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氷の攻防

 命を――フレッドは命と引き換えに時間稼ぎを果たそうとしている。なぜなどと訊こうと思ったのは一瞬で、俺は奥歯を噛み締めフレッドへ仕掛ける。


「来い!」


 挑発的に告げるフレッドに、俺は渾身の力を込めて斬撃を放つが――彼は、真正面から受け切った。

 その際、俺は刀身からフレッドの魔力が伝わり……その気迫に、小さく呻いた。宣言通り、自身の魔力を全てを賭して、というのが感覚的に伝わってくる。


「フレッド……!」


 なぜという言葉を喉の奥に押し込み、俺は剣を叩き込む。今度は連撃技である『吹雪』だったが――その斬撃を、彼は全て叩き落した。

 強い……というより、彼は俺の剣を受け切り時間を稼ぐという目的に終始し、それを遂行するために全神経を注いでいるのだと直感する。


 防戦に徹し、なおかつ魔力を全て注げば、こうして覇者である俺も抑えきれるということなのか……俺は再度『吹雪』を見舞うが、やはりフレッドは耐え切った。


 立て続けに『桜花』を繰り出してみるが、やはりその魔力によって押し留められる。俺の魔力量に対し、彼は魔力が全身から生じ、その全てが刀身に凝縮する。まさしく捨て身の攻防。


「どうだ? 人の力ってもんはすごいだろ?」


 どこか狂気を覗かせフレッドは言う……馬鹿かと叫びたい所だったが、俺は剣を彼から離し後退した。

 時間稼ぎが目的としたなら……ここをどうにか突破できたなら俺の勝ちだ。けれど、闘技大会で使用していた技が通用しない……いや、まだ手はある。


 再度駆ける。今度は氷の魔法を剣に集め、フレッドは身構えた。

 そしてまたも剣同士が衝突――刹那、俺の刀身から氷が生じた。一気に刀身から彼の腕に到達し、


「うおっ!?」


 驚愕の声。その間に肩まで到達し、その勢いで俺は彼を全身包み込むべく魔力を注いだ。

 結果、彼は瞬く間に全身氷漬けになる。そこで俺は剣を離し、仲間の下へ向かうべく扉に視線を送ろうとした。


 だが――次の瞬間氷を砕く音が聞こえ、


「効かねえよ!」


 フレッドは声と共に反撃に転じる。俺は咄嗟に身を捻って避け、間合いから脱した。


「動きを止めればって話みたいだが……俺は闘技大会でレンのことは見ていたんだぜ? この手に対処する策があって当然だろ? こんな氷じゃあ、一瞬たりとも動きは止められないぜ?」


 ――彼の体には、淡く魔力が感じられた。咄嗟に魔力を体にまとい、氷で覆われても大丈夫なよう対応したのだろう。

 となれば、雷撃か……? 俺は再度剣を構えると、フレッドは笑う。まるでこちらの手を読んでいるかのような態度……そこで、攻撃を中断する。


 雷撃もおそらく対応策があるのは間違いない。となれば残るは『暁』だけ。しかし、あの技を発揮するためには体のどこかに当てないといけないのだが、現状俺は一太刀も浴びせることができていない。


 だが……それでも、やるしかなさそうだ。


 フレッドに対し間合いを詰める。彼は迎え撃つ体勢であり、何度目かわからない衝突を見せる。

 問題は、どうやって当てるか――加え、そもそも起動ができるのか。レンの故郷へ行く間に『暁』については少しずつ訓練を重ねていたが、それでも確実に発動するとは限らなかった。


 いくつもの問題をクリアしなければならない……だが、迷っている暇はなさそうだ。

 俺は『暁』を放つべく勢いよく踏み込む。連撃の『吹雪』が止められている以上、生半可なやり方では一撃当てるのも難しい……しかし、


「――おおっ!」


 俺は声と共に一気に踏み込む。フレッドも先ほどまでとは違うと察したか顔を引き締め、迎え撃つ。

 初撃は横薙ぎ。それをフレッドはあっさりと弾くが……ここで、刀身が凍った。


「――っと!」


 フレッドはその氷を振り払おうという所作を見せるが、その間に攻撃。フレッドは氷をまとった剣で防ぎ、氷の破片が周囲に舞う。


「動きを止めようって寸法か……? だが、今の状況じゃあ――」


 フレッドが言葉を重ねる間に俺はさらに魔法を起動。今度は雷撃を浴びせたが――が、


「それはさすがによけられねえからな」


 フレッドは堪えていない。こっちについては重点的に対策を立てているらしい……なら!

