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激闘――『襲撃者』

「光よ!」


 敵が向かいつつある中クラリスが声を上げ、頭上に明かりを生み出した。室内全体を覆う程ではないが、戦うには十分な光だ。

 その間に襲撃者は、右手に逆手で持った大振りのダガーを俺達に放つ。クラリスは魔法による一瞬の隙が生まれ――すかさず俺がフォローに入る。向かってくる攻撃に俺は剣で対抗し、衝突する。


 ガキン――という刃の噛み合う音がしたと同時に、息を呑んだ。重い――何でもない一撃なのに、先ほどの襲撃者とは比べ物にならない力。

 このまま押されるか――思った直後、襲撃者はあっさりと退いた。軽快なステップで俺達と距離を取り、短剣を構え直すほどの余裕を見せる。


 そこで相手の姿を克明に映す。全身黒ずくめなのはわかりきっていたが、唯一覗かせている瞳の色が白銀。その両眼が俺を見据えた時、えも言われぬ気配が心臓を(つか)みにかかる。

 強い――たった一度の攻防で断定する。短剣を構え超然としている襲撃者は、隙が無いと言うべきか……とにかく、攻撃を仕掛けられそうもない。

 いや、俺は雰囲気に呑まれているためそう感じるのだろうか――思案した時、再度襲撃者が疾駆した。


 一歩で間合いを詰め、こちらに迫る。即座に俺は反応し、繰り出された短剣を防ぐのだが――やはり重い。

 さらには、懐に入り込もうとする。まずいと感じた瞬間、クラリスの援護が入った。先ほどの戦い同様横手に回り、杖を放つ。


 襲撃者は俺に注目しながら、杖に短剣を振った。直後、パアンと風船の割れたような音が聞こえ、同時に魔力が霧散したのを知覚。さらにクラリスが押し返される。

 どうやらクラリスの杖に備わっていた魔力も短剣によって弾かれたようだ――


「――くっ!」


 そこで俺は刀身に力を込め、襲撃者へ斬りかかる。


 クラリスの攻撃を防いだため、その一瞬をついて――そういう目論見だったのだが、当てが外れる。

 襲撃者はあっという間に短剣を引き戻し、俺の一撃を防ぎにかかる。二つの刃がまたも交錯し、俺は押し返されまいと全身に力を入れた。


 すると、先ほどよりも抵抗が少なかった。そればかりか相手の方が俊敏に後退し、距離を取る。

 どういうことだ……と俺が疑問を感じた時、襲撃者が動く。思考する時間は与えてくれないようだ。


 俺は相手の動きに応じるべく、剣を構える。クラリスも杖を握り直し先端を相手に向けた。もし襲い掛かってくれば即応できるよう、万全の態勢に入る。

 途端に、襲撃者も動きを止めた。結果生じたのは、膠着(こうちゃく)と静寂。


 クラリスの魔法によって照らされた室内で、奇妙な沈黙が訪れる。俺もクラリスも……そして襲撃者も微動だにせず、時間だけが過ぎていく。

 恐ろしく長い時間――きっと十秒程度だと思うが、俺はそうとしか感じられなかった――が過ぎた後、クラリスが息を吸い込んだのを、耳に入れる。


「雷よ!」


 いつのまに詠唱したのか――クラリスは襲撃者へ一筋の雷撃を杖先端から放った。俺が瞬きをする間に閃光が生じ、相手は魔法をその身に受ける。

 直撃――逆に俺が瞠目(どうもく)した時、襲撃者が駆ける。効いていない。けれど、魔法による衝撃か多少ながら足が遅くなっているのを認識する。


「――おおおっ!」


 判断した俺は、剣に力を集中させ攻勢に出た。魔法による影響は多少なりともある。ならばその効果が途切れる前に攻撃を、という判断だった。


 斬撃が相手に放たれる。襲撃者は雷撃により動きを鈍らせつつも受け流す。だが、最初かち合った時よりも遥かに力が少ない。

 これなら――俺は連撃を叩き込む。勢い任せに剣を振り、襲撃者はそれを(さば)く。やはり力は少なく、俺の攻撃を受け止めるだけで精一杯の様子。


