える?」
「あなたも掛かった幻術は、幻術がかかった者の魔力を吸い取って発動する」
魔力を――その言葉を聞いて、俺は再度顔を険しくした。
「理解できたようですね。私がこの城を訪問した時もまったく同じ魔法に掛かり……配下の大半が幻術に取り込まれ、消滅しました」
「このまま放っておけば、幻術に掛かった人間が死ぬというわけか?」
「個人差はありますが、人間の魔力といってもそう短いわけではないでしょう。とはいえこれは対魔族を想定して構築された魔法……もって丸一日といったところでしょうね」
一日……それで決着がつくかどうかはわからない……って、ちょっと待て。
「既に半日くらいは経過しているということか?」
「ああ、あなたも幻術の中で半日程度は過ごされたのでしたか。時間間隔がまるで違いますから、大丈夫ですよ。現時点では、あなた達が侵入してほんの僅かな時間しか経っていません」
とすると効率よくいけば全員助けられる可能性もある……俺については四回だが、五人しか玉座に踏み込めない以上、他の仲間達を利用し救い出せばいいだろう。
理解すると俺はアルーゼンに再度鋭い視線を向け、
「わかったよ……全員助けてから、お前を倒す」
「ふふ、助けることができればいいですけどね……あなたについてはあくまで四人までということをお忘れなく」
微笑を浮かべたアルーゼンはそう告げ……最後にもう一つ付け加えた。
「そして、このゲームがどういう意味合いを持つのか……あなた自身よく考えて、行動してください。今回の敵は、私だけではありませんよ――」
語り、彼女は姿を消した……俺は小さく息をつき、踵を返して扉と向かい合う。
「ゲーム、か」
こんな展開、攻め込んだ時誰も想像できなかっただろう……今も頭の中を整理するので手一杯だ。
けれど、ここで時間を浪費してしまうのもまずい。一日というのはそれなりの猶予であるはずだが……それでも、捕らわれた仲間は多い。
「俺みたいにすんなりと抜け出してくれればいいけど……」
それができるのかは……考えつつ俺はドアノブに手を掛け、扉を開けた。