両者の剣戟
マクロイドの斬撃は、ラキを大きく後退させるくらいには威力が出ていた。
とはいえ、彼の様子から溜めた魔力によって一気に噴出はしていない様子……果たして、どう転ぶのか。
「おらっ!」
続けざまにマクロイドが一撃。ともすればラキを吹き飛ばそうかという気もしたが――
ラキはそれを受け、威力を流しつつ後退する。剣の技量的にマクロイドの力による猛攻も、対応できている。
「さすが、と言っておくか」
マクロイドは言う。その声は、感嘆に満ちていた。
「まともに受けると闘士の上位クラスでも吹っ飛ぶんだが」
「僕がその上位クラスと同等だと?」
――さすがにそれは心外だ。
そんなラキの心の声が、俺の耳に届く。
マクロイドはそんな彼にさらなる斬撃を叩き込む。威力はかなりのものだと容易に想像つくが、ラキの体に届くことは無い。
「僕としては、確かに脅威だけど拍子抜けでもある」
そんな中、ラキがさらに続ける。
「もっと策があると思っていたんだけどね」
「言ったろ? 俺は他の戦士達がやるお前達対策の作戦会議なんぞ出なかったと。お前がどんな技法を持っているか知らないが、俺はただ自分の経験を信じお前を叩き潰すだけだ」
「……その心意気は、すごいと思うんだけどね」
ラキは告げると同時に一転、踏み込んだ。マクロイドは唐突な攻撃に対応できないのか、ラキの動きに対し僅かに遅れ後退する。
「これで――!」
ラキは決まった、などと思ったか斬撃を繰り出す。しかし、
「終わったなんて、言わないよな?」
マクロイドはあっさりと受けた。そればかりでなく、
溜め込んだ魔力を放出したか、一気にラキを押し返す。
「さすがにそれは、お前も見くびり過ぎと言ったところだろ」
「おや、そうか」
ラキは平然と応じるとマクロイドの斬撃に従うように後方に跳んだ。それにより双方の距離が空き、
「なんというか、お互い様というわけだ」
「そういうことだな」
互いに笑う……まるで、好敵手と出会ったよう。会話の雰囲気は敵同士ではなく、旧来の友人とすら思える。
「しかし、お前も存外普通の奴だな。ちょろっと聞いた他の奴らのイメージでは、ずいぶんとおどろおどろしい奴だと思っていたんだが」
「別にそのイメージでもいいと思うけどね。これから僕らがやろうとすることを考えれば」
「少なくとも、この世界に仇名す存在となろうとしているのは、間違いないということだな」
マクロイドが問う。それにラキは肩をすくめた。
「そう、かもしれないね」
「それを認識していながら、突き進もうとする……か。よっぽどお前は、その目的とやらにご執心なわけだ」
そこで、マクロイドは一度言葉を止める。対するラキはどうやらそれを待つ構えであり、
「……あのペンダントも、関係しているのか?」
その問い掛けは――戦士演習の時ラキ達が仕掛けた襲撃の話。あの時カインはラキと交戦し、ペンダントを奪い取った。
それはラキによって奪還されてしまったが……すると、
「そのくらいの情報は、聞いているというわけか」
「反応を見て少しくらいは検証しようと思ってな……しかし、態度からすると」
そこでマクロイドは肩をすくめる。
「目的と、関係があるっぽいな」
「……根拠は?」
「俺だって、少しくらい魔力感知には自信があるんだぞ? お前、一瞬だけ揺らいだじゃねえか」
マクロイドの言葉に――ラキは、小さく笑う。
「やれやれ……隠し事は、できないと」
「肯定するんだな?」
「ま、その辺りは事実だしね……けど」
と、ラキは遠目から見てもわかるように肩をすくめる。
「そこはレンに聞いても、わからないよ。あれの意味を、レンには教えていないから」
「そうかよ……とはいえ、レンにはずっと秘密にしていることなわけか」
――どこか誘導尋問のようになってしまったためか、ラキは途端に口を閉ざした。
「おおう、そんな反応するなよ。俺だって別に意図して質問したわけじゃない」
「……逆にそういう人の方がやりにくいよ」
「そうか……? もう少し話してみるか?」
マクロイドの問い掛け。それにラキは再度肩をすくめ、
「もうやめておくよ。これ以上ボロを出すのはまずそうだし」
「なんだ、つまらない……ま、いいか。それじゃあそろそろ再開しようか」
告げた瞬間、マクロイドが駆ける。同時に魔力を表に出し、斬撃を放つ。
ラキはそれを上手く受け流し……先ほどと同じ流れ。とはいえ、さっきと大きく違う点が一つ。
マクロイドが剣を決めた後、すかさずラキが反撃する……けれどそれは容易にマクロイドも弾き、一進一退の攻防が続けられる。
傍目から見て互角と言って差し支えない試合内容。加え、戦いの結果がまったく予想できない状況であるため……どちらが有利に戦いを進めているのかさえ、俺には皆目見当がつかない。
というか、俺の目から見て二人はまだ様子見だとさえ思えるのだが……考える間にマクロイドが攻撃。すると、
ラキは素早く弾くと反撃。それをマクロイドは避けたが……さらに攻撃が立て続けに行われる。何かきっかけがあったのか……などと思う間に、マクロイドは攻撃をかわし続ける。
けれど――俺の目に、切っ先が顔に触れた気がした。けれどマクロイドは一切変わらぬ動きで攻撃を捌き、
「……少し、油断したかい?」
ラキの声がした。同時に、双方距離を取る。
「手を抜いているわけじゃあ、ないんだがな」
マクロイドは言いながら剣を構え直した……もしや、ラキの技術が上回り、マクロイドを捉えたというのか。
その証拠に、マクロイドの左頬に線が入っていた。あれは間違いなく傷だろう。
「確かに言う通り、少し防御が甘かったな」
「反省するのはよい傾向かもしれないけど……もうそろそろ、本気を出さないとまずいことになるんじゃない?」
ラキが問う。先ほどの攻防は今までと同じように見えたが、二人にしかわからない事実があるということなのだろうか。
「言っておくけど、これで僕の全力だとは思っていないよね?」
「まあ、そうだな……しっかし」
と、マクロイドは不満げに告げた。
「本当は、決勝戦で出すつもりだったんだがな」
「おや、切り札かい?」
「ま、そのようなものだ。言っておくが、今も本気を出していてそれ以外に使える技がないから、というわけじゃないぞ」
「言い訳はいいよ」
ラキが告げるとと同時にマクロイドが動く。またも先ほどのような攻防……と思われたが、マクロイドの動きが、先ほどまでと比べ目に見えて速くなっていた。
「おっと」
ラキも察し、回避に転じる。けれど今度はマクロイドの攻撃の方が上回り――剣が、ラキに到達しそうになった。
しかし、マクロイド同様素早く剣を引き戻して防御した。けれど威力は殺しきれず後退し、
「さあて、どこまで耐えきれるか楽しみだな」
マクロイドは言う……同時にさらなる猛攻が仕掛けられる。
俺の目から見ると、マクロイドは全身に魔力をたぎらせ一気に押し潰すように見える……溜めた魔力を一気に放出するような技だと俺は直感しつつ、それが果たしてラキを倒すまでにもつのか、疑問に思った。
けれど、マクロイドはその選択を取りラキを追い詰めようと動いている……それが功を奏すのかどうか、俺は見守るべく闘技場内の戦いをじっと観察し続けた。