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それぞれの役割

 話をする、といっても俺達が最初話したことは闘技大会について――イーヴァが色々と訊きたかったらしく、実質は質疑応答に近かった。


「しかし、まさか君が優勝するとは思わなかったよ」


 イーヴァはそう感想を漏らす……無理もない。観客の中でも俺が優勝するなんて思った人はいなかっただろう。


「そもそも君のことについては多少なりとも伺っていたし、こうして魔王を破る力を学んだ身としては優勝という成績自体も納得できる面もあるが……」

「技量的にはまだまだですからね……当然だと思いますよ」


 俺がそう答えると、イーヴァは感嘆の声を漏らす。


「謙遜だな」

「……そういうわけでは」

「彼にも色々と事情があるということです」


 ルルーナがフォローを入れた。それに対しイーヴァは聞きたそうな表情をしたが……周囲を一度見回すと、


「時間も無さそうだな……その辺りの質問は、戦いが終わってからでもいいかい?」

「は、はい」

「それにはまず生き残らなければなりませんね」


 ルルーナの忠告。その目は、どこかイーヴァを慮っているような節があった。


「イーヴァ殿、お分かりかと思いますが――」

「君の言いたいことはわかるよ。無論、私も死にたくはない。無理をしないというのは約束しよう」


 彼はそう返答したがルルーナはどこか渋い顔……俺もなんとなく推測がついた。騎士である以上、もし俺やルルーナが危険な状況なら、自身が庇って――という感じか。


 まあ彼自身、今回魔王と相対する人物に選ばれたとはいえ、メインは俺やルルーナだと考えている雰囲気がある。だからこそ最悪の場合、と考えているのだろう。


「自重するようにだけ、お願いします」

「うむ」


 ルルーナが再度念を押した後、会話が一区切りした。

 次の話題は、これから赴く魔王城のこと。まずはルルーナが俺へと質問した。


「魔族ジュリウスから情報をもらったことについては私も把握しているが……『夢の城』というのはどういう意味だと思う?」

「さあ……こればっかりはどうにも」


 首を傾げ返答するとルルーナは腕を組み考え込む。

 情報は少ないが、それでも読み取ろうとしているのだと俺にはわかった……するとそこでイーヴァが反応。


「あくまでそれは異名であって、特別な意味はないのかもしれないぞ?」

「その可能性もありますが、私としては現状相手の出方が不気味であるため、警戒しているのですよ」


 ルルーナが応じる。それに首を傾げ、最初の声を上げたのはリミナだった。


「不気味、ですか?」

「そうだ。魔王城に突入しようとしている段階で相手に動きが無さすぎると思っている」

「なるほど……」


 リミナはあごに手をやりつつ魔王城へ視線を移す。その間に、ルルーナからさらに解説が加えられる。


「敵から見れば、私達の動きは把握しているはずで……なおかつ、この場にいる兵力や動向も城から見るのは十分可能なはずだ。となればそれ相応の準備をしていてもおかしくない……悪魔などを城の周囲に置くくらいのことはしてもいいのではと思っている。だが実際は城門を固く閉ざしているだけで無反応だ」

「城内では着々と準備を進めているのでは?」


 俺が意見するが、ルルーナはこちらと目を合わせ、


「貴殿は報告を聞いていないのかもしれないが……敵の戦力を把握するために魔王城周辺の魔力の多寡を結界越しではあるが調査している。そうした中外観の魔力量については一切変化がない……もちろん相手がそれを隠しているという可能性も存在しているが、私は変だと思っている」


 どういうことなのか……具体的に訊こうとした時、後方から気配。振り返ると、フロディアだった。


「三人に渡しておきたいものがあって」


 彼はまず俺に手を差し出す。見ると、ストレージカードだった。


「俺に?」

「そうだ。端的に言えば魔力を回復させる薬」

「ほう、ずいぶんと珍しい物だな」


 感嘆の声がルルーナからもたらされた。


「魔力を即座に回復させるものは希少だったはずだが……」

「希少といっても魔王城に侵攻する面々に配布するくらいの量はそれほど大したことじゃないよ……とはいえ、その回復量によって希少度合いが変わってくる。これはとりわけ回復量が多い薬だ。三人は重要な役割を担っているからね」

「……ありがとうございます」


 説明を受けつつ俺はカードを手に取る。


「ただ一つ注意しておいてくれ。例えば城内で薬を使用し、飲んでしまったことにより他の人から融通された場合などだが……魔力を回復させる薬は劇薬とまではいかないがそれなりに体に負担が生じる。連続で服用したりすると頭が痛くなったりとか副作用が出るから、やらないように」

「わかりました……それで、こうした薬を作戦メンバー全員に?」

「城に入れば長期戦となるのは必至だ。よってこちらも相応の対応としてこうした物を渡すというわけさ」


 フロディアの言葉に俺は納得する。そしてカードを懐に収めた時、ルルーナやイーヴァもフロディアからカードを受け取った。


「もう一度言うけれど、他のメンバーに渡す薬との服用は避けてくれ」

「言われなくてもわかっている」


 ルルーナは言いながら懐にカードをしまう。そこで今度はイーヴァが声を上げた。


「フロディア殿、一ついいか?」

「ええ、どうぞ」

「先ほどまで色々と魔王の城に関する話をしていたのだが……不気味なくらい相手は動いていない。これをどう考える?」

「結界越しではありますが、魔力が上下していない点を考えると、魔王側はそれほど大した動きを見せていないと言っても良いのではないかと思います」

「密かに準備しているという可能性は?」

「ありますが……ここは正直突入してみなければ」


 やはり魔王の城相手では確定的な情報を手に入れるのは難しいか……まあ、よくよく考えてみれば魔族との戦いは基本前情報などないような状況だったので、別段今回が特別というわけではない。相手の本拠に乗り込む以上不安もあるが……作戦時間は迫っている。やるしかないのも事実。


「三人、覚悟はできているね?」


 フロディアが問う。俺達は黙って頷き、彼は満足げな笑みを浮かべた。


「私はまた準備に入る。今回はサポートで申し訳ないが……」

「いつものことだろう」


 ルルーナが言う。するとフロディアは苦笑し、その場を去った。

 見送った俺達はしばし沈黙し……やがて、イーヴァが声を上げた。


「裏方ばかりになってしまうのは、状況からして仕方のないことか」

「仕方がない?」


 聞き返すと、彼は小さく頷く。


「もし英雄シュウがこの場に味方としていたならば、彼が裏方になっていたことだろう……魔王との戦争の時前線に出ているケースもあったが、彼は相手の魔法に対する策などをかなり綿密に行うなど、裏方としても活躍していた」

「へえ、そうだったんですか」

「だが今回、英雄シュウは敵……彼のそうした一面を見ているフロディア殿としては、魔法の対策ができる人間が必要だというのはすぐに気付いたはずで……そして現状、自分自身しかいないと考えているのだろう」

「その分私達が戦えばいいだけの話だ」


 ルルーナが言う。とても力強かった。


「最善を尽くしてくれるからこそ、私達はこうしてできる限り良い状態で戦える」

「そうだな……」


 俺は同意し、フロディアが去って行った方向を見る。

 その時、声が響いた――作戦を開始しようとする声。


「どうやら時間のようだ」


 イーヴァは言い歩き出す。ルルーナがそれに続き、俺やリミナはその後ろを追随――いよいよ、戦いが始まろうとしていた。


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