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関わる理由

「他に質問はあるかい?」


 ナーゲンが問い掛けるが、俺やリミナは首を左右に振る。戦争についてはある程度理解したが……やはり、核心的な情報ではなかった。

 資料などを漁るのも一つの手ではあるのだが、時間的にじっくり調べることも無理だろう……魔王との戦いまでに、結論を出すのは難しそうだ。


「なら……私からジュリウスに尋ねたいことがあるのだが」

『何だ?』


 ターナのペンダントから声がする。ナーゲンはそれに視線を合わせ、


「魔王城がこちらの世界に来て混乱しているのは理解できるが……魔族達が奪還しに来る可能性はあるのか?」

『微妙だな。そもそもアルーゼンに付き従っている魔族は城や南の塔にいるからな。こちらに残っている魔族はいるにしても雑兵クラス。おそらく戦力にはなるまい』

「援軍は来ないと思っていいのかい?」

『少なくとも今回の一連の戦いを観察している魔族達が参戦しに来る可能性はゼロではないが、そう高くない。でなければ、前の戦争で魔王が滅ぼされた後他の魔族達が報復に来ていたことだろう』

「そうかもしれないが……シュウの行動に危惧を抱いているのは、何も魔王だけではないのだろう?」

『まあ確かに……しかし、ここまで来てもなお魔族の大半は傍観者的だからな……』

「ジュリウス自身はどう考えている?」

『私か?』

「私達が魔王と戦い、仮に倒してしまった場合――」

『新たに魔王が選定される。それだけだろう。それにアルーゼンのやり方に反発する者もいるというのは以前説明したはずだ。そう混乱も起きないだろう』

「その魔王が、人間だったとしても?」


 ジュリウスは沈黙した。そうか、もし魔王アルーゼンが倒されてしまえば、シュウ達の目的も達成され公算が高い。

 彼らは魔王となるのを目的としているのかは確定ではないが……その可能性は十二分にある。


『……さすがに反発もあるだろうが、それは正直なってみないとわからないな』

「ジュリウス自身はどう考えている?」

『面白くはない。しかしだからといって魔王の名を継いだ者に対抗しようとも思わないな。私の勢力範囲に入らなければ、気にすることもないだろう』


 やはり好き勝手に、という感じだな……こちらとしてはありがたい話だが。


「わかった。参考にさせてもらうよ」

『英雄も大変だな』

「フロディアがその辺りを危惧していたからね……実際、あなたに訊きに行こうかと考えていたようだから」

『ふむ、そうか』

「……ここまで来て、あなたはどちらかというと協力的だが、大丈夫なのか?」

『以前も語ったが、問題ない……それに、もし同胞に止められたとしても私はこのまま関わり続けるつもりだ』

「なぜ?」

『知識欲、とでも言えばいいか』


 声は、はっきりと好奇に満ちていた。


『知りたいのだよ。魔の力に浸されながらなぜ、英雄は現魔王を倒すべく動いているのか……その結末を知るには、君達の協力が不可欠だろう。だからこそ、こうして話をしている』

「……なるほど」


 苦笑するナーゲン……まあ、ジュリウスの気持ちはわからなくもない。

 けど、どんな理由であれ協力的なのは良いと思うことにしよう……そんな風に考えていると、さらにナーゲンが言う。


「……だが、その知識を得ようとした結果、魔王が倒されるかもしれないわけだが」

『さっきも言った通り面白くはないが……その程度の魔王だったと捉えることもできる』


 切り捨てた。この辺りは非常にドライ……というか、彼の場合は知識を優先したとでも言えばいいのだろうか。

 ともあれ、やはり敵になる可能性は低そうだ……沈黙しているとさらにジュリウスから声が。


『現魔王はああして表立って動いている以上、私達に権威を見せるのなら明確に力を示す必要があるだろう……例え、力を封じられたとしても』

「……何?」


 聞き捨てならなかったのか、ナーゲンは声を上げた。


「力を封じられた?」

『英雄フロディアが解析しているのですぐにでもわかるだろう。実は私も魔王城の結界については調べた。興味本位でな』


 そんなことまで……沈黙していると、ジュリウスはさらに言葉を紡ぐ。


『選抜試験の時、英雄フロディアは結界を構築した……魔族の力を抑えるものだったが、似たような術式があの結界の中では構築されている。結界の中までは確認していないが、おそらく内部にいる魔族の力を制限しているはずだ』

