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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
遺跡探究編

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遺跡の結界

 床を蹴り俺はフレッドへ斬撃を放つ。全力ではなく、フレッドの出方次第で回避に転じることのできる余裕はとってある。

 彼はそれを読み取ったか定かではないが……笑いながら後退し剣を避けた。動きは中々に俊敏で、俺を警戒させるには十分すぎるもの。


「さあて、どうするかな」


 フレッドは戦いが始まっても呑気に語る――なら余裕を見せる間に一気に決着をつけるべきだと思い、さらに踏み込んだ。

 彼の背後に、出口らしき扉がある。押し切れば彼は横に避けるなどするはずであり、その動きをついて一気に――と思った時、フレッドが言う。


「一つ言っておく」


 言葉の直後、俺は剣戟を放ち彼は横へ移動。すかさず扉へ近づこうとしたが――

 刹那、今度は扉から魔力を感じ取る――罠!?


 理解した直後、扉から突如漆黒の塊が生じ、それが錐のように鋭くなり俺へと注がれる。


「そう簡単に突破はさせないぞ?」

「くっ!」


 呻きつつ右へ回避に転じる。さらに逃げ切れなかった黒に対しては剣で弾く。

 そうして俺は体勢を立て直し――またもフレッドと向かい合う。


「魔法でも使えれば扉を破壊して突破するのは簡単だよ。だが、俺がそんな暇を与えるはずがないだろ?」

「……覚悟の上、というわけか」


 俺の言葉に、フレッドは豪気な笑いを見せる。


「俺がレンと戦うということに関して……と言いたいわけだな? そんなもの、この遺跡に赴いた奴がお前達だと理解した瞬間から、覚悟していたさ」

「……一応訊いておくが、もう魔族の力を手放すことはできないんだな?」

「それを今更聞いてなんになる?」

「いや……一応の確認だよ」


 俺は首を振り――呼吸を整える。まだ迷いがあったと思い、それを振り払い剣を握り締める。


 まさか、こうして正面から一対一で戦うことになるとは思わなかった。だからこそ無意識の内に迷いが生じた……俺は真っ直ぐフレッドを見据え、


「怖いねぇ」


 茶化すような相手からの発言。それに対し、俺は無言で突撃を行った。

 十分な魔力を刀身に加え、左手には自動防御である『時雨』を起動。さらに一瞬で氷の盾を生み出し……フレッドは笑みを消し一転、こちらを視線で殺すような獣の目に変わる。


「来い……!」


 唸るような言葉を聞きながら、剣を叩き込む。直線的な軌跡を描いたその一撃に対し、フレッドは真正面から迎え撃つべく剣で防ぎにかかった。

 聖剣に耐えられるのかと思った直後、部屋に金属音がこだました。フレッドの握る剣はしっかりと俺の剣を受け止める。


「言っておくが、俺は上にいたできそこないとは違うぞ」


 フレッドの言葉は、俺を押し返しながら行われた。


「この力は、何でもできる……それこそ自らの魔力であらゆる物が生み出せる」

「その剣も、一つってわけか……」

「そういうこった」


 とはいえ……人間が魔の力を得たからといって聖剣に耐え切れる物を生み出すとは――にわかに信じがたい。


 疑問に思っていると、フレッドはこちらに視線を送り、


「疑っているみたいだが……現実は見ろよ?」

「確かに……だが、単に魔族の力を得てそうなるとは、とてもじゃないが思えない」

「無理もないな……ま、仕掛けがあると思ってもらえればいいさ」


 仕掛け……剣を構え直しながら考える。魔族の力を得る過程で、何か施されたということか? あるいは、フレッドが持つ魔力が何か特殊なものなのか。

 疑問は尽きなかったが、ここで問答している暇はないと悟り、駆ける。再度の攻撃だったが、フレッドはそれも真正面から受け止め、押し返す。


 こちらも身体強化は行っている。けれどそれでも、彼は俺を押し返す。


