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技の正体

 俺の斬撃が振り下ろされる――が、間合いはギリギリで、アクアには一歩届かない場所。

 けれど、今回は刃を当てることが目的ではない。俺は振り下ろした瞬間魔力を開放し、刀身から雷撃をアクアへと浴びせる。


 それはおそらく――彼女も予期していたのだろう。すかさず腕をかざすと、その雷撃を腕で受けた。結果、あっさりと弾かれる。

 無論これは想定内であり……俺はさらなる雷撃を放つべく魔力を込める。対するアクアは距離を置きつつも表情は変えない。


 その時、いよいよアクアの背後に壁が近づいてきた。こちらが押していた状況なので、こうなることはわかり切っていたのだが……刹那、

 アクアは突如方向転換する。その動きに一瞬彼女の姿が視界から外れ――すぐさま、俺から見て右に跳んだのを認識し、追撃を行う。


 剣を振り、再度雷撃を放った。けれどアクアはそれを易々と防ぐ。やはり単純な攻防ならば、雷撃を伴っても通用しない……しかし、

 俺は、剣へ収束する魔力の質を変えた。使ったのは『暁』であり――これで決めるとでも言うべく、強く込める。


 それに気付いたアクアは、すぐさま反応し走った。やはり反撃に来る。確実にこの技を潰し、食らわないようにする。


 それこそが、俺の狙っていたことだった。


 アクアの拳が迫る。当然それは『時雨』による自動防御によって防ぐ。拳が盾に入り、またも衝撃が襲う――

 その瞬間、俺は氷の盾に魔力を注いだ。正直間に合うかかなり不安だったが……それは、綺麗に発動した。


 直後、アクアの拳に雷撃が生じる。白光により拳の先端が見えなくなり、アクアも驚愕の表情を見せる。


「っ……!」


 けれどすぐに我に返ったアクアは、拳を引き戻した。そのため俺に対し追撃はできず、

 こちらは再度『暁』を放つべく体勢を整える。


 アクアもすぐさま後方へ移動しようと足を向けるが――俺は両足に魔力を叩き込んだ。

 読まれていたとしても、今のアクアならば通用する――そう心の中で断じ、突き進む。


 問題はカウンターだが……構わず突っ込んだ。彼女の右手はダメージを受けていないようだが、技の余韻が残っているのか少しだけ動きが鈍っている。その状況下ならば、でカウンターを放たれても――


 俺は一気にアクアへ迫り、切り札となる『暁』を放つ。剣の軌道は先ほどと同様上から下。これで通用しなければ二度とチャンスはないかもしれない……そんな風に思った時、


 アクアはまたも受け流す体勢に入る。避けられないと判断し、左手を用い弾きに掛かる。そして――


 剣が、拳によってまたも防がれてしまう……しかし、技法はちゃんと発動している。

 刹那、魔力が炸裂し――アクアは短く呻いた。これは先ほどと変わらぬ光景だったが、今度はさっきとは違う感触が腕に伝わった。


 そして、俺は追撃の横薙ぎを放つ。アクアは動きが大きく鈍り、剣戟が決まりそうになったが……直後足に魔力を加算させ、大きく逃れた。

 魔力……先ほどまでとは異なり、少ない魔力を活用した回避。これは紛れもなく、こちらの『暁』が決まった証だと思った。


「……盾から雷撃が出るとは、ちょっと予想できなかった」


 アクアは言う。その様子だと氷の対策についてはしていたのかもしれないが……どうやら、こちらの目論見は完全に成功したようだった。

 左手はだらりと下げており、目に見えて動かない様子。さすがにこれが演技でないことは、俺にも一目でわかった。


「けど、確実に使えるようになったんだね」

「……正直、戦々恐々だったけど」


 俺は苦笑しながら応じる……練習で何度か成功していた『暁』を、本番二度目でどうにか成功させた……これは非常に大きいと思う。


 ――この『暁』という技だが、平たく言えば「魔力を振動させる」という効果があり、外面ではなく内部の筋肉などにダメージを与える技となっている。


 プロセスを言うと、魔力を意識的に振動させそれが相手に触れる……無論、体に触れなければ意味はないのだが、その振動させた魔力が当たると相手の魔力を共振させ、剣に入れた魔力と同様の振動を相手にもたらす。