「魔王アルーゼンの力も?」


 俺が問い掛けると、ジュリウスは『そうだ』と返答する。


『シュウもそこについて懸念していたに違いない。魔王の能力である『領域』については、私の目から見ても強力だ。魔界ではあの力を魔王城の周囲に伸ばすことが容易にできるはず……普段の魔王ならば、結界の中に足を踏み入れた時点で串刺しになる。これでは勝負にならない』

「つまりシュウは、俺達に魔王を倒させるために準備を行っていたというわけか……」


 完全にお膳立ては整っている……やはりシュウは俺達に魔王を倒させるため、色々と準備を重ねてきたのかもしれない。


『そこについては特に重点的に、という可能性は極めて高い。つまり、先代魔王との戦いとは少し趣が異なるだろう』

「とはいえ今度はこちらから攻める以上、大変なのは間違いない」


 ナーゲンが口を開く。確かに、今回の相手は魔王の城……結界で力が弱まっているとはいえ相手の本拠に踏み込むのだから、一筋縄ではいかないのは間違いない。


『私としては、人間側に十分勝機があると考えている……ぜひとも、頑張ってくれ』


 魔王を倒すことに期待するような言葉……彼の場合は知識を手に入れるため、とでもいえばいいのだろうか。


 ともあれ、シュウが様々な準備を行っているのはわかる……それは俺達に魔王を倒させるためであり、その先にあるものを彼やラキは求めている……というのは、ここまで入念な準備をする以上間違いないだろう。


「わかった……他に質問は?」


 再度ナーゲンが問う。俺達は黙って首を左右に振った。


「ならば、これで終わりだね……レン君、明日か明後日には決戦が始まると思う。覚悟しておいてくれ」

「はい」


 頷いた俺にナーゲンは満足げだった。返事が力強かったためだろう。

 そしてリミナとターナを伴い闘技場から出る。時間は昼くらい。時間はまだあるが、これ以上話を聞ける人も思い浮かばなかった。


「勇者様、戻りましょうか」

「そうだな」


 同意と共に俺達は歩き出す……と、


『待った』


 ジュリウスの声が響いた。


『こんな時だ。少しばかり話をしないか』

「俺達と……か?」

『ああ。今回は特に見返りは必要ない……というより、根本的なことをお前達は尋ねていないと思うが?』


 どこか面白おかしく語るジュリウス……そこで、リミナが「ああ」と声を上げた。


「つまり、現魔王のアルーゼンについて何も聞いていないだろうと」

『私も選抜試験の後英雄達には話したのだがな……二人の様子からだと、それを把握していないようだ』

「ナーゲンさん達が話さなかったのは、何か理由があるのですか?」

『戦いに直接関わるわけではないからな。ただ、前と今の状況は少し違う』


 そこまで言うと、ジュリウスは俺へ語りかけるように言う。


『勇者レン、君は魔王のことを知りたい様子。特に先代魔王について知りたいようだが……現魔王について知っておいても損はないかもしれないぞ?』

「先代魔王と縁があったわけじゃないんだろ?」

『だが、アルーゼンが即位した話を聞けば、何か思いつくかもしれない』


 ――色々と情報を与えて、真相に近づけさせたい、という目論見があるのかもしれない。

 まあ、それほど重要な情報ではないかもしれないが……確かに、魔族や魔王の一端を少しでも知っておいて損は無いだろう。


「わかった……そこまで言うなら、話を聞こうじゃないか――」


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