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戦争の延長線

 俺達はベルファトラス内にあるカフェに入った。丁度昼時だったのでランチを注文し、ジュリウスの言葉を待つ。


『さて、魔王アルーゼンが即位した時の話から始めよう。魔王が戦争に出て、直属の者達が滅び……魔王城に残っていた者達の中で、まずは暫定的に誰を長にするか決めようとした』

「代理の魔王ってことか」

『そんなところだ』


 代理というのが変な言い回しだと思いつつ、俺はジュリウスの話を聞く。


『その中で最も力ある者が選ばれようとしていた。だがそこに、アルーゼンが割り込んだ』

「割り込んだ?」

『彼女は魔王城にもいなかった魔族なのだよ……とはいえさすがに魔王城にいた者達も城外の者をすぐに採用することはできないと告げたそうだが……結果的に、無理矢理認めさせた』

「力で?」

『そんなところだ。アルーゼンの力は魔王城に残っていた者達にとって絶対的だったようだな』


 ジュリウスはどこか面白くなさそうに語る。


『そして権力を握ったアルーゼンだが、当然反発もありまずは地盤固めに奔走した。とはい元来好き勝手にやる魔族達に対し思うようにいかず、四苦八苦している間に今回の事件が……という感じだな』

「四苦八苦、ですか」


 リミナが呟く。何か引っかかったらしい。


『言いたいことはわかる。先の戦争からずいぶんと時間が経っているのに、と質問したいのだろう? だが人間にとって赤ん坊が成人を超える歳月を重ねても、中々折れなかったというわけだ』

「気難しいわけですね」


 そう言うと身も蓋もない気がするけど……ジュリウスは『そうだ』とあっさり答えた。


『アルーゼンにしてみれば、今回の件は権威がさらに失墜する危機でありながら好機でもある。登場したのは先代魔王の力を研究した英雄や、先代魔王を倒した英雄の技を受け継いだ人間。ここで力を見せれば、魔族達も従う可能性が高くなると思ったようだ』


 そこまで言うとジュリウスは『ただ』と一拍置いた。


『しかし英雄シュウは面倒事も行っており……結果、魔王城がこちらの世界に出てきてしまった。今は混乱しているため把握しにくいが、権威は十分失墜しているとみて間違いない』

「だがそれでも、これはチャンスという見方もある」

『そうだ』


 俺の言葉にジュリウスは同意する。


『確かに手のひらで踊らされている状況ではあるが……英雄シュウや君達を返り討ちにすれば、十分権威づけできるというわけだ』

「となると、今回アルーゼンは必死で戦うだろうな」

『力が制限されているにしても、人間相手には絶対的な力を有しているのは間違いない。気を付けるべきだな』


 結論を口にするとジュリウスは、ペンダントの奥でため息を漏らす。


『正直な話、長寿である私達の目から見れば今回の事件はまたか、というのが主だった感想だ』

「魔族って、寿命どのくらいなんだ?」

『肉体自体は交換する必要があるのだが……それを繰り返せば、基本死ぬことはないな』


 おそらく魔族には何百年単位で生きている者もいるのだろう……ジュリウスだってそうかもしれない。何百年という歳月からはここ二十年くらいの間に人間と二度も戦っているわけで……多すぎだという見解を抱くのだって無理もない。


『まあ、人間からすれば子が大人になる長い時間なわけだから、そうは思わないのかもしれないが』

「けど、当時のことを知る人もたくさんいます」


 そこでリミナが声を上げた。


「なので、魔族と再度関わり色々危惧している人は多数いることでしょう」

『そうか……ふと思ったが、この戦いは英雄が魔の力によって変異した事がきっかけとなっているはずだな』

「そう、だと思いますが」

『奴らがどのような目的で活動しているのかは不明だとしても、あくまでこれは先の戦争に付随するものだと考えてもよいのかもしれない』

「つまり、戦いはまだ終わっていないと?」


 彼女の問い掛けにジュリウスは『まさしく』と答えた。


『そう考える方が自然なのかもしれないな……そもそも前の戦争も先代魔王が引き起こしたわけだが、明確な理由を答えられる者はいない……何か、色々と関連しているのかもしれない』


 そう言われても……俺としては余計頭を混乱させるばかりなんだが。

 ともあれ、前の戦争と関係している可能性は否定できないので、頭の隅に置いておくことにしよう……そこで料理が届き俺達は食事を始める。


 後はとりとめもない雑談……ただしジュリウスは参加せず。ターナは現在すっかりベルファトラスの生活にも慣れ、むしろ旅をしている俺達より街についても詳しいくらいだった。


「そういえば、レンさん」


 ターナが一度フォークを置いて俺に問い掛ける。


「闘技大会で優勝したわけですが、まだセシルさんの屋敷にいますよね?」

「ん? どういうことだ?」

「いやだってほら、屋敷が与えられているんでしょ?」


 ……すっかり忘れていた。闘技大会後すぐに旅立ったこともあって、その辺りのことが抜け落ちていた。ついでに言うと、セシルも指摘しないな。

 というか、屋敷を手に入れたとか面倒この上ない気がするんだが……俺が困った顔をすると、リミナが苦笑する。


「その辺りは……ここに居住を構えることを含め、いずれ決めればいいのではないですか?」

「まあ、そうだな……」


 戦いが終わった後、どうするかも今の内に考えておくべきなのだろうか……? いや、まだそういう段階には至っていないか。とりあえず今は、余計なことを考えずに明日以降の戦いに集中すべきだ。


 けれどターナはその辺りのことがまだ気になるのか、さらに問い掛けてくる。


「リミナさんは?」

「……はい? 何がですか?」

「だから、リミナさんはどうするの? そこに住むの?」


 問われ、彼女は硬直した。


 ……まあ、言わんとしていることはわかる。けど、その質問は非常に答えにくいだろうな。


 リミナはしばし沈黙した後、困惑した顔を見せ、


「……えっと、戦いが終わってから考えます」

「そう」


 会話が唐突に終わる。ターナは興味を失くしたらしく……この辺りの感情の変化には少しついていけない。

 ま、面倒な話題でもあったので、とりあえず会話が終了したことを良かったと思おう……けど、いつかは考えるべきことではあった。全ての戦いが終わった後――これは俺達が勝利したということだけど、その後どうするのか。


 ベルファトラスに腰を落ち着かせるのか、それとも根無し草を続けるのか……旅を継続すれば屋敷とかどうなるのだろうとか、余計なことまで考える始末。

 うん、これはあれだ……深く考えたらダメなパターンだな。


 というわけでそれ以上は何も考えずに食事を終え帰ることにする。屋敷に向かう途中幾度か声を掛けられ……ベルファトラスに住む場合は、こういう声掛けにも慣れないといけないんだよな、などと考えたりもした。


 そしてセシルの屋敷に戻ってきた――その時、


『ああ、そうだ』


 ジュリウスの声が耳に届く。


『一つ伝え損ねていたことがある……魔王の城そのものについてだ』

「城そのもの?」

『守秘義務があるため、入ったことのない私も深くは知らない。だが魔王の城は、ある異名を持っている』


 異名……それはおそらく魔王城攻略の際何か役立つことになりそうだったので、俺とリミナは耳を澄ませ、やがて――


『魔王の城は、入ったことのある魔族からは『夢の城』などと呼ばれている……どんな意味合いを持つのかわからないが、仕掛けがあるのは間違いないだろう。この情報を参考にして、是非とも頑張ってくれ』


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