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葬るべき事実

 嘆くような声を残し、ドラゴンは崩れ落ちる。両後足の先端が斬撃によって飛ばされ、頭部や胸部を撃ち抜かれた無残な相手は――やがて、淡い光に包まれる。


「もし普通の軍隊相手なら、一方的に蹂躙してたのは間違いないでしょう」


 ロサナは言う。俺達の圧勝という戦果だったが、その目は非常に厳しいもので、言葉もまた重い。


「私達が相手で、本当に良かったと言わざるを得ないわね……もし彼が普通の街で力を開放していたら、壊滅していてもおかしくない」

「まったくですね」


 後方のオルバンも同意。


「動き回ることのできない閉鎖的な空間と、一人一人が柔軟に対応できる能力を持っていた……だからこそ、こうして勝利できたと言うべきでしょう」

「そういうことね。今後、魔族と人間やドラゴンの融合体みたいなのが現れる可能性は高くないと思うけど……警戒はしておいた方がいいでしょうね」


 二人が話す間に、ドラゴンが完全に消える。俺は息をつき剣を収めようとしたが、ロサナがそれに待ったをかける。


「まだ完全に消えていないかもしれない……この状態を維持し、少し待ちましょう」

「欠片でも残っていたら、また魔力により再生されてしまうかもしれませんしね」


 リミナがロサナの言葉に応じつつ杖を構える。俺もまたそうした行動に合わせ剣を再度握り締めた。

 そこからおよそ十分が経過し……ロサナがようやくオルバンに結界解除を告げる。それにより遮断されていた空間がなくなり……それでも、ドラゴンが現れることはなかった。


「どうにか、勝利ね」


 ロサナが小さく息をつく。そこで騎士達も剣を下ろした。


「そういえば、一つ質問があるんだけど」


 剣を収めたセシルがロサナへ声を上げる。


「今回の相手は驚異的な再生能力を持った存在……で、それはいいんだけど、こうした存在って魔族にはいないの? さっきそんな感じみたいに言ったけど」

「そもそも魔族は人間と似たような身体構造だから、さっきみたいな驚異的な再生能力を持つのは難しいとされているわ……これはあくまで人間側の研究結果だから、他に要因があるのかもしれないけど。魔族にはそうした再生能力がないのは、戦争などの経験からある程度納得できるはず」

「確かに、そんな能力があったら再生能力をいかして戦争なんてどうにでもできたよね」

「そういうこと……まあ、さっきのヘクトという存在は、言ってみればネクロマンサーが操るゾンビみたいなものよ」

「つまり、誰かが操っていると?」

「魔族の力を与える時、再生するように魔力を組み替えて与えているとでも言えばいいかしらね……そういうわけだから、魔族だとしても不自然な力にしかならない……ただ」


 と、ロサナはドラゴンがいた場所へ目を向ける。


「さっきのドラゴンは、明らかに強い魔力が混ざっていた。あれだけの再生能力を大地などの魔力なしに機能させるのはかなり大変だと思うわ」

「……魔王か、それに準ずる魔族の仕業かもしれないですね」


 リミナがロサナに応じると、彼女もまた「そうね」と答えた。


「答え探しは無駄だからしないことにして……さて、散々破壊してくれたけど、ようやく調べられるわね」


 俺は彼女の言葉と同時に入口が破壊された広間を見る。何もない石室だが、最奥でここにヘクトがいた以上、何かあると考えて間違いないだろう。


「ノディ、何か感じる?」


 ロサナは魔族の力を持つノディに問い掛けるが、彼女は首を振る。


「怪しい所はないかなぁ」

「そう。なら少し時間を掛けて調べましょうか。それで何かわかったら、都度対応するということで」


 ロサナは言い、歩み始める。合わせて、俺もまた動き出した。






 ロサナやリミナ、さらにノディが調べている間に、俺はジオと会話を行う。騎士側の状況がどのようなものかを確認したかったためだ。


「現在、魔族が動いていることもあって大陸の各国も連携に動いている。仲の悪い国同士もあるのだが、魔王が引き起こした先の戦争の記憶もあることから、比較的円滑に事は進んでいる」

「そうした方々に、事情は?」

「シュウについてのことは、あくまで操られているということだけだ。核心的な情報は、やはり支持者も多い以上難しい」

「……このまま、真相を話すこともなく戦いが始まりそうですね」

「これはきっと、闇に葬られるべき事柄なのだろう」


 ジオは神妙な顔つきで語る……確かに、そうかもしれない。


 英雄であるシュウに対し、魔に侵されたと言って信じる人がどのくらいいるのか……むしろ、実際に魔王の力を持つシュウを目の当たりにしても、まだ信じ続ける人だって少なくないだろう。


 そこまで考えて、ふと疑問を抱く。


「……シュウさんの支持者は、当然多いですよね」

「そうだな」

「そうした人達を集めて、事を成そうと考えないのでしょうか」

「そもそもどういう目的なのかはわからない以上言及するのも難しいが……彼は魔王との戦争を経験している。それを振り返り、大きな組織は制御できなくなると考えたのかもしれない」

「少数精鋭の方が良いと?」

「あくまで可能性だが」


 やっぱりここは、どういう目的を持っているかによって変わるか。


「結局、まだシュウ殿の目的はわからない……私としては、そこが一番気にかかる」

「……そうですね」

「彼らが一体何をしようとしているのか……それを解明しないことにはこちらは先手を打つことができない。それがどうにも気に入らない」

「情報を渡さないという点も、シュウさんの計略の一つなんでしょうね」

「かもしれないな……レン君は、その辺りどう考えている?」

「正直、わかりません……ただシュウさん達の言葉を考えると、本質的な行動目的はラキが持っているようですが……そういえば、エンスやミーシャはなぜラキやシュウさんに従うのでしょうか」

「そこは、目的に関係しているとしか考えようがないな」


 ジオは肩をすくめた。俺としては頷く以外なく……さらに考える。


 彼らの言葉や、様々な情報を統合して推察できるのは、魔王復活か、ラキが魔王になることだろうか。ただ、それを成してどうするのかというのが一切見えてこない。そもそも魔王を復活させるとして――あるいは魔王になるとして、そこから一体何をするのか。


 シュウが目的の中心にいるなら、魔に侵されている以上狂気的な考え……世界の崩壊だとかを考えてもよさそうなものだが、目的の中心にはラキがいる。エルザを殺してなお目的を成そうとする……その先には一体何があるのか。


 ふと視線を転じる。最奥の広間には話し合うリミナ達。加え、入口近くには肩を回し周囲を見るデュランドやルーティ。ルファーツやオルバンは俺達と同様何やら話し込み、セシルは一人周囲をうろうろとしている。

 待機の時間である以上、セシルなんかがあからさまに退屈そうな感じだな……まあ戦いは終わったんだ。少しくらいは気を抜いても――


 その時、廊下の奥から靴音が響いた。即座に廊下にいた全員が動きを止め、注視する。


「……残っていた、魔族じゃないよな」


 呟き、俺は剣を抜く。リーダーであるヘクトは倒した。そうである以上、魔物や彼によって魔族にされた面々でないと推測する。

 一体誰なのか……フロディアなどであったならばいいのだが、そうであれば連絡の一つもあるはず。となれば――


「一体……」


 ジオが小さく言葉を紡いだ瞬間、姿と声が聞こえた。


「――ご苦労だったな」


 ひどく聞き覚えのある声だった。それに、広間にいた面々も廊下に出る。


「……今頃、ご到着か」


 セシルは剣を構え相手を見据える……俺も視認し、改めて相手が――シュウであると理解した。


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