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彼の問い掛け

 先手はマクロイド。彼の剣は豪快の一言に尽きるため、一撃でラキを叩き潰そうという勢いが遠目から見てもはっきりとわかった。

 対するラキは動かない……というより、マクロイドとは正反対と呼べる程に緩やかな動きで、彼の一撃と相対した。


 耳につけたイヤホンから甲高い金属音が入る。それに顔をしかめつつ闘技場を注視すると、マクロイドの一撃をラキがきっちりと受け止める光景があった。


「あなたの剣は、無形だと聞いた」


 その時、ラキが口を開く。


「このベルファトラスで幾多の敵と戦い続け……それにより様々な技法を体の内に取り入れ、相手によって戦法を切り替えるという」

「だからどうした?」


 剣を合わせた状態でマクロイドが問う。


「別に知っているからといってどうにかなるような情報じゃないよな?」

「そうだね……ま、それを知った時よい腕試しになるとは思ったけど」

「余裕みたいだが、どこまでもつか楽しみだな」


 互いが言葉で牽制しあい――マクロイドが勢いよく押し返した。ラキはそれに流されるように後退。なおかつマクロイドが放った追撃を、上手く捌く。

 この段階においても、ラキはまだ基本的な剣術しか使用していないように見える。マクロイドでも彼に対応できないのか、それとも――


「確かにそれだけの魔力制御、そして剣術……お前もレンと同じ英雄アレスの弟子だってことが理解できるな」


 マクロイドは一度距離を置いて告げた。


「だからこそ、解せない……なぜ、こんな真似をする?」

「悪いけど、それは答えられない」


 ラキが決然とした声音で応じる。


「目的を、ペラペラ喋るとでも思っている?」

「いや、そういうわけじゃない……そうだな、それじゃあ質問のやり方を変えようか」


 唐突に会話が始まる……一体、マクロイドは何をするつもりなんだ?


「こうしたことをやっていて、もし英雄アレスが生きていたとしたら、どう思う?」

「げんこつどころでは済まないのは確定だね」


 ラキは即答。どうやら自身の目的が英雄アレスから見て仇名すものであるという自覚は明確にあるようだ。


「しかし、それを成すことが今お前の目的だと」

「そうだね」

「……なぜ、英雄アレスが恨むとわかっていながらその道に進む?」


 問い掛けた直後――ラキは剣を軽く素振りする。


「そうしなければたどり着けない目標があるからだよ」


 またも強い声音……だからこそ、意志は固いと理解できる。


「なるほど、となれば単純に力を手に入れるため、といった目的ではないんだな?」

「そこはノーコメントでお願いするよ」

「そんな風に言われれば、実質答えたも同然じゃないかと思うが……まあいい」


 語るとマクロイドは一度構えを崩した。


「シュウは以前戦った時、お前の目的に対し行動しているという感じで語っていた」

「そうだね」

「それはお前一人ではできないことなのか?」

「まあ、そうだね」


 それには答えるラキ……どうも、直接的な部分に引っ掛からなければ意外と答えてくれる様子。


「しかし、意外だね。まさかそっちが色々と質問をしてくるとは思わなかったよ」

「意外?」

「特にあなたなんて、僕のことなんかどうでもよいって考えていると思っていた」

「そうか? 戦う理由ってのは、結構重要だとは思わないか?」


 マクロイドが問う。顔はおそらく、笑っている。


「俺としては、お前がなんの理由もなく戦っているとは思っていないが……それでも、簡単な理由だとも思っていない」

「色々複雑なものを抱えている、とでも言いたいのかい?」

「ああ……だが別に更生させようなんて馬鹿なことは考えていないぞ?」

「賢明だね」


 ラキが構える。今にも飛び掛かりそうな雰囲気だが、マクロイドは一切応じようとしない。


「まあ落ち着けよ。楽しもうじゃねえか」

「……正直、長話をするような人には見えなかったんだけど」

「そうか? まあ俺も単純な戦いの方が好きだけどな……もう一つだけ、質問いいか?」

「どうぞ」


 ラキは構えを崩さぬまま答える。


「望んだ答えを得られるかどうかはわからないけどね」

「そりゃそうだ……で、だ。もう一つの質問ってのは、他ならぬお前のことだ」


 マクロイドは空いている左手でラキを指差す。


「この闘技大会準決勝で剣を振るまでに、紆余曲折あったとは思うが……お前は、この試合展開に納得しているのか?」

「想定していた可能性としてはあったよ。先に言ったようにレンが決勝に駒を進めると僕は思っていたから……確率も、十分あると思っていた」

「なるほどな……」


 マクロイドが相槌を打つと、ラキが大袈裟にため息をつく音が聞こえた。


「……あなたはどうも、僕の戦う理由を見出したい雰囲気だね」

「まあな」

「でもそれは、レンに直接訊けばいいんじゃない?」


 ――ここで俺は、マクロイドがうっかり俺の現状を話はしないかと不安になった。けれどそれは杞憂であり、


「いや、あいつに直接訊いても答えてくれないだろうし……それに、つまらない」

「つまらない?」

「相手となる人物から直接尋ねて類推するのが面白いんだよ」


 マクロイドの言葉に、再びラキの大きなため息。


「僕の予想以上に悪趣味だね、あなたは」

「そうか? このくらいは噂を聞いていれば知ることもできたんじゃないか?」

「あいにく、そういう性格的なものは調査の対象外でね……ま、今後こういう心理戦的なものも加味して、調べた方がいいのかな」

「こんなものが心理戦とは呼べんだろう」


 マクロイドが断ずると、ラキは一度構えを崩した。


「……一応問うけど、質問はそれで終わりかい?」

「ああ、終わりだ。悪いな、時間を取らせて」

「いいよ、別に……統一闘技大会覇者の面白い一端も見られた」

「そうだな。で――」


 刹那、マクロイドが構える。


「――こっちの準備は整ったな」


 何……? 俺が目を見開きつつ注視した直後、ラキが突如半歩引き下がった。


「……その魔力」

「卑怯、などと思うなよ? そっちだって気配を察知できれば踏み込むことだってできたんだ」


 もしかして、今のは時間稼ぎだったのか? 俺としてはマクロイドがそんな手を用いることに驚き、じっと闘技場を注視する。


「会話していたのに、急に戦闘モードになりましたね」


 リミナが言う。俺はそれに肯定するよう頷きつつ、イヤホンに意識を集中させた。


「驚いた。僕が気付けない程か」

「さすがに舐めてもらっちゃあ困るな。ま、この辺りの訓練はシュウと戦って以後身に着けたわけだ。こういう手法をできた方が、戦いの幅が広がるだろ?」


 マクロイドはラキの言葉に答えると、一歩足を前に出す。


「俺は昔から無形だの型が無限だのやたらすごいみたいに言われてきたんだがな……実際の所、今まで戦ってきた経験を参考にして戦っていただけで、お前やレン、セシルのように良い指導者がいたわけではなかった」


 そこでマクロイドから……広間からでもわかるくらいに、魔力が漏れる。


「だからまあ、俺ができるのは過去色んな奴が使用してきた技のアレンジくらい……ま、混ぜ込んでしまえば俺のオリジナルと言ってもいいかもしれないが」

「そこまで気配を隠しつつ魔力を蓄える技術も、その一つ?」

「そういうことだ……お前とやり合うにはちっとばかり派手さに欠けるかもしれないが、許してくれ」

「……とんでもないね」


 そこでラキの声色が、変わった。


「僕から見たら――今、あなたは最大の脅威だ」


 告げた直後――マクロイドの体が、疾駆した。


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