表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/596

表層に現れた懸念

 俺とクラリスは王子の部屋へ赴く。そこにはエンスの他、ラウニイと伏せ目がちのリミナがいた。

 最初、そんなリミナに視線を向けてしまう。けれど彼女はこちらを一瞥しただけで、大した反応を見せなかった。


「どうしましたか?」


 王子が問う。俺は彼に目をやり、事情を説明する。黒衣の戦士との遭遇と、その戦いの結末――

 話し終えた時、最初に声を上げたのは机越しにいるフェディウス王子だった。


「大丈夫、ですか?」

「はい」


 俺は端的に答え、彼に口を開く。


「それで……正直な感想としては、捕縛などは非常に難しい」

「わかりました」


 王子は明瞭に答える。

 勇者レンとしての立場を考えれば……失望してもおかしくない状況。しかし王子は俺を非難する声は一切発しない。


「ルファーツの状況次第で、対応を考えましょう」


 王子は言うと、俺と目を合わせる。


「ひとまず怪我はないようなので、申し訳ありませんが引き続き警備をお願いします」

「わかりました」

「そしてルファーツが戻り、進展した場合再度お呼びいたします」

「……彼は、何を?」


 訊くと、王子は「今は、まだ」とだけ答えた。俺も無理には訊かず、警備の件を承諾する。


「わかりました。では警備に戻ります」

「お願いします」


 王子は頭を下げる。俺もまた小さく礼をした後、部屋を出た。


「さて、引き続き警戒ね」


 廊下に出た瞬間、クラリスが声を発する。俺は小さく頷き、


「まず二階からだな」


 言って、歩き始めた。王子の部屋に戻る前に兵士と出会い「次は二階を」という指示を受けていたからだ。


「でも、二階から侵入なんてあり得るのか?」


 俺は呟きつつ――魔法を使えば可能なんだろうと思い至る。


「浮遊系の魔法を使えばできるよ」


 裏付けるようにクラリスが発言。ならば油断はできない。

 まずは王子の部屋のある先を進む。廊下は一階同様照明があるため、移動に不敏は無い。


「……ねえ」


 その最中、ふいにクラリスが発言する。


「さっきのリミナの態度だけど……」


 そこに食いついたか。俺はすぐさま困った顔をして、クラリスに返答した。


「……明らかに動揺を押し隠している様子だったな」

「レンにも理解できたようね」

「まあ、な」


 目を伏せ、何かに耐えるように立つリミナを見て直感した。本当は話せればよかったのだが、状況的にそうすることもできず。

 答えを出せないまま無言になると、クラリスが問う。


「あれ、どうしようか」

「どうしようか、とは?」

「私はリミナと古馴染みだから性格大体知っているけど……リミナはちょっとばかり思い込みの強い所があるから、一度疑うとそうと決めに掛かっちゃうのよね」


 言いつつクラリスは、腕を組みながら続ける。


「だから今回の件も、あれは冗談だと言っても絶対耳に入れないと思うのよ。というより、疑っていた事実そのものが眼前に現れたわけで……確定だと結論付けているはず」

「う……となると、どうすれば?」

「何かきっかけがあればいいけど……どうするかな」


 話している間に、俺達は廊下の角を曲がる。一階と構造が同じらしく、直線的に廊下が続いている。

 奥に目を凝らすと、兵士が一人いた。彼は歩く俺達に気付いたか、首を向け小さく手を振る。


「お疲れ様です」


 接近すると兵士が呼び掛けた。俺はそれに応じつつ、彼に喋り始める。


「他の兵士の方から、二階を回って欲しいと言われまして」

「そうですか。二階はどうしても手薄にならざるを得ないので、有難いです」


 彼はニコリとしながら俺に言う。


「私は部屋に異常がないか調べるので、巡回をお願いします」

「わかりました」


 俺は頷き、兵士を越え進み続ける。やがて辿り着いたのは、食堂上にあると思しき部屋に続く扉。


 扉の上には『倉庫』と書かれた金属プレート。俺は黙ったままノブに手を掛ける。押すと、あっさり開いた。

 反射的に剣の柄に手をかけつつ、中を窺う。


 室内は雑貨など使われていない物がたくさん並んでいたが、基本壁際に置かれ廊下から部屋を一望できる。

 さらに照明が灯され、埃がほとんどないことも確認。定期的に掃除しているらしく、存外綺麗。


「いないみたいね」


 呟くクラリス。胸中同意し、柄から手を離し扉を閉める。


「じゃあ反対側だな」


 俺は呟き移動を再開。部屋を調べる兵士の横を抜け、元来た道を戻る。


「しかし、今日は眠れるのか……?」


 そこでふと、この状況を勘案し疑問を抱く。


「一晩中、こういうことをやる必要があるよな?」

「そうね」


 クラリスはあっさりと同意。彼女を見るとピンピンしており、徹夜も辞さないという態度。


「一日くらいどうってことないでしょ」

「いや……眠らないと辛いだろ?」

「いざとなれば魔力で無理矢理体を活性化するのもありだし」


 そういう風にも使えるのか――角を曲がりつつ俺はクラリスに詳細を尋ねようとした。だが、


「あ……」


 彼女が声を上げ、俺は口を閉ざす。


「ちょっと変わった展開ね」


 正面を見ながら話すクラリス。視線を前にやると、王子の部屋前に――


「……リミナ?」


 先ほどまで色々と懸念していたリミナが立っていた。


「お疲れ様です」


 近寄ると彼女はまず一言。声がずいぶん硬い。


「交替です」


 そして彼女の言葉に――俺は目を見張った。


「交替……?」

「はい」


 はっきり頷くリミナ。俺とクラリスは一度顔を合わせ、


「何かあったの?」


 クラリスが問う。するとリミナは俺達の態度に僅かながら目を細め、


「……王子から許可は得ました」


 とだけ告げた。


 もしかして、交替するようにリミナが王子に進言したのだろうか。俺とクラリスは再度顔を見合わせ、どうしようか思案する。

 無論、これはリミナと警備をやるのが嫌というわけではなく――先の事情に基づいた行動のはずなので、どう応じた方が良いのか答えを出しあぐねているのだ。


「……リミナ、一度王子に会わせてもらっていい?」


 そこでクラリスは改めてリミナに向き直り、提案する。


「念の為、事情を訊かないと」

「……わかりました」


 渋々といった雰囲気で応じる。

 俺は彼女の態度に一抹の不安を覚えつつ、再度王子のいる部屋に入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