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一進一退

 足が動いた瞬間、アクアは身構えた。けれど一歩で到達できないはずだと思い、間合いを維持しようと引き下がる。

 二歩目。俺は氷の魔法を収束させた剣をかざしつつ迫ろうとするが、今度はアクアも受ける気が無いか再度下がる。


 そして、三歩――足を踏み出した直後、

 右足へ瞬間的に魔力を込めた――結果、凄まじい靴音と共に、


 俺は跳ぶようにアクアへ接近する。


 足を踏み出した直後は警戒されるが、二歩目三歩目なら――という手だった。安直と言えばそうなのだが、これは俺が瞬間的に魔力を発し動く技術がなければできないこと。アクアの態度を見ればそれができないと思っているのは一目瞭然で、だからこそ裏がかけると思ったのだが――


 刹那、アクアはさらに後退しようとする。けれど、俺は感覚的に間合いが詰まっていると悟る。

 これなら――思うと同時に俺とアクアが双方さらに一歩動き――


 それは、俺の剣の間合いギリギリだった。


 いけると断じた俺はすかさず横薙ぎを繰り出す。同時に魔力を開放し、氷がアクアを襲う。

 動きを止めることができるか――と思いつつ振った剣戟は、まずアクアの右拳によって弾かれた。けれどその腕……肘から先に氷がまとわりつき、破壊もされずに残る。


 本来はアクアを包み込むような氷の魔法だった……けれどアクアは素早い動きでそれを避けた。間合いギリギリだったのが災いしたか、完全に決めることはできなかったようだ。


「やるね」


 その時アクアが言う。俺が瞬間的に足へ魔力開放を行ったことだろうか……本来なら何度も使いたいが、そう乱発できない。踏み込んだ右足が少しばかり痛い。現状に戦闘に支障が出るレベルではないが、立て続けにやるとまずいことになりそうだ。


 俺は痛みを無視するようにさらにアクアへ踏み込む。まだアクアの右腕に氷が張り付いたまま。これに乗じ、一気に決着を――考えつつ、俺は右腕に魔力を集める。


 これは本命の『暁』であり――それを認識したアクアは、さらに距離を置こうとした。さすがに右腕が動かない状況では攻撃する真似はしなかった。しかし俺は追いすがり、


 再度右足に魔力を開放。痛みが走ったが――構わず駆けた。


 それをアクアは見越していたのか至って冷静だったが……どうやら移動に魔力を使わないようにしているのか、先ほど同様距離を詰めることができた。魔力節約のため……というのが理由だろう。

 そして、間合いを詰め――今度こそ剣が入る距離で、薙いだ。斬撃は上からの振りおろし。シンプルだが速度の乗った一撃は、後退するアクアが回避できるか微妙なラインだった。


 身を捻るか、それとも流すか――考える間に剣が近づく。アクアはそこで拳で受け流す方を選択した。これはきっと、身を捻れば追撃による攻撃があると踏んでのことだろう。その考え自体は正解で、俺は攻撃が空ぶったのなら再度氷の魔法を使うべく意識していた。さすがに先ほどのような広範囲とはいかないが、身を捻れば当然距離は縮まるだろうし、さらに体の部位を凍らせることができるかもしれない……と、考えたわけだ。


 けれどアクアには看破され、受け流す方を選択――『暁』はアクアの劣化版と違い、掠めても威力はある程度出る。そのため受け流すという動作でも決まる可能性もゼロではないしかし、


 問題は、俺自身『暁』を成功できるか否か。


 斬撃がアクアに迫る――そして彼女は左腕でその剣を弾き、

 魔力が炸裂した。


「っ!」


 アクアはそれを見て短い声を上げる。俺は弾かれつつもそのまま振り抜き、刃が下を向いたところで止めた。

 次いで、アクアが一歩距離を取る……対する俺は追わない。弾かれたが攻撃が決まったようにも見えたため、性急な動きはせず事の推移を見守る。


 正直、そうした物事も瞬間的判断できるようにならなければならないわけだけど……思いつつアクアを注視。すると、


「……なるほど」


 アクアが呟いた。彼女は左腕を軽く振り、感触を確かめる。さらに右腕の氷もここで氷解した。


 言葉はそれだけであり、通用したかどうかはわからない。当然だが、効いていてもアクアは表に出さないようにするだろう。俺が見極めないといけないわけだが、あいにくそんな技術もまだ体得していない。


 というより、アクアが演技かどうかを見分けるのなんて、他の現世代の戦士でもできるかどうかわからないレベルじゃないだろうか。そう考えると今の俺に判断できないのは自明の理。できれば目に見えて効果が現れるくらいの成果が欲しい所。


 とりあえず今のは失敗だと考えよう……結論付け、俺は剣を構え直す。

 アクアはその所作を見て拳を構えた。警戒を崩さないものであり、なおかつ左腕は平常通り動いて見える。


 ここでまた、俺達は立ち止まった。間合いも逆戻りしており、俺が剣を当てるためには魔力の解放を行わなければならない。とはいえもうこの手は通用しないだろうし……そもそも、右足に痛みが生じる。現在痛みは引いているが、三度目を使用してそれが残らないとも限らない。


 それに……先ほどまでの攻防で俺のやり口はわかっただろうから、魔力開放に合わせ対処してくる可能性だって考えられる。となれば、もうこの手は使わない方が良い……『暁』を当てたこの策は捨て、別のものを検討する。


 どうやら氷の魔法は当てるのも難しい様子……となれば、雷撃か? 確かにあの速度なら攻撃を当てられる可能性はありそうだが……アクアに通用する、もしくは動きを止めるとするならどうすればいいのか。


 雷撃により痺れさせるというのはやはり安直だと考えた方が良いだろう。氷のように物理的に動かせなくなるわけじゃないため、結界によって弾かれてしまうはず。連続で浴びせ、アクアの魔力が尽きるのを待って……いや、目論見を看破された瞬間彼女は結界を維持しつつ突撃を敢行するだろう。その状況では防御に盾しか使えないだろうし、全力で攻撃されたらその盾で防ぐのも難しくなる……盾?


 ふと、俺は視線を変えないまま左腕にある盾を意識した。また別の戦法が思いついた……のは、きっとアクアを倒すために頭も相当回転しているからだろう。伝説的な相手であるからこそ、勇者レンの体もそれに応じるようになっていく……とはいえ問題は、この戦法と思いついた勇者レンの感覚を信じていいのかどうか。


 だがもう先ほどの戦法は使えない……そしてこのまま膠着状態に陥ることは、俺が不利になることを意味する。となれば――


 俺は刀身に魔力を集め始めた。それが『暁』でないためかアクアも動かない。けれど、理解はしただろう。先ほど氷の魔法を使った時とは異なる魔力の流れだと。


「……別の、戦法か」


 アクアも呟く。何かやろうとしていることを把握しているという言動だったのかもしれないが、俺は臆することなく魔力を集める。

 次いで、左腕を見た。先ほどの攻撃が通用したかはわからない。けれどもし、効いているとしたら、今から始まる攻防でわかるだろう。


 俺は一度、深呼吸をした。それを見てアクアは来ると思ったか眼光を僅かに鋭くさせ、待ち構える。どうやら今度も専守防衛らしい――思いつつ、俺は再度駆ける。


 アクアは間合いを維持しようと後方へ。壁がやや近くなっていたが、彼女は構わず後退し、


 俺は、魔力を開放した。


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