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英雄と戦争

「そして、そこから人間側が反撃を始めた」


 ナーゲンはさらに魔王との戦争について話を進める。


「といっても、大国が魔王の進撃をどうにか押し留めているというのが実状だった。さっきも言った通り魔王は大国を一つ滅ぼしている……人間側にとってもそれはかなりの痛手となり、魔王側に状勢が傾くのも時間の問題だと思われた……そこでシュウが壁を超える技術を開発し、押し返すようになった……無論、それまでにかなりの犠牲が生じたよ」


 言葉は重い……その時の悲惨な状況を、ナーゲンは思い出しているに違いない。


「そこから、徐々に魔王側の勢力圏が減少し始める……圧倒的な力を持っていた魔王軍だったが、欠点も存在していた。部隊の主力は魔物で、それには魔族の指揮がなければならなかったことはその一つだった……それまでは軍を率いる高位魔族にほとんど対抗できなかったが、壁を超える技術を習得した事で倒せるようになった」

『なるほど、な』


 するとジュリウスが声を上げる。


『魔物は魔族の指揮なくてはまともに動かない。それを利用し、指揮官に狙いを定め叩いたというわけか』

「指揮官を倒せると分かった以上、取れる作戦はいくつもあった。もちろん魔王側も対策がなかったわけじゃないが……私達は、魔族を倒し続けた」


 そこでナーゲンは俺達を見回す。


「……魔王側の最大の問題点は、指揮する魔族の少なさだった。単純な武力で言えば間違いなく魔王達の方が上だった。しかし、それを御することができたのは軍の一部分である魔族のみ……そうだとわかっていても私達は手出しできなかったが、シュウの功績によりそれを打開した」

「そう考えると、シュウさんの功績は非常に大きい……」


 俺の呟きにナーゲンは頷く。


「加え、シュウは英雄として戦いに参戦し、また各地で戦っていた英雄も合流した。その中には私やフロディアという存在もいたが……その中心はやはり、アレスだった」

『それについては、私達も聞き及んでいる』


 ジュリウスが発言。するとナーゲンは笑い、


「関与しなかった魔族が話に聞く程だから、やはり相当なものだったみたいだな……彼自身魔王を倒すという大業をやってのけたが、それよりも前、いくつもの戦いで戦況をひっくり返した」

「ひっくり返した……?」


 リミナが問い返すと、ナーゲンは一転苦笑する。


「正直、最初は無謀極まりないと思っていた……アレスのやり方はひどくシンプルで、指揮を執る人物に突撃を仕掛ける。ただそれだけだった」

「それって、単なる特攻……」


 俺がツッコミを入れるとナーゲンは「まさしく」と答える。


「けど、彼にとっては十分勝算のある戦いだと言っていた……彼の行動により、救われた戦いというのはいくつも存在する。人間同士の争いでも頭を失えば瓦解するケースはあるのだけれど、魔族との戦いはそれ以上に顕著だったため、こういう戦果を得ることができた」


 そこで彼は肩をすくめる。


「……本来、どれほど強力な剣の使い手であっても戦局をひっくり返すというのは難しい。どれほど強くとも一個人が数に対抗するのは難しいからだ……けれど魔族側の問題点もあり、英雄アレスはそうした常識を平然とひっくり返した。それにより、私達はこうして生存できている」

「……英雄、アレスが」


 それだけの存在……アレスについても様々な疑問はあるが、話を進めることにする。


「そして、英雄アレス達は魔王と戦った……というわけですね」

「魔王も英雄アレスを滅ぼさなければ戦争に勝てないと思ったのだろう。魔王側が決戦の舞台を用意したよ。それはまさしく魔王と人間達の総力戦であり……戦いは、熾烈を極めた」


 ナーゲンもまた参加していたのだろう……俺は彼の言葉に耳を傾け続ける。


「相手の軍の中核を成していたのは魔王そのもの……幾度となく姿を変えその真の姿を公にしていない魔王と英雄アレスとを戦わせるために、私達は他の魔族達を食い止める役目を担った。それはそれまでの戦いとは根本的に違っていた。なぜなら、それまで魔族が率いていた部隊が魔王であることに加え、高位魔族が魔王に付き従うように多数存在していたのだから」

『そちらの被害も大きかっただろうな』


 ジュリウスの言葉。対するナーゲンは頷くことでそれに応じた。


「我々としては分の悪い賭けだった……戦線を押し返していた状況だったが、決して優勢とは言えなかった。とはいえ、魔王も苦しい状況だと思ったのだろう」


 ナーゲンは腕を組み、その時の光景を思い出したのか少しばかり遠い目となる。


「魔物を指揮する高位魔族の数は確実に減っていた。それに加え、魔王が侵略を繰り返していたため戦線が伸びていたこともある。魔王はこのまま膠着状態に陥れば、不利になるのは自分達……などと思ったのかもしれない。ジュリウス、どうだい?」

『おおむね間違っていないだろう』


 魔族の言葉にナーゲンは深く頷き、話を進める。


「だからこそ、魔王自身主力を率いて攻めた……狙いは当時主力を担っていたルファイズ王国。だから魔王との戦争の終盤は、ルファイズ王国を中心に戦っていた」

「そこがやられれば、人間側は敗北すると」

「滅亡すれば、戦う力は残らなかっただろう」


 俺の言葉にナーゲンはそう返した。


「当初、魔王そのものと戦うプランはなかった……というのも、高位魔族を倒し戦力を減らし続ければ魔王も引き上げるのでは、という観測が広がっていたためだ。誰がそんなことを言い出したのも今となってはわからないが……ともかく、優勢となり楽観的な見方もあったわけだ」

「けれどあっさり覆されたと」

「そういうことになる。当初、英雄アレスを投入するのに反対をした者もいた……アレス自身大陸の希望だった上、最後の砦だったからな。その前の戦いだって彼は赴こうとしたが、結局周囲の反対もあって戦わなかった」


 その時点で存在自体が戦局を左右するに至っていたというわけか……まあ戦況をひっくり返すほどなのだから、当然か。


「そして魔王が進軍した時……アレスは言った。私自身が負ければどうなるのかは理解できている。しかし、ここで戦わなければ、おそらくルファイズまで攻められてしまう……そうなれば、最早私でも手の打ちようがないだろう、と」

「その戦いが、最後の戦いだと英雄アレスは……」

「なんとなく察していたんだろう」


 ナーゲンは返答すると、再度苦笑。


「結局、彼の言葉に従い総力戦となった。その場にいた者は、間違いなく大陸でも最高の戦力だった。しかし相手は魔王。戦いは始終人間側が苦戦していた……そして、アレスも同様だった」

「魔王を相手にした英雄達もまた……」

「シュウが語っていたことだ。壁を超える力だけでは足りなかった。けれど、最終的にアレスは魔王を倒し……平和が訪れた」


 ナーゲンは一度目を伏せる。そしてゆっくりと俺達を見回し、


「戦争について話せるのはこのくらいだ……他に質問は?」

「では、ティルデさんについては?」

「……実は君が故郷へ旅立っている間に、セシル達から事情を聞き調べていたんだが……結局わからなかった」

「小さな村の領主だったから、でしょうか」

「おそらくそうだろう。それにあの頃は名も知れない人物達が出資していたなんて普通にあったからね……さすがに今どうやって関与していたかを知るのは難しいだろう」


 まあ、これは仕方のないことだろう……俺は「わかりました」と告げ、話を切り上げることにした。


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