 俺は一度彼を押し返すと、さらに氷の魔力を込め振り下ろす。フレッドはそれをどうにか剣で弾いたが、さらに氷が侵食する。彼は氷を振り払いたい様子だったが、こちらはそれを許さない。


「ちっ……面倒だな!」


 だがフレッドは負けじと俺の剣に対し迎え撃つ。動きが鈍ったのは最初だけ。氷をもろともせず、むしろ氷によってフレッドの剣がさらに危なっかしくなってしまったようにも感じられた。

 しかし、俺の狙いは氷漬けにさせることではない……作戦をさらに続行する。


 何度か剣を合わせ、さらに氷を彼の体へ張り付ける……フレッドはそれに構わず、防御を継続し、俺はなおも剣を繰り出す。

 またフレッドは、氷を至る所に張り付けられているにも関わらず、焦りなどは見受けられなかった。まだ剣を当てていないため推測しかできないが……俺の攻撃が直撃しても、持ち得る魔力により対応できると思っているのだろう。


 自身の命を削って、食い止める……死ぬとわかっているからこそ、無茶な魔力を込めることができる。

 正直、救うことはできないのかと俺は思った……その時フレッドの表情が、喜悦のようなものへと変じた。


 闘技大会覇者と、互角に――そういう考えが頭の中にあるのだと直感しつつ、剣戟を重ねる。


 そうして彼の体にはいくつも氷の塊を付着させることに成功する。とはいえその一つ一つは決して動きを鈍らせる程ではない。しかし、俺は剣を打ち合いながらタイミングを図る。氷を生み出し続ける以上魔力を消費し続けている。あまり悠長にこうやって攻防を繰り広げているわけにもいかない――


「おらっ!」


 フレッドが反撃に転じる。その剣はあっさりと『時雨』によって防いだのだが、その時フレッドの顔に、少しばかり苛立ちがあるのを感じ取った。

 ここしかない――俺は心の中で確信すると共に、仕掛けた。剣を大振りに放ち、フレッドはそれを受け止める。


 刹那、それまでとは比べ物にならない氷がフレッドへ襲い掛かった。彼は避けようと動いたが、元々くっついて動きを多少ながら制限していたため……氷が彼の胴体と手足を包んだ。先ほどと同じ状況に見えなくもなかったが、元々張り付いていた氷により二重の拘束となり、動きが完全に止まった。


 このタイミングで俺は『暁』を起動させる。旅の途上で発動時間の短縮について特に訓練を重ねた――そして、俺はフレッドへ剣を薙ぐ。

 『暁』を起動させるために時間を稼いだため、剣が当たること自体は半ば賭けだった。これが成功しなかった場合は――思考しつつも全力で剣を振った。その結果、


「っ――!」


 フレッドの左腕が氷から脱し、防御。刃の感触からして、肌には触れていない。しかし、間違いなく『暁』による攻撃は成功した。


「残念だが……」


 フレッドが声を出す。剣戟が効かなかったためだろう。


「効かねえみたいだな!」


 吠え、氷を砕きながら剣を振る。俺は大きく後退し彼と距離を置く。

 そして彼は右腕を軽く回しつつ、小さく息をついた。


「氷による攻撃を重ね、動きを止めたわけだ。あそこまで執拗にされるとは思わなかったから、ちょっと予定外だった。だが、俺の命を賭した魔力に対し、聖剣の攻撃も通用していない――」


 そこまで語った時、彼の言葉が、止まった。


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