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「……戦力分析、ですか?」
俺の問い掛けに、正面にいるフロディアは小さく頷いた。格好は青いローブに木製の杖……出会った時と同じ物。けれど、その時と違い物々しい雰囲気が見て取れる。
「それが闘技大会自体の目的だろうというのが一つの推測。そして、本当の目的は別にあった」
――俺達は転移魔法によってベルファトラスへと戻り、セシルの屋敷でフロディア達の話を聞いている。仲間達は全て事情を聞いたためここにはいない。
時刻は昼。セシル達は俺達が見聞きしたことを知りたかったようだが、ひとまずフロディアの話を優先した形だ。
「それでレン君に確認だけれど、ラキの目的については判明したかい?」
「いえ……」
首を左右に振り、俺は簡潔に説明。
「わかったのはエルザの母親であるティルデさんが亡くなっていたことと……あと、こちらの世界にいたレンとも会うことができたくらいです。ですが結局、動機などの情報は得られませんでした」
「そうか……けど、こちらの世界のレン君と出会えたことは何よりの収穫だな」
「はい」
頷いた後、フロディアは話を戻した。
「さて、統一闘技大会が終わり、色々と問題も浮上した。どうやら魔王側も動いているようだし、さらに情報収集を重ね……一つの情報を手に入れるに至った」
「情報、ですか」
「ああ……レン君、ロノという人物の名に、聞き覚えはないかい?」
「え……?」
ロノ――確か戦士団を裏切った魔法使い。
「闘技大会中、彼は姿を見せなかった。無論私達は調べていたわけだけど……彼だけは別行動だったというわけさ」
「何か密命を帯びていたと?」
こちらの問い掛けに、フロディアは肩をすくめた。
「密命という程ではないと思うけどね……簡単に言えば、闘技大会でこちらの動きが鈍っている間に、彼は色々と道具を調達していた」
「道具……魔法の、ですよね?」
「そうだ。つまり彼らは、私達の気を逸らしロノに色々と行動させ準備をしていたというわけさ」
と、嘆息するフロディア……顔にはどこか悔いるような雰囲気もあった。
「監視の目は変わっていなかったはずだが……統一闘技大会で騎士などを集結させたのが多少ながら問題となった。おそらく大々的に動けば優勝を阻むためにこちらが注力すると踏んだのだろう。その間にロノが準備を済ませる……敵の狙いは、おそらくこれだ」
「他に何か目立った行動は?」
「今の所ない。だから現状の結論はこれであり……まあ、新情報がでてきたら考えを改めるかもしれないけど」
ひとまず、推測の上の話ということか……けどまあ、シュウ達の行動理由を正確に判断することも無理だろうから、今は敵が準備を済ませたという事実を頭に刻めばいいだろう。
「それで……シュウさん達は準備をして、どうするつもりなのでしょうか?」
今度はリミナが問う。フロディアは彼女と視線を交わし、
「そこだ……実はね、聖剣を奪おうと襲撃して以後、彼らの目撃情報を辿っていくと……どうも、魔族が作った遺跡を色々と回っているらしいことが判明した」
「遺跡……何か、理由が?」
「ラキがアークシェイドの時色々と遺跡を探っていたことからもわかる通り、そこで何かを得ようとしたのかもしれない……そして、それは現在も続いているようだ」
「となると、まだ目的は達成していないということですね?」
「おそらく、そうだ」
リミナの質問に、フロディアは同意。
「そこで、だ……実は、一つ彼らが赴く可能性の高い場所を発見した……該当する国と協議し、色々と準備をしているところだ。レン君達には、その調査に行って欲しい」
「調査ですか」
俺が反芻すると、フロディアは首肯。
「今の所当該の場所でシュウ達の姿は発見できていない……というのも、周囲を魔法使い達が警戒しているからなんだが」
「警戒……?」
