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彼の現状

「……あんたは」


 声も、顔立ちも一緒……けれど、俺とは違う存在だと心の中で認識できる。


「そっちの予想通りだよ」


 彼が笑みを浮かべながら答えた……彼は――


「本当は……もっと早く会うべきだったんだろうけど」


 苦笑しながら語る……勇者、レン。とうとう、俺は彼と出会うことができたというわけだ。

 改めてその姿を眺めると、彼は俺が通っていた高校の制服を着ていた。それがひどく懐かしく思え、俺はなんとなく質問する。


「学校生活……どうだ?」

「うん? まあ、最初は相当戸惑ったけど、今はどうにかやってるよ」


 さらに苦笑を深めるレン。そこで彼は一度表情を戻し、


「高校に入って、受験の時以上に勉強するようになったとか言われているけど」

「う、そうきたか……とすると、母さん達からの小言もなさそうだな」

「まあね」


 言葉に、レンは笑う……俺もまた表情を崩し、互いの笑い声が白い空間の中で生じた。

 問いたいことはいっぱいある……けどレンと直接会って、とっさに質問が出なかった。それはレンもまた同じなのか、笑みを収めると今度は肩をすくめる。


「こうして君……蓮と話そうと思ったのは、屋敷まで来たからだよ」

「なぜ……今まで顔を出さなかったんだ?」

「環境が激変してそれに四苦八苦していたというのも、もちろんあるよ……けど、それ以上に――」


 口をつぐんだ。言いにくそうな態度であったため、無理には聞かない――と言おうとして、


「怖かったのもあるし、自分の感情が爆発しそうで会えなかった……俺は、蓮に嫉妬していたんだよ」


 そんな言葉が漏れた……嫉妬?


「最初、夢に見た光景は街で色々と歩き回っているところだった。そして遺跡へと入りラキに遭遇した場面。そこからどう動くのか興味が湧いて、俺は君のことを見続けることにした」


 そこまで言うと一度言葉を止めた。次いで、申し訳なさそうな顔で続ける。


「正直、その辺りで顔を出せばよかったのかもしれない……けど、俺は何も言わないまま君のことを見続けた。そこから必死で強くなろうとする蓮を見て……そして、色々なことと遭遇しながらも、君は強くなり続けた」


 目を伏せる。そうした光景を、彼なりに思い出しているのだろう。


「やがて、俺の記憶から技術を引っ張り出し始めた……その時、思ったんだ。俺にとって元の世界に戻ることは……もう、無意味なのではないかって」

「それは……」


 否定しようとした時、彼は小さく首を振る。


「話を戻すよ……その後、蓮はとうとう魔王と比肩しうる存在と戦い、追い払った。そして次に統一闘技大会……俺は、そこに至り夢の中で会うのがとても怖くなった。何を言われるのかわからなかったし、それにもう意味の無いことなんじゃないかと思い始めた」


 そこまで言うと、彼はほのかに笑みを浮かべた。


「そして……俺が成し得なかったラキを倒すという行為……それを見事やってのけ、屋敷に赴いた。だから俺も覚悟を決め、会うことにした」

「覚悟なんて……」

「言いたいことはわかる。そんなもの必要ないってことだろ? けど、俺はどうしても一歩が踏み出せなかった。それに、こちらの世界で過ごしていく内に段々と元の世界のことが薄れ始め……その間にも蓮は、俺が到達できなかった領域へと足を踏み入れ、俺にはできなかったことを成し遂げた」


 レンはそう言って表情を戻す。


「だから、俺は嫉妬していたんだ……その感情を抑えるのにも苦労した。一時、夢を見ることすらやめようと思ったこともあったくらいだ」

「レン……」

「けど、蓮を巻き込んでしまったのは他ならぬ俺自身だから……どんなことを言われようとも、話をする必要はあると思った……この決断は、もっと早くするべきだったんだ。本当に、ごめん」


