表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
442/596

決勝の相手

 マクロイドの暴虐とも呼べる剣と、ラキの剣戟が同時に放たれる。

 それは間違いなく一瞬の出来事だったはず――けれど俺は無意識に視線を集中させたためか、時の進みが遅くなる。


 双方とも、相手の剣を打ち砕こうとする程の勢いがある。剣を合わせ押し潰すという意図がはっきりとわかり、だからこそどちらかが押し勝てば……決着がつくと俺は思った。


 そして――両者の刃が触れる。僅かな金属音と共に衝突し、双方の体がせめぎ合い、


「……こうなることは、予想していたのか?」


 マクロイドの声を、聞いた。それにラキは無言のまま――押し返す。

 いや、それは押し返すなどといった表現では済まされなかった。マクロイドの剣を弾き、さらに彼の体に斬撃を叩き込む。


 その状況を一瞬で理解できたのは、会場の人間の中にはいないかもしれない……そう考えた瞬間、

 ラキが剣を振り抜き、マクロイドは強制的に後退を余儀なくされた。


 途端、どよめきが生じる。マクロイドの体には傷が走り、出血している。

 一方のラキは剣を振り抜いた体勢のまま固まると、告げた。


「これで、終わりかな?」

「……の、ようだな。ここは闘技大会の会場だからな。解毒してやるよ」


 不本意ながら、といった様子でマクロイドは剣をしまうと右手を軽く振る。それが解毒の合図か――などと思った次の瞬間、ラキを勝利者とする声が響いた。


 瞬間、会場が熱狂に包まれる。大番狂わせなどと思っていることだろうし、ここまで一瞬で決着がつくとは思ってもいなかっただろう。

 俺はあれだけマクロイドが会話をしていたため、戦いが終わった後も何かあるのかと注視していたのだが……耳に入るのは歓声だけで、ラキとマクロイドは無言で控室へと戻っていく。


「これで、決勝はレンとラキだね」


 セシルが言う。俺は小さく頷き、広間にいる一同を見回す。

 誰もが緊張した面持ちを示していた……俺は大丈夫だという風に小さく頷くと、再度闘技場へ視線を移す。


 既にマクロイドとラキの姿はない。なおかつ今日の試合が終わった観客達も、帰るために動き始めている。


「……ここまであっさりと決するとは思わなかったな」


 やがてグレンが語る。それに同意するかのように、リミナが頷く。


「最後の打ち合いですが……ラキはどうもそれまでとは異なる力を使ったように見えました」

「マクロイドさんの言葉を聞いたところによると、魔族の力のようだったけど」


 俺が発言すると、誰もがその内容に納得の表情を浮かべる。


「やはり最後はそこに行き着くというわけか……けど、そうなると厄介だね。ラキはどうやらマクロイドの全力に対抗できるくらいの力を、魔族の魔力によって得ていることになる」


 セシルが語る。俺はそれに頷き、


「けど、その辺りの対策を今更やることはできないし」

「わかっているよ。ともかくそういう技法が使えるということはわかった。レンはそれを肝に銘じておけばいいんじゃないかな」


 彼が語った瞬間――ふと、マクロイドはこれを引き出すために戦っていたのかなと思った。けれどそれは、自分が捨て石になるという可能性を考慮していたようにも思え……彼の性格上しっくりこなかったので、結果的にああなったと考える方が良いかもしれない。


