彼の推測
セシルの屋敷に戻り別働隊であったフィクハ達と合流。リュハンも魔王城が現れたことにより駆り出された結果となったらしく、とりあえずロサナとリュハン抜きで食堂に赴き、会議を行うこととなった。
遺跡側と塔の調査側とで向かい合って座り……俺達は、会議を始める。
「まずはこっちから話すよ」
フィクハが言う。俺達を一瞥した後、説明を行うた。
「魔族が占拠した塔については、さしたる動きはなかった。基本専守防衛らしく、周辺の森にも魔族はいるけど、私達を追い払うだけで追ってくることはなかった」
「その場所を占拠した理由とかは……」
「さすがに数も多く潜入するのは難しかったから、不明のまま」
俺の質問にフィクハは肩をすくめた。
「けど……個人的な見解を述べさせてもらうと、魔王側は私達を警戒していたというよりは、別の何かを警戒していた感じがした」
「それは……シュウさん達か?」
問い掛けに、彼女は頷いた。
「たぶんだけどね……ここからは推測だけど、塔にはシュウさん達が踏み込むべき何かがあると魔王は思ったんじゃないかな」
「でも実際は、俺達の所に来たけど……」
「現在も警戒は解かれていないから、もしかすると遺跡の件とは関係ないことなのかもしれないけど」
結局、推測しかできないか……けど一つ思うのは、現在俺達に加え魔王側もシュウの手のひらの上なのではないかということ。
「正直、ここまでの一連の流れ……シュウさんの計画通りのように思えるな」
俺が発言すると、全員が神妙な顔つきとなる。その中でセシルやリミナについては同意するような雰囲気も見て取れた。
そこから今度は俺達遺跡側の説明に入る。さらにフレッドのことを言及すると、グレンの顔が険しくなった。
「そうか……残念だ」
「魔王側と戦う場合、ヘクトのような存在も気を付けないといけないかもしれない」
「確かにそうだが……魔王城だからな。例え配下に加えたにしろ、魔族以外の血が入る存在を城に入れるとは思えないのだが」
「かもしれないけど、警戒はしとこう」
俺の言葉にグレンは頷き、ひとまず報告については終了。次は今後の方針についてだ。
「俺達は指示を待つことになるけど……何か、やっておきたいこととかはあるか?」
問い掛けるが、全員首を左右に振る。ならひとまず解散ということで、俺達はロサナ達より連絡があるまで屋敷で待機することとなった。
夜、俺はテラスを出て夜空を見上げる。後は眠るだけとなったのだが、なんとなく寝付けなくてこうして空を眺めている……今この時魔王が襲い掛かってくるかもしれないと考えると、落ち着かない。
「きちんと体調を整えておくことも大切なんだろうけど……」
色々と気持ちが高ぶっているらしい。とはいえシュウ達はまだ何かを隠している。真実を知るのはまだ先なのかと思いつつ、俺は再度ベッドに潜り込むべく部屋へと入る。
「レン……」
ふと、この世界にいた勇者レンのことを思い出す。夢に出てくるとしたら、今……などと思ってはみたが、果たして現れてくれるだろうか。
「できれば戦う前に訊いておきたいところだけど……」
呟きつつベッドに入り目を瞑る。それでもしばらくは眠れず、張りつめた空気の中立ち上がりたくなる衝動を抑え意識が飛ぶのを待ち――
ふと、気付けば白い空間にいた。
「……あれ」
「蓮」
名前が後ろから。振り向くと、制服姿のレンがそこには立っていた。
「レン……」
「何か訊きたそうにしていたからさ」
どうやら把握してもらえたらしい。俺は「ああ」と答えつつ、質問しようとして――
「待った。その前に情報を整理させてくれ」
「……わかった」
頷き、話したい衝動を堪えつつ俺はここ一連のことを話した。彼は説明に逐次相槌を打ち、俺が話し終えると大きく息を吐いた。
「そうか……魔王の城が出現するなんて、俺も予想できなかった」
