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魔の襲来

 現れたのは翼を生やした狼……とはいえ能力はそれなりといった感じで、ロサナの魔法により事なきを得た。

 だが、後続から次々とモンスターがやってくる……どうやら完全に俺達を標的にしているらしい。


「後方からも来そうな気配だけど、どうする? 一度戻るかい? それともここで戦う? 僕はどっちでもいいけど」


 セシルが剣を構えながら問う。廊下は広いため戦うには申し分ないのだが、逆に言うと広い分だけ敵が一気に押し寄せる形となる。

 入り口付近まで戻ることができれば狭いトンネルの中で戦うことができる以上、モンスター達は数という利が上手く働かなくなる……俺はそうしようかと進言しようとして、


「いえ、戻っても一緒ね」


 ロサナが告げた。


「魔力を探るに、何か仕掛けが発動したみたい。おそらく入口も結界か何かで閉ざされているはず」

「となると、この状況で……?」


 俺の問いかけにロサナは小さく笑う。


「そう恐れる必要はないわ。魔力の多寡を探るに油断しなければ無傷で勝てる相手。加え、数自体は増えていない。おそらくこの空間の中で待機していたモンスターでしょうね」


 語る間に闇の中から次々とモンスターが登場する。見た目ゴーレムのようなものから、蛇や猿などを象ったもの。さらには天使を模した漆黒の存在まで見える。

 確かに魔力を探ればそれほど脅威には感じられないのだが……ここは封印されていた拠点だ。かなり危険な可能性も――


「ここまで来た以上、やるしかないね」


 ノディがどこか陽気に告げる。さらには、


「同感です」


 リミナが槍の刃先をモンスター達へ向け告げた。


「魔王やシュウさんと戦う以上、こうした場面もあるでしょう……予行演習に最適では」

「みんなずいぶんと悠長だな……」

「この場ではレンだけが不安がっているようね」


 ロサナが言及。残るセシルも雰囲気的にリミナ達に賛同している様子だし……ネガティブなのは俺だけか。


「まあ、無理もないけれど……慣れなさい。そもそも魔王との戦いではこのくらい日常茶飯事だったわけだけど、私はきちんと生き残っている。レン君くらいの力量があれば大丈夫よ」


 楽観的すぎるとは思ったが……そこで、セシルの声。


「統一闘技大会覇者がずいぶんと弱気だね」

「……大会とこうした状況では大違いだろ」

「あの戦いの過程で培われた魔力探知能力と、自身の技量が信じられないのかい?」

「そういうわけでもないけど……」

「なら、戦っても問題ないはずだ。それに――」


 セシルはモンスター達を剣で示しながら、言った。


「ルルーナやカインと戦うよりは、楽と思わない?」

「……まあ、確かに」


 俺は答えながら剣を構える。現世代の戦士と相対した経験と比較すればモンスター達が放つプレッシャーなど微々たるものだ。


「……やるか」


 そして小さく呟くとロサナが「その調子」と答え、


「それじゃあ……掃討作戦、開始!」


 号令のもと、俺達は動き出した。






 交戦は一口に言えば……一方的な戦いだった。まあよくよく考えれば俺は魔王すら倒すことのできる技を持ち、なおかつ魔族とも戦えたわけで……生み出されたモンスターに対しては、ほぼ一撃で倒すことができた。