 その振動が攻撃的なものであれば、共振した魔力によって内部からダメージを受ける……というのが、『暁』の理屈だ。


 この技は、例え結界越しであっても肌に触れた場合は相手の魔力を振動させるため、こちらの斬撃が通らなくてもダメージを負う。いわば防御無視の攻撃であり、実際アクアも防ぐことができなかった。


 たとえば彼女が剣を持っていたなら話は別かもしれないが……この場合剣に眠る魔力を共振させることによって、武器自体を破壊することもできる。きちんと決まれば確実にダメージを与えられる技。そしてこれは魔力の保有量が多い魔族などに対してかなり有効な技だとリュハンから聞いていた。


「直撃していると、一撃でノックアウトだったかも」


 アクアはどこか余裕を秘めつつ語る。左腕は下がったままだが、大した動揺は見せていない。

 反面、アクアの様子を見た観客は大いに盛り上がる。聖剣を握る勇者がとうとう伝説の相手まで……とでも思っているのかもしれない。


 だが……はっきり言って、目の前の相手にこれで勝ったなどとは思えなかった。むしろ右腕一本で攻撃したとしても、『時雨』を解除したその瞬間に拳が届くだろう。盾で受け流していて今は事なきを得ているが、もし体に当たれば無事では済まない、逆転される可能性は十分にある。


 しかし、今が好機……そう思い仕掛けた。時間が経てば左腕が動くようになるかもしれない。ならば、今攻撃するのが何より勝機がある。

 走り剣戟を見舞うと、アクアはひらりと避ける。氷の魔力を込めてみたが、その瞬間アクアは足に魔力を集め大きく跳び退いた。


 警戒している様子であり……また、時間稼ぎをしている雰囲気でもある。やはり左腕が動くまで避け続けるつもりか。当然、見過ごすわけにはいかない。


 俺はさらに足に力を込め――痛みが生じながらも、走った。アクアはさらに跳び退いたが、今度は相当な魔力を叩き込んだため、魔力の差で一気に間合いを詰める。

 右手には氷の魔法……ここで右腕の動きを止めることができれば――いや、足を狙うべきか。思考しつつまずは横薙ぎを放った。


 それをアクアは身を捻って避ける。氷の魔法を発動しようかと思ったが、俺はぐっと堪え二撃目を放とうと動いた。


 次は足を――そう胸中で呟いた、その瞬間、


 アクアが、動く。こちらが完全な攻撃態勢に入ったとみて、右の拳を放った。


 既に攻撃動作に入っていた俺は、それを目で見ながらどうにか引き下がる。加え『時雨』が発動し、さらにこちらの剣戟はアクアの体を僅かに掠めた。

 刹那、そこから氷が生じるが……彼女は氷漬けになる前に脱した。けれどこちらの盾に拳はしかと入り、


 またも鈍い衝撃――直後、今度は左腕に、


「っ――!?」


 痛みが走った。激痛とまではいかないが、左腕全体が硬直するような、嫌な痛み。


 それを見て取ったかアクアは、体に氷を張りつかせ、なおかつ左腕が動かないままで足を前に出す。間違いなく俺の左腕の状況を把握し、それに追い打ちをかけるための動きだった。


 どうやら、思った以上にダメージを食らっていたらしい……俺は後悔しながら左腕が勝手に『時雨』を発動する。けれど先ほどよりも動きが鈍いと、頭で直感する。


 彼女の技は『暁』の劣化版だが、似たような特性なら物理的に筋肉を動かしにくくさせているのかもしれない――同時、このままではこちらも左腕が使い物にならなくなると思い、


 俺もまた、衝動的に足を前に踏み出した。


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