「フロディアさんでもこの可能性は考えなかったと思うよ……止められなかったことは悔しいけど、そう言っていても始まらない。で、俺が知りたいのはラキのことだ」
「質問を一つだけ、か」
「シュウが興味本位で語っているのは間違いないけど、これまで彼らははぐらかしていたにしろ、嘘を言ってきたことはなかった……だから、今回も質問すればその答えは信用していいものだと思う」
「しかし、情報が無さすぎるな」
頭をかくレン。そこで俺は質問を行う。
「質問だけど、ラキがこうして活動した原因の一つは、ティルデさんに関わることだと思うんだけど……どう思う?」
「ティルデさんが?」
「亡くなる前と以後で屋敷の雰囲気すら違っていたように感じられたし、何よりラキやエルザが何かしら行動し始めたのも彼女が亡くなって以降じゃないのか?」
「……いや、亡くなる前から何かしていた兆候はあった」
口元に手を当て、彼は考え込む。
「でも、それはティルデさんの病状が悪化して以後の話だ……つまり、何かしら関係があるのかもしれない」
「仮にそれが原因だとすると……」
「わからない……いや、考えられるとするなら、ティルデさんを蘇らせようとしていた、といったところかもしれない」
「蘇らせる……?」
俺はその言葉に首を傾げる。ティルデ絡みであればそれもまた頷けるのだが、そもそも魔の力によって蘇らせるというのは、どうも違和感がある。どう考えても、魔族の力により人を生き返らせるって、想像できない。
「ゾンビとして、とかじゃないよな?」
「あくまで推測だからどうとも言えないけど……でも、一つ疑問がある。屋敷にあった書物には魔族の力で使者を蘇生するなんて文献は当然存在しなかった……というか、そもそも魔族に関係した書物は非常に少なかったくらいだから、仮にそういうのがあったとしてもラキやエルザがなぜそうした手段を知ることができたかも謎だ」
なぜ知ることができたのか……か。またしても謎が一つ増えた。
「魔族に関する書物は少ない……か。ちなみにそれはどういう類の本だったんだ?」
「魔族に関する調査資料だよ。あくまで人間が作成したものだから、魔族の本質を突いていたのかは疑問だけど」
「そっか……」
わからないことだらけだった。そうしたことについてもシュウ達は説明できるのだろうか?
考えていると、レンはさらに疑問を口にする。
「それに、そういう風に考えるとしたら、なぜラキがエルザを殺したのかも疑問が生じる」
「確かに……わざわざ斬る必要はないな」
レンに訊いても、おかしな行動を取っていたという事実は聞けたが、それ以上のことはわからないか……これではとても、真実にたどり着けそうもない。
「何か思い出したら、また夢の中で連絡するよ」
レンが言う。俺は「お願いするよ」と答え、会話は一区切りとなった。
あとはこうして再会できたのだから、簡単な近況を聞く……それでひとまず会話は終了し、あとは目覚めるのを待つだけになった。
どうもこの夢みたいな空間は、任意で時間を操作することはできないらしい。前は色々訊きたいことがあったから最後バタバタしたけど、今回はずいぶんと余裕……なんだか変な気分だ。
「蓮、一つだけ」
そして意識が遠のき始めた段階で、レンは口を開いた。
「苦しい戦いが続くと思う……俺にできることはすごく少ないし、こうして背負わせてしまったことは申し訳なく思う」
「謝る必要はないさ」
「ありがとう……もし何かあったら必ず力になる。それだけは、忘れないでくれ」
「わかった……レン、ありがとう」
「こちらこそ――」
レンが返答した時、彼の姿が消えた……これで夢から覚めるなどと思った時、
次に気付いた時、そこはレンの故郷の屋敷廊下だった。
え……と思ったのは一瞬。体は勝手に動き出し、廊下を歩き始めた――どうやらレンと出会ったことに続き、過去の夢まで見ることができたようだった。