 俺はそこで理解した。最初と二回目の攻撃では、走ったことによる勢いを攻撃に乗せたため、力が強かったのだ。

 あれ以上の攻撃は来ない。ならば、ここで押し切れば――決断し、さらに攻勢に出る。

 相変わらず攻撃は叩き落とされている。しかしさらに力を加え、一気に突破しようとする。現状よりもさらに力を加えれば、相手はいずれ防げなくなる――


「――レン!」


 直後、クラリスが呼び掛けた。言葉によって俺は気勢が削がれつつも、上段からの振り下ろしを相手に決める。

 襲撃者は避けなかった。代わりに短剣をかざし受け止めようとする。けれど俺は構わず一撃を加え――剣が、止まった。


「え?」


 襲撃者が短剣で俺の剣を受ける。それまでとは異なる抵抗にこちらは動揺し、


「――っ!」


 何が起こったのかわかった直後、襲撃者が剣をすり抜け懐に滑り込んでくる。


 剣を引き戻そうにも決定的に間に合わない。何もできず短剣が照明に煌めき、俺へ放たれようとする。

 駄目だ、当たる――確信した時、横からクラリスの杖が差し向けられた。だが襲撃者はそれを予見し、短剣の柄部分で器用に杖を受け切る。


「……光よ、舞え!」


 瞬間、クラリスは叫び杖の先端が発光――俺の視界が白い光で埋め尽くされる。


「くっ!」


 その光に呻きつつ後退。クラリスも合わせて後ろに下がる。

 改めて状況を確認。襲撃者の立っていた場所は、光が渦巻いていた。きっとクラリスは杖を防がれても魔法で――そういう意図で攻撃を行ったに違いない。


「拘束系の魔法……これで捕らえられたら一番良いけど……」


 クラリスが簡潔に説明した時、突如光が消える。最初彼女が生み出した光が部屋を再び包み、襲撃者が姿を現す。


「そう簡単にはいかないか」


 クラリスは嘆息しつつ杖をかざす。俺も切っ先を襲撃者へ向け、腰を僅かに落とす。

 相手は無言。その中銀色の瞳が俺とクラリスを交互に見据え――やがてトンッ、と後方に跳躍した。


「待て!」


 俺が追撃を掛けるべく一歩踏み出した時、襲撃者は光の届かぬ範囲に逃れ、闇に溶ける。


「――光よ」


 クラリスはすぐに照明を生み出し、襲撃者が逃れた場所を照らす。しかし、その姿はどこにもなかった。


「逃げられたわね」

「……逃げた?」

「転移か、それとも闇と同化する魔法か……実際、気配がなくなっているでしょ?」


 言われて、気付いた。確かに戦闘中感じていた圧倒的な気配は消えている。


「ともかく、これでリーダー格はわかったわね」


 クラリスは構えを崩し語る。俺は頷きつつ、


「ごめん、助かった」

「いいよ。私も乾坤一擲の攻撃を見舞ったんだけど……通用しなかった」


 肩を落とすクラリス。そこで俺は先ほどの攻防を思い起こす。

 こちらが攻勢に出た途端、相手は防御に回った。そして上段からの一撃を防ぎ、すり抜けるようにして俺に迫った。


 この事実は襲撃者の力が、勢いのあった俺の上段振り下ろしより強かったことを意味する――


「虚実を織り交ぜる相手みたいね……最初の加速を含めた一撃を伏線にして、剣を本来の力で受け切り、反撃に転じた」


 ――そしてクラリスが、俺の言葉を代弁する。

 そう、虚実だ。走り込んだことで威力を増した……それが最高の一撃であると誤認させ、本来の力で隙をついて斬り込む。そういう手口だったわけだ。


「……今の俺には、手に負えないな」


 正直な感想を述べる。俺の言葉にクラリスは頷きこそしなかったが、憮然(ぶぜん)とした面持ちとなった。


 ――やがて、兵士がここにやってくる。戦闘があったことをクラリスが伝えると、兵士は「一度王子の下へ」と告げ、俺達は承諾し歩き出した。

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