メンバー選定と、覚悟
夕食時、俺は食べ進めながら旅の結果について報告。それに対しいち早く反応したのはセシル。
「こちらの世界にいた勇者レンと会えたことが一番の収穫かな」
「ああ……ティルデさんのことについては多少ながら予測はしていたけど……残念だと思う」
俺は返答しつつ、自身の見解を示す。
「それと、一つ……ラキが現在のように至った理由だけど……エルザを殺したことより、ティルデさんが亡くなったのが遠因じゃないかなと思う」
「どういうこと?」
問い掛けたのはフィクハ。
「ラキやエルザの様子がおかしくなり始めたのは、おそらくティルデさんが亡くなってからだ……それを考えると、彼らの行動理由が思い浮かぶ……現段階ではあくまで推測でしかないけど」
「まだ結論を出すには早いでしょうね」
さらにフィクハが言うと、俺は深く頷いた。
「ひとまず、経緯はわかったということで納得することにして……フロディアさんからの話に移ろう。二手に分かれて欲しいということだけど」
「今の戦力なら、分かれても大丈夫でしょう」
断定は、ロサナが行った。
「それに、遺跡調査だと大人数で入り込むと逆に身動きがとり辛くなるだろうしね……多くて四、五人くらいがベストだと思うわ」
「なら先に遺跡調査のメンバーを決めてから魔王側のメンバーを決めようか」
俺の提案に全員頷き……次に声を発したのはリュハン。
「一番の問題は、今回の調査でシュウや魔王と戦う見込みがあるかどうかだろうな。フロディアはレンに遺跡へ赴いて欲しい様子だったが……お前がどちらに行けばいいかも、改めて考えるべきではないか?」
「改めて、ですか……南部には今の所魔王がいないことに加え、シュウがそっちを訪れる可能性は現状低いと思うので……あえて言うなら、遺跡の方でしょうか」
「それで私は賛成だ」
グレンが同調。ならばと、俺は選ぶメンバーの基準を提案。
「なら選定の基準だけど……少人数であり、なおかつ魔族との戦いもある……そうした相手に一人でもある程度対応できる人が望ましいかな」
「なら、私はパスね」
答えたのはフィクハ。
「地上ならまだしも、遺跡内部深くとかだと、私の強化魔法が使えなくなる可能性もあるから」
「私も、魔族と直接対決となると不安もあるから、南部調査に回る」
次に発したのはアキ。
「それに、私の能力はどっちかというと支援向きだしね……」
「わかった……それじゃあ二人を除いたメンバーで考えるけど……俺は確定として――」
「私も同行します」
リミナが言う。ドラゴンの力を所持する彼女なら、まあ申し分ないだろう。
「なら、俺とリミナ……個人的には治癒魔法が使えるノディにも同行してもらいたいところだけど」
「いいよ」
あっさりとノディは承諾。となれば残るはセシルとグレン。
「残る二人は……どうする?」
「僕はどちらでも構わないけど……正直、どっちでもあまり変わらない気がする」
「同感だな」
「レン、好みで決めてもいいんじゃないか? 僕らは共に前衛で、どっちを連れていってもあまり変わらないんじゃないかな」
「そうか? なら――」
俺は一度仲間を見回す……そこで、ロサナやリュハンに目を移した。
「……ロサナさんやリュハンさんは今回、同行するんですか?」
「遺跡には私が同行する」
ロサナが手を上げた。それなら……南部調査の面々はフィクハ、アキ、リュハンか……もし必要となる技術があるとすれば、魔族に対し有効な手立てを持つ可能性がある『暁』に近い技法持ちのグレンかもしれない。なら――
「それじゃあセシル、頼む……って、ノディ、嫌な顔しないでくれよ」
そういえば、険悪だったのを忘れていた……変えた方がいいのかと一瞬考えたのだが、そこへロサナが告げる。
「ノディ、同行者と遺跡調査どっちが大事?」
「……遺跡調査」
「なら、文句は言わない」