「ずいぶん消極的だな……いや、俺のことを得たいが知れないと思い警戒しているのか」


 フレッドは一度肩をすくめた。


「ま、ゆっくり攻めるならご自由に……こっちとしては、計画通りに事が進んでいるからな」

「何……?」


 こちらが聞き返すと、フレッドは斜に構え続ける。


「俺の目的は、お前をここで足止めすること……俺の左右にいた奴らがいただろ? それに加え後方から来ようとしていた面々は、一応主力でね……さすがにロサナを足止めするのは難しいと思ったんだが、それでも孤立させれば時間稼ぎくらいはできると踏んだわけだ」

「それをして、どうするつもりだ……?」

「各個撃破だよ。あの騎士さんやリミナさんくらいなら、どうにかなるだろうと思ってさ。で、彼女達を仕留め……いくらレンでも、俺のような能力者が多人数でかかれば、さすがにつらいだろ?」


 そういうことか……とはいえ、俺としてはにわかに信じられなかった。正直こうした策を用いたとしても、負ける可能性は低いと思う。

 フレッドはノディやリミナならと甘く見ているが……闘技場の戦いを振り返れば、彼女達も現世代の戦士と渡り合える力を持っている。それを理解していないフレッドではないはずだが――


「まだ、疑っているようだな? ま、仕方がないか。あの闘技大会の成長や俺の能力を感覚で判断したのなら、この策が成功する可能性が低いと感じていることだろう」


 フレッドが、俺の疑問点について言及。どうやら理解はしているようだが――


「単純な攻防なら俺達が勝つのは難しいだろう……俺が言っているのはそう難しいものじゃない。もっとシンプルなものだ」

「シンプル……?」

「魔族の力を得て、なお届かないのは確定的。加え、根本的な実力においてもおそらく勝てていないだろう。ならば、どうすればいいか」


 と、フレッドの魔力が濃くなる。


「簡単な話だ……さらに魔族の力を引き出し、圧倒的な力で押し潰せばいい」

「……ここでは魔族の力は制限されるんじゃないのか?」

「あいにく、俺達は特別製でね……ここでの行動に支障がないよう調整が施されている。ま、そんな無茶をしているため、相当俺達は人間を辞めているが」


 聞けば聞く程腹立たしい内容……こちらが沈黙していると、フレッドはなおも続ける。


「元を正せば、この施設は前魔王が生み出したものだ……で、魔王以外の魔族が悪用しないようにこの施設は封印した。さらに言えば、最奥に面倒な仕掛けを設置したことも封印した要因の一つだ。戦争終了直前、撤去も考えたらしいが、前魔王は破壊しなかった」

「前魔王が……?」

「魔王自身が生み出した施設かつ、結界……この二つにより、現魔王ですら入ることはできなかった。けれどこの場所の結界強度が弱まり、人間達は入れるようになってしまうと現魔王は気付き、対策を立てた。そこで考え付いたのが、遺跡に入ることのできる人間を利用することだった」


 嬉々として語るフレッド……俺は黙って聞き続ける。


「魔の力を与え……この遺跡の魔力に干渉しないよう調整を施した。さらにある程度実力も必要であるため、代表して俺が闘技大会に出場し、強さを確認したというわけさ」

「フレッド……お前は……」

「それでよかったのかってことか? まあよくはないよな。利用されたあげく、こんな体にされちまったんだから」


 フレッドはどこかあきらめたように呟くと、さらに魔力を高めた。

 魔族特有のものではあったが……その出力に、俺はとある予感を覚えた。


「お前……まさか……」

「察しが良いな。それとも、肌で理解したってことか?」


 フレッドは面白そうに言うと、今度は深く頷いて見せた。


「そういうこと……ま、ひどく簡単な話だ。まともに戦ってレン達に勝つことはできない。なら――」


 と、彼は俺に対し決定的な言葉を放つ。


「――命を削り、文字通り全てを投げ打って戦う……命という業火の力を、お前にも見せてやるよ」


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