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探り合い

 アクアは臨戦態勢――というわけではなかった。むしろ、こちらを窺うような雰囲気。


「どうした?」


 試しに問い掛けてみるが反応は無い。誘っているのか、それとも――

 そこで、俺は試しに刀身に魔力を込めてみた。使用したのは『暁』の技法。


 直後、アクアは跳ぶように迫る。刀身に込めた魔力を判断して――などと思った瞬間『時雨』を発動した。

 結果盾と拳が衝突し、またも左腕に振動。内心まずいなどと思いつつ、俺はどうにか後退する。


 アクアは、再度動かなくなった。既に俺の間