「まだ何も言ってないけど……」
「まだってことは、今から言うつもりだったんだな」
「何よ」
「何だよ」
「喧嘩はやめてくれよ……」
変更しようかと本気で迷った時、ふとロサナと目が合った。その表情は「このまま」でいいという感じのもので、俺は口を止めざるを得なかった。
結局僅かな沈黙の後俺が述べたメンバーに決定し……夕食を終えた。それぞれ食堂を立ち去る中で、俺はロサナへと近づき、
「あの、ロサナさん」
「何?」
「セシルに同行を願った後の話ですけど……」
「私の表情を見て変更をやめたということよね?」
しっかりと俺の心情を当てられ、こちらは頷くしかない。
「そう深い意味は無いけどね。ただノディの機嫌だけを考えて方針を変更するのも変だと思っただけ」
「それはまあ、そうですけど……」
「それに……ああ見えてセシルとノディはそれなりに組み合わせとして良いと思うし」
「……良い、ですか?」
始終喧嘩しているイメージしかないんだけど……彼女には「喧嘩する程仲がいい」という風に見えているのだろうか。
「あくまで戦闘においては、だけどね……まああの二人の喧嘩腰の態度を解決するには、丁度良い機会とも言える」
そんな悠長な……などと思いつつひとまず決定した事なので俺は首肯し、ロサナは部屋に戻った。残された俺はしばし考え込んだ後……部屋へと歩き出す。
これからの予定としては、明日転移魔法によりアーガスト王国へ入り、そこから遺跡へ向かうことになる……俺としては半年前に訪れた懐かしい場所。まあラウニイやクラリスにも会ってはいるので、懐かしい人に再会、などというのはフェディウス王子くらいなんだけど。
王子達も火山活動によって遺跡が……というのは予想できなかったことだろう。もしかするとそこが戦場になる可能性があるとすれば警戒も大きいはず。俺は明日のことを考え少し気合を入れ直し、部屋へと戻ろうとした。
「レン」
そこに、セシルの声。振り向くと、やや深刻な顔つきで近づく彼の姿。
「……どうした?」
「グレンにも言ったんだけど、任地へ赴く前に言っておこうと思ってさ」
「何を?」
「フレッドのことだよ」
その名前に、俺は眉根を寄せる。
「彼が……どうかしたか?」
「彼を含め、現魔王側が人間に干渉しているのは間違いない。その中で……覚悟は持っていた方がいいと思うんだ」
「彼らと相対した時、か?」
問い掛けに、セシルは小さく頷いた。
言いたいことはわかる。魔族に言いようにされてしまった人間……彼らを打ち倒すことを覚悟に入れておけというわけだ。それはフレッドに対して特に顕著。関わりのある人物と戦うとなれば、剣の動きだって鈍る可能性がある。
そうしたことがないよう、心構えをしておくべきだと彼は言いたいのだ。
「……セシルの言いたいことはわかった。確かにこれから魔王と戦うのであれば、考慮しておくことだろうな」
「南部の調査か、それとも遺跡でなのか……どういう形で魔王と遭遇するかはわからない。けど、そこでフレッドが現れる可能性も否定できない。その時、剣の動きを緩めるようなことだけはしないようにしないといけない」
「ああ……覚悟する」
答えると共にセシルは立ち去った。俺は彼の後姿に視線を送りつつ……息を吐いた。
魔王と関わった以上、フレッドがどのような結末を迎えるのかは……少なくとも、良い結果とはならないと思う。もし可能であれば彼を魔王の手から引き離したいと思う。しかしそれによって俺達が危機に晒されるのであれば……いや、魔王ならばそれを利用してくる可能性は十分あった。
「……確かに、セシルの言う通りだな」
言われるまで確かに考えていなかったこと……そして、何も覚悟が無ければ硬直していたことだろう。それが隙を生み、俺達が負ける可能性もある。
なら、そうならないよう――俺は心の中で静かに決心した後、自室へと歩き出した。