 魔力を探れば、こいつらは雑兵レベルらしい……他の面々も苦戦などせず淡々とモンスターを倒していく様を見ると、なんだか心強くなってくる。


「おそらく、高位魔族やそれに比肩するモンスターは魔界に引き上げたんだと思う」


 目に見える範囲ですべて倒した後、休憩を入れる。その時ロサナが俺へと告げた。


「で、それに漏れたのがこうしたモンスター達……数が多いから不安になるのはわかるけど、こうした戦局は今後あると思うから、覚悟しておくといいわよ」

「……わかりました」


 俺はロサナから受け取ったストレージカードから水筒を取り出し、答える。

 中身を一口飲んだ後、明かりによって見える範囲へと目を向ける。かなり堅牢な城塞であるのは一目でわかるのだが……よくよく見ると外壁部分が損傷していたりもする。


「ああいった損傷は、何が原因なんでしょうか?」


「ここも何度か人間達が攻め込んだみたいだから、それじゃない?」

「けど、失敗したということですか?」

「おそらくね……まあこれだけ大規模な遺跡だから、人間達も捨て置けないと思ったんでしょう。けれどここに住む高位魔族はかなり強力だった、と」


 ロサナは軽く伸びをして、周囲を一瞥。


「フロディア達の推測では、強固な結界を張られていた以上武具が眠っているか、この土地自体に何か機能を置いていたのかという話らしいけど……私は機能の方だと思うわ」

「機能?」

「ここを作った魔族は、何かしら理由があって結界を張ったのだと思うけど……強力な魔法道具なら魔界に持ち帰ればいいだけの話だから」

「つまり、道具の類ではないと?」

「シュウ達が魔族の残した遺跡を探っているのは事実なのだろうけど、ここに眠っているものが道具はどうかはわからないし、この遺跡を訪れるのはそれが理由じゃないかもしれない。ま、結局は調べてみないとわからないわけ」

「遺跡めぐりは、ここで何かをするための準備という可能性もゼロじゃないな」


 声は、セシルからやってきた。


「統一闘技大会に合わせて準備をしたわけだろ? つまり大会が終わった後に動き出しているわけだから……」

「それを探るために私達はここに来ているわけだけど……今の所、シュウ達も魔王も来てはいないみたいね」


 静寂に包まれる中でロサナが述べる。気配もないのでロサナの言う通りだとは思うのだが、


「魔王側なら、裏口くらいはあるかもしれない」

「確かに、ね。さて、休憩はこのくらいにして先へ進みましょうか」


 ロサナの言葉に従い、全員歩き出す。足音が広い廊下を満たし、さらなるモンスターが来てもおかしくないと思う。

 けれど、気配すら現れない。取り囲まれるくらいの数だったとはいえあれで全部だとは思えないのだが……とにかく、警戒だけは必要だろう。


 やがて、俺達は両開きの大きい扉に出くわした。なおも廊下は進んでいるが……ここまでに直角の角を二度曲がっていたので、なんとなく構造は理解できた。


「この廊下は、四角形の線みたいな感じで存在しているんでしょうね」

「たぶんそうじゃない?」


 俺の言動にロサナは同意する。


「入口と反対側の廊下にこの大きな扉があったということは、先へ進むにはここを通る必要があるわけね」


 ロサナは言いながら扉に近寄る。気配は今の所ない。少なくとも開けた瞬間モンスター達が襲い掛かってくる、などという状況にはならなそうだった。

 俺は剣を握り締め扉を注視する中で、ロサナが開け放った。軋むような音が廊下にずいぶんと響き……同時に、室内を彼女の明かりが照らす。


 俺の目には、下へと続く階段が見えた。


「この廊下は、宮廷内で言えばエントランスみたいな場所なのかもね」


 ロサナは語り、先へと進む。セシルがその隣を追随し、俺とノディ、そしてリミナが後に続いて部屋へと入る。


 階段以外、何も存在しない無骨な部屋だった。単なる通路なのだろうと思いつつ俺はロサナ達へ続き階段へと進もうとした。

 その時――後方から扉の閉まる音。気になって振り返ると、閉めたわけではない扉が完全に閉め切られていた。


 ホラー映画みたいな演出だなと思いつつ……俺は、ロサナへ視線を移す。


「ふむ、どうやら一山ありそうね」


 彼女は断定し……一斉に仲間達が武器を構える。


 それと共に部屋の外――扉の向こう側に気配が生まれる。ただ、先ほどのモンスターとは違う。それは明らかに異質であり、


「……なるほど、そういうことか」


 セシルが言う……そして俺も、何が起こったのかを理解した。


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