 顔には、苦悩を見て取ることができた。俺の行動に対し、彼なりの葛藤があったのだと理解できた。


 おそらく、俺が屋敷に来たからこそ踏ん切りがついたのだろう……ラキはこのことを予測していたのかわからないが、それでも読みは当たっていたというわけだ。


「……それでレンは、俺がどういった経緯で魔法を使ったのか、知りたいんだろ?」

「ああ……ちなみに、もう一度入れ替わることはできると思うか?」

「さあね……けど、勇者アキの事例みたいに色々と試してできなかった以上、俺の力でどうにかなるとは思えないな……すまない」


 頭を下げるレン。所作を見て俺は首を小さく振り、


「わかった……俺は、一度もレンのことを恨んだことはないよ」

「……ありがとう」


 礼を述べたレンは、俺と視線を合わせ口を開く。


「経緯を話すよ……まずは、エルザが殺された時からだな」

「ああ。俺は雨の中でラキと対峙した時のことしかわからないんだが」

「それは夢で見たのか……なら、そこから説明する。まずその日、俺はラキとエルザを朝からずっと目にしなかった」


 語るレンの顔はかなり硬い。やはり、思い出したくないことなのかもしれない。


「何かをやっているという雰囲気はあった。朝から見ないのはそのためなのかもしれないと思いつつ、俺は大丈夫だろうと楽観視して屋敷の中で過ごしていた。やがて昼を迎え、黒い雲が雨を降らし……土砂降りになってしばらくした時、変化が起きた……突然、屋敷内に途轍もなく大きな魔力が生じたんだ」

「魔力が……?」

「俺は何が起こったのは咄嗟に理解できず、どうしようか迷った。けれど少しして、地下室からとわかり……自室に戻り剣を手に取って走り出した。そして地下室を訪れ……」


 レンは目を細め、語る。


「……俺の目に飛び込んできたのは、地に伏して動かなくなったエルザ。そして、血塗られた剣を握り倒れるエルザの前に立つ、ラキの姿」


 ――確かにそれなら、ラキがエルザを殺したという考えで間違いないように思える。


「俺はそれを見て、完全に我を忘れラキに攻撃を仕掛けた。けれどあっさりと反撃を受け、吹き飛ばされ……ラキはすぐに地下から抜け出した。俺は追おうと思ったけど、倒れるエルザを確認して……既に事切れていたのを理解し、ラキへと走った」

「そして、あの雨の中の対決となったわけか」


 俺の言葉に、彼は深く頷いた。


「ただ、一つだけ疑問がある……俺とラキの技量は、それまでは互角だったはずなんだ。けれどあの時、ラキは俺を圧倒していた」

「何か、その時あったってことか?」

「おそらく、そうだと思う……これは俺自身にもわからないし、ラキから直接訊くしかない」

「エルザを殺した動機についても……」

「わからない」


 首を左右に振る。これは予想できていたことなので、俺は「わかった」と答えるに留めた。


「……それで、レン」

「ああ、なぜ魔法を使ったか、だろ?」


 問い掛けに俺は頷く。そして彼は――語り出す。なぜ、『星渡り』の魔法を使ったのか。


「まず、俺がなぜこの魔法を知っていたか、とかの経緯はいいか?」

「あの書斎で偶然手に取り、だろ?」

「まあ、ね……俺はティルデさんの影響を受けて書斎にあった本とかを読むことが多かった。そうした経緯から俺は魔法を教わったわけで……『星渡り』も、同じような過程で読んだ結果知った」

「その時は使わなかったのか?」

「書いてある内容がとても信じられるものじゃなかったけど……半分冗談で使用したりもしたが、成功しなかった。読み返してみると、この魔法には条件がいるんだ」

「条件……?」

「ああ」


 頷いた彼の表情は、ひどく重かった。一体、何が――


「条件……『星渡り』を使用するには、一つ条件がいるんだ。それは……この世界から逃れたいという、純粋な感情。それを魔力に転換することで、魔法が発動する」


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