物々しい場所なのだろうか……思っていると、フロディアがさらに続けた。
「場所はアーガスト王国などにまたがるガジェルス山脈の一つ……ジェクン山」
「え?」
リミナが目を見開いた。おいおい、ちょっと待て……その名前って――
「闘技大会中に火山活動が活発化し、周辺では小さな地震も起きている。だから主に魔法使い……学者の方々が多いのだが、彼らが山の状況を魔法によって監視している」
俺達が依頼を請けて訪れた場所……その時リミナから聞いた話では噴火までに半年から一年くらいだったはずだが……半年経っている以上、噴火してもおかしくない状況というわけか。
「実は、ジェクン山にも魔族が生み出した地下城塞が存在する……が、彼は魔王が滅ぼされたと知ると土地の魔力と結びつく強固な結界を構築し、侵入できないようにした……はずだったんだが、どうも火山活動が原因でその力が弱まっているらしい」
「シュウさん達は、それに向けて準備をしていたと……?」
統一闘技大会に合わせて準備したとなると……考える間にフロディアは難しい顔をした。
「火山活動によって弱まると知っていたなら……そうかもしれないし、もっと別の要因かもしれない。他にも現在、魔族達が動いている」
「魔族が?」
「現在、大陸南部に集結しているという情報がある……魔王の姿はまだないけれど、中には人の姿もあるらしく――」
「……フレッド」
俺は知り合いの名を呟いた。魔族もまた人間達に害を及ぼしているのは間違いない。二つの敵が、現在動いている――
「統一闘技大会が終わり、魔王が動き出した。シュウ達がどのように行動するかまだわからないけど……動いているのは間違いないだろう……もしシュウ達の目的が魔族の遺跡だとすれば、ジェクン山に存在する遺跡が狙われる可能性がある。場合によってはシュウや魔族達と戦闘がある……だから、君にお願いしたい」
「わかりました……ここのメンバーで?」
「もちろん騎士なども協力する……とはいえ、外部の騎士団がアーガスト王国に入るには、余計な軋轢を生まないよう手続きも必要でね。事前にレン君達には入っておいて欲しいんだ」
「わかりました。では――」
「ただ一つ、頼みたいことが」
と、フロディアは俺に依頼する。
「二手に分かれて欲しい」
「二手……? それは、遺跡調査だけではなく、魔王側の動向も?」
「そういうことだ。魔王側の動きも見なければならない……魔族が集結する場所は、過去先人が築き上げた塔付きの城塞が存在する。現在は南部にあるイグラス王国の管理下にあるのだが……魔族の出現に対し、兵達は無抵抗に引き上げた」
「そこに、一体何が……?」
「大陸侵攻にしては、人間達に攻撃をする様子はない。魔王側にも何か狙いがあるのだとは思うのだが……ともかく、そちらの調査にも人手がいる……シュウ達メインという形ではあるが、さすがにこの状況ではそうも言っていられない。レン君達の面々に協力をお願いしたい」
「……わかりました」
俺は頷く……魔王とシュウ達は敵対している様子なのは間違いないが、だからといって魔族を見過ごすわけにはいかない。
「そういえば……ジュリウスは?」
「情報は手に入っていないようだ。動いているのは魔王側の中でも特に忠誠心の高い者だけらしく、ガードが固いとのことだ」
肩をすくめるフロディア。俺は「わかりました」と答えつつ、彼に改めて承諾した。
「二手に分かれるのは構いません……ただ、人選は――」
「それは君達の都合で構わないよ。話し合いで決めてもらっていい」
「わかりました……解答は、明日でもいいですか?」
「ああ、そうだね。仲間達に旅の報告だってしないといけないだろうし、明日でも」
そこでフロディアは苦笑する。
「すまない、帰ってきて早々だけど」
「いえ、ここが正念場だと思いますから」
「そう言ってもらえると助かる……では、頼んだよ」
その言葉と共に、俺達の会話は終了した。