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進軍開始

 フロディアの先導に従い、俺達は街道を逸れ魔王の城へと移動を開始する。全員が無言でかつ烈気を伴い進む様は、見送る兵士達の顔を驚く程緊張させる効果があった。

 その中で俺は、真ん中あたりを陣取り仲間達と共に進む……幾度か視線を感じたりもしたが、空気もあって話しかけてくる人間は存在していない。


 やがて、それほど経たずに真正面に城が見える位置に到着。周囲は平原で、城に到達するまでに障害は一つもない。

 結界は……目に見える範囲には何もないように思えるが、じっと目を凝らす真正面に魔力を感じ取ることができた。


「ここで私は待機します。全員、健闘を祈ります」


 フロディアが言う。俺はそれに小さく頷いた時、彼は握る杖を結界へとかざす。

 全員が固唾を飲み……さらに武器を構え戦闘態勢を整える。


「……行きます」


 フロディアの声と共に――杖が、まっすぐ結界へと突き込まれた。


 その瞬間、結界の一部分が破壊され――魔王城までの道筋が生まれる。

 同時に、先頭が走り出した。その主なメンバーは騎士であり、イーヴァもその中に含まれている。


 俺や後方もそれに続く……選りすぐりとはいえ身体能力にも差がある。よって全力疾走などすれば隊列が大きく乱れるのだが……騎士達はそれも考慮してか、追随するのにさほど苦にならない速度で足を進ませている。


 そして――俺は結界を抜けてその魔王の城から放たれる気配を感じ取る。肌にまとわりつくような嫌な感触だが、特別敵意が満ちているわけではなく、城があるという存在感だけを表している……それがひどく不気味に思え、また同時に敵が来ないことも変だと思った。


「……城が放つ魔力以外、何も感じませんね」


 俺の右にいるリミナが言う。そう、モンスターや悪魔といった存在の魔力が、一切感じられない。

 俺達が準備をしていたことは城からはっきりとわかっていはずで……それにも関わらず、城の外側についてはまったく準備をしてこなかったということになる。魔王は俺達を侮っているかだろうか……それとも、他に何か原因があるのか。


「レン」


 その時、後方にいたセシルが声を上げ、俺の左隣までやってくる。


「城に入り込んだ後、すぐに戦闘が始まるかもしれない……レンはできるだけ力を消費しないよう行動してくれ。僕が援護する」

「それはありがたいが……他の仲間は?」

「基本的にレンの援護だけど、場合によっては他の戦士達を守ろうかと考えてもいる……それに」

「それに?」

「アキについては魔王を滅する力は所持していないにしろ、レンと同じ異世界の人間だ。彼女も何かしら鍵となるかもしれない」

「……かも、しれないな。わかった」


 俺の同意を受けセシルは頷く。アキについては確かにセシルの言う通り何かあるかもしれない……といっても現状異世界の人間ということで役立ったのはシュウの幻術についてだけ。魔王との戦いでは現時点であまりこの性質が発揮してはいないため、過度な期待はしない方がいいだろうな。


 そんなことを考えている間に魔王城へと近づいていく。肌に触れる魔力が少しずつ濃くなっていく状況で、少しずつだが不快の度合いを増していく。とはいえそれ以外はやはり感じられず……罠を張っている様子もない。


 視線を他の面々に巡らせてみる。中には周囲を目を凝らし罠について注意を払っている人間もいた。しかし現状そうしたものが牙を剥くこともなく、正直拍子抜けも良い所だった。


 だが足を進めるごとに不安が増してくるのも事実……一体、魔王は何を考えている?

 不気味極まりない行軍は、結局一度の衝突もないまま魔王城手前に到達する。ここで先頭にいるイーヴァは後方を振り返り、


「先陣は騎士が務める。他の者達は状況に合わせ、臨機応変に対応してくれ」


 誰もがその言葉に無言で承諾し――イーヴァ達は動き出す。目の前に広がるのは階段と、その先には城内へ続く大扉。それがどれも漆黒というのはかなりの迫力があるのだが、周囲の景観から浮きまくっているため、どうにも様にならない。


 まあ、この場合様になるならないという問題でもないか……階段に足を掛けた瞬間、さらに感じ取ることのできる魔力が増える。それと同時に、今までとは少し異なる、こちらに敵意を持つような……いや、この場合は牽制しているとでも言えばいいのか。とにかく、そういう気配が生じ始める。


 先頭を進むイーヴァも異変を察知したか肩に力を入れるのがわかった。気付けば横にいるリミナやセシルも油断なく周囲を見回している。

 それは俺も例外ではなく……とうとう、扉の前に辿り着いた。


 振り返れば、進んできた平原。さらに遠目に豆粒のようになったフロディアと、それを囲む魔法使いや騎士達の姿。既に結界の穴も閉じられているようだが、彼らがいる以上退路の確保は大丈夫だろう。


「……さて」


 先頭の騎士が呟く。その横にはイーヴァの他ジオの姿もある。誰もが警戒していて、敵がまったく存在していない扉を見据え、剣を構えている。

 このまま扉を開け、中に踏み込む――というのは頭ではわかっていても目の前にあるのは魔王がいる城。最大限の警戒を払うのは当然であり、騎士達もどういう状況に陥っても大丈夫なよう、ゆっくりと扉に近寄る。


 気付けば俺は扉に視線を集中させていた。それなりに紋様などが刻まれている扉だったが、全てが黒であるためパッと見ると無機質な扉にも見える。

 騎士の一人がそうした扉に剣を向け、その先端が触れる――次の瞬間、


 突如、扉がゆっくりと開いた。


「っ……!?」


 驚く騎士。後方にいた俺達も思わず身構え、やがて城内が見える。

 中もまた漆黒――だが、明かりがいくつか存在しており歩く分には不自由がないように見受けられる。だが……誘っているのか?


 視界にはモンスターや悪魔の姿は一切見えない……城内で待ち構えている、と予想していたが突入直後はそれもなさそうな雰囲気。


「……行くぞ」


 イーヴァが告げ、それに頷いたジオがゆっくりと足を踏み入れる。それに俺達は続き、また同時に何人かの騎士が扉に触れ調べていた。


「扉には、罠などはありません。強度もあまりなさそうで、これなら私達でも破壊できそうですが」

「そう、か……」


 腑に落ちない、といった様子でイーヴァは答える。俺も内心同感だったが――ここに至りもしやこの城自体もぬけの殻なのでは、という推測に行き当たる。


 シュウ達は魔王の城をこの世界に出現させ、俺達と魔王とを戦わせようとした……しかし魔王がそれを察知し、引き上げていたなら――


 そこまで考えて、理屈に合わないと思った。そもそも魔王の城を出現させたことにより南部の塔を守護していた魔族達が攻めに来たということもあるし……策をはまったとはいえ逃げるようでは、他の魔族達に示しもつかないのでは、と思う。


 ならば、一体――そう考えた直後、突如視界に光が生まれた。


「っ――!?」


 驚き、視線を送る。発光は、地面から生じていた。


 罠――などと思ったがそれでも魔力は感じられない。いや、一つだけ……城に近づくにつれ強くなっていた不気味な魔力が、俺の体を取り巻くように生じ始める。


 刹那、俺の周囲に結界が生じた。見るとリミナが使用したもの。他の者達も結界を構成し攻撃が来てもいいように体勢を整える。

 そして光によって周囲が包まれ――視界全てが、白い光に覆われることとなった――


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