 ともあれ、決勝の相手は決まった……今からやれることなんてたかが知れているし、覚悟を決める他ないと思った。


「しかし、こんな決勝戦を誰が予想しただろうな」


 ふいに、グレンが呟く。それに同意するように、今度はノディが口を開く。


「参加者は賭けに参加できないわけだけど、こんな結果となるのは予想つかなかったし、どちらにせよお金は戻ってこなかっただろうねー」

「ちょっと待てよ。レンが決勝に行く可能性を考慮しなかったのか?」


 セシルが問うと、ノディは肩をすくめ、


「レンが強いのは認めるけど、カインさんやルルーナさん相手では分が悪いかなと思っていたから」

「ま、それは当然だと思うよ」


 俺は深く頷きノディの言葉に同意する。


「優勝を目指していたわけだけど……正直、大会が始まる前決勝の舞台に立てるなんて半信半疑だったから」

「でも、全ての敵を倒しここまできた……しかもレンは、強敵ばかり倒してきたわけだ」

「それは私も含まれる?」


 セシルの意見にアキが問う。すると彼は無論だと言わんばかりに頷いた。


「アキだってエンスを倒したじゃないか。その功績があれば、レンを阻む壁となったのは間違いないよ」

「どうも……ま、私としてはこの大会全体が意外な展開ばかりだと思うけど」

「主に私が、ですか?」


 リミナが問う。それにアキは小さく舌を出した。


「そういう言い方は悪いと思うけど」

「いえ、至極当然の見解だと思いますよ」

「でもそう考えると、二人は相当な成長をしたわけね」


 今度はフィクハが発言。俺とリミナは同時に視線を彼女に注ぐ。


「二人とは、アークシェイド討伐からの付き合いだけど、まさかここまで強くなるとは思わなかったよ」

「皆さんのおかげですよ」


 リミナの謙遜。それに俺も同意するように頷き、


「俺の方はどちらかというと、勇者レンの力を引き出しているだけだし」

「けれどそのポテンシャルを発揮できているのは、今のレン自身が訓練を行ったからだろう」


 今度はリュハン。俺は彼と目を合わせると、


「今のレンが全ての力を結集してアクアに勝ったのは間違いない。そこは胸を張っていいと思うぞ」

「ありがとうございます」

「当然それはリミナも一緒よ」


 そしてまとめだと言わんばかりに、ロサナが語った。


「ドラゴンの力を手にして、ここまで到達したという風に思っているかもしれないけど……まあ、その事実だってあるかもしれないけど、その力を制御し操っているのはリミナの努力だからね」

「はい」

「よって、もう少し自信を持ちなさい」

「……はい」

「さて、そろそろ話もまとまったことだし、帰るとしようか」


 セシルが手を鳴らし俺達に言う。それに一同頷き、俺達は広間を出ることとなった。






 アクアに勝利したためか、昨日よりもさらに観衆からの呼びかけが多かった。

 周囲に他の面々もいたせいか昨日より絡まれることは少なかったのだが……それでも時間が多少掛かって屋敷へと到着する。


「レン、訓練とかはどうするの?」


 門を通りながらセシルが問う。俺はそれにしばし考え、


「いや、今日はやめとくよ。アクアとの戦いで少しはダメージが残っているかもしれないし、休んだ方がいいかも」

「そう、なら何もしないということだね」

「ああ……ゆっくりさせてもらう」


 アクアとの戦いで、勇者レンの技法も全て引き出した。よって俺は、この闘技大会で培った技術全てを結集し、ラキと戦う。

 彼女と戦う前と比較して、それほど緊張はしていない。けれど果たして勝てるのか……と、今まで遭遇してきた圧倒的な実力差から考えてしまう。


 考える間に屋敷へ入る。さすがに二試合だけなのでまだ陽は高く、なおかつ明日は昼に決勝が行われる。

 とりあえず半日くらいはゆっくりできる時間があるということ……まあ、いつもの時間に起床して準備を整えるのが一番なんだろうけど。


 そして――俺は、夢のことを思い出す。技法は思い出したので、ラキと戦う際に必要なものはない。けれど、なんとなくさらなる情報が欲しいと思う。


 明日はラキと向かい合う、最大の好機であるのは間違いない。だからこそ、俺としてはラキから色々訊き出したいところなのだが。


「そう上手く行くか、ということだよな」


 勇者レンの記憶はひどく断片的であり、やはり難しいかもしれない。自発的に問い掛けるにしても……そもそもラキは俺が勇者レンでないことを知らない。まずそこから始めないといけないため、二の足を踏む。


「難題ばかりだけど……これが、一番のチャンスだからな」


 どうにか、彼から情報を――そう思いながら、俺は夕食まで部屋でのんびりすることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