騎士と精鋭
騎士は全員で五名。ジオにオルバン。加えドラゴンの騎士であるデュランドと、ルーティ。さらには、ルファーツの姿があった。
「ずいぶんなメンバーだね」
セシルがドラゴンに視線を送りながら言うと、返答はジオからやって来た。
「重要拠点ということで、国側もかなり警戒していたからな……君達が打ち漏らした敵と交戦して、さして問題にならないと思っていたが……最後の最後に、面倒な相手が登場したようだ」
「ま、人間の私達にとって厄介な相手と言えるわね」
ジオに続き、ロサナが口を開いた。
「持久力というのは、人間の器である以上どうしようもないからね。魔族や魔王に対して傷を与えられる手段はあるし、長期戦に持ち込まれても策で対応できる。けど、こういうシンプルな能力だとね……純粋な魔族ならなんとかなるけど、ドラゴン混じりとなると私達も有効な手が中々打てないわけ」
「なら、こっちも数で押し切るしかないでしょうね」
オルバンが口を開く。そしてロサナに近づき、
「状況は理解できています。魔力を遮断する結界を張ればいいのですね?」
「理解が早くて助かるわ。けど、あのドラゴンの質量に耐え切れるものじゃないと厳しいわよ」
「大丈夫です。ロサナ様は攻撃を行ってください」
「了解」
――段取りは整った。俺が騎士達に視線を送ると、全員俺へと歩み寄る。
「手足を封じ動けなくしつつ、攻撃を重ねよう」
提案はジオ。俺は小さく頷き他の仲間達へ視線を送る。
セシル達もジオの提案に同意なのか首肯し、
「具体的にもう少し作戦を詰めるかい?」
「いや、ドラゴンがどういった動きをするかわからない以上、各自に任せた方がいいだろう」
セシルに返答しながらジオは一歩前に出る。
「騎士の面々だが……ルーティとデュランドは右側。私は左に回ろう。ルファーツは結界を維持するオルバンの護衛を」
指示に従い全員動く。どうやら騎士団のリーダーはジオらしい。
「なら、私は騎士ジオに合わせて左で」
「なら僕は、遊撃という形にさせてもらうよ」
ノディとセシルが述べ、動く。さらに、
「私とリミナは適宜魔法を撃ちこむことにするわ……レン君はどうする?」
「……魔法を中心に、セシルと同様遊撃で」
「了解……頑張って」
ロサナは言葉と同時に一歩下がる。そこでドラゴンの爪が結界に衝突。
「合図と共に結界を解除するわ……オルバン」
「こちらは準備できました」
オルバンの声にロサナは深く頷き……いよいよ、始まる。
「――今!」
彼女が結界を解く。同時にオルバンの結界発動の声が響き――俺達を囲うように結界が生み出され、ドラゴンが吠えた。
刹那、左右にいた四人が一斉に動いた。ドラゴンに接近し咆哮による威嚇をものともせず、その足に剣戟を叩き込んだ。
右足には豪快なデュランドの剣と流れるようなルーティの一撃。左はジオの正確な斬撃とノディの大振り。合計四つの剣によって、両後足が両断された。
当然、ドラゴンは突進などできずその場に崩れ落ちようとする――が、すぐさま足の再生を始めた。そこへ容赦なく剣を叩き込む四人。しかしそれでも再生が繰り返される。
すると今度は両前足が騎士達へ向け掲げられる。その時、
「――光よ!」
リミナの声。光の槍が右前足へと向けられ――見事直撃、先端が完全に形を失くす。
俺は続けざまに左前脚へ雷撃を放った。それによりリミナと同様先端が消失。しかし、やはり瞬時に再生を始める。
再生速度は目を見張るものがある……動きを止め続けるには、騎士達が来なければ厄介なことになっていたのは間違いないだろう。
なおも執拗に再生を繰り返すドラゴンだが、騎士達の攻撃とリミナ達の魔法。さらに俺の雷撃なども合わさり、確実に動き止めることができた。もしあの爪が振るわれたら、誰かが負傷する可能性が高い。だからこのまま攻撃し続けることが何よりも望ましい――
ドラゴンが吠える。直後、騎士達が斬った瞬間から再生を始める――どうやら速度が増した。それにより両前足も再生し、振り下ろしそうになった。
「ふっ!」
そこへ今度はセシルがカバーに入る。彼が狙ったのは腹部。大振りな一撃がしかとドラゴンに入り込み、大きな穴を開けた。
その一撃によってドラゴンの動きが止まる。瞬時に再生が始まるのだが、それでも大穴を開けられては思うように動けないのか、大きく動作が鈍った。
なら――俺は彼に続いて雷撃を胸部へ放つ。それはドラゴンを貫きセシルと同様体に大きな穴を開け、さらに動きが止まる。次いでロサナがトドメと言わんばかりに頭部を魔法で撃ち抜いた。しかし、それでもドラゴンは滅びず再生を始める。
だが俺達としては予測できたことであったため、そのまま攻撃を継続。再生速度は戦闘開始直後から明らかに早くなっているが、ドラゴンに攻撃させる暇を与えることだけはしなかった。
この状況で、後は俺達がどの程度もつのかなのだが……ドラゴンの騎士二人やノディ、さらにリミナは問題ないだろう。人間である俺達の方が持久力的には不安が残るが――
その時、さらにドラゴンが雄叫びを上げた。さらに再生能力が早くなるのか――などと思った直後、相手は後退しようと後足を下げようとする。
「このままじゃまずいと思ったようね」
ロサナは断ずると、さらに攻勢をかけるべく俺達へ叫ぶ。
「全員、さらに攻撃を加えて!」
「言われなくとも――!」
セシルが声と共に斬撃を繰り出す。体にいくつも傷を生み出し、それもまた再生されてしまうが……確実に魔力を消費し、ドラゴンも余裕がなくなっているに違いない。
確かにこの再生能力は驚くべきことだが、図体が大きいため的として狙い易く、これだけ精鋭がいる以上俺達が圧倒する状況となっている。戦う前に不安を感じていたが、このメンバーならこうした特殊な相手であっても十分勝てる……それがわかったというのは、収穫と言えるだろう。
さらに猛攻が加えられ、ドラゴンは一歩後退する。そこへ間合いを詰め追撃を加える騎士達。一度ドラゴンは結界を破壊しようと爪を振るが、オルバンの生み出した結界は強固であり、傷一つつかなかった。
ドラゴンの様子から、確実に追い込んではいる……後は、俺達の魔力がどれだけもつか。
「――おおっ!」
俺は声を上げ再度雷撃。肩を吹き飛ばし、攻撃の手段を一時失わせる。
全員の表情を見れば、顔を引き締め、かといって苦しい表情をしている者もいなかった。状況に応じて対応できるようある程度余力を持って挑んでいるのが、俺にも理解できた。
そうして騎士達がさらに剣を加え動きを制限する――その時、明らかに再生速度が落ちた場面を目にする。
「何……?」
「どうやら相手も、再生能力を維持するのが辛くなってきたみたいね」
俺の呟きに対し、ロサナが言う。
「予想以上に早い……というより、私達が一気に攻勢を掛けたから相手も慌てている、というのが正解でしょう」
言いながらロサナはさらに魔法を差し向ける。それは人間で言う鎖骨辺りを直撃し、再生しようとするが……速度が上昇した時と比べ、遅くなっている。
「このまま畳み掛ければ、勝負はつきそうね」
ロサナは断じると、俺達へさらに檄を飛ばす。呼応するように誰もが剣を振り、俺もまた魔法を加える。
魔力はどうにかもちそうだと心の中で思いながら、ドラゴンに対し斬撃が降り注がれる光景を目で捉える。圧倒的……というか、ここまで戦力を整えた以上この結果も納得と言えばいいのかもしれない。
そこから、時間にして三十分程だろうか……再生能力が落ちてなお耐えていたドラゴンだったが……やがて、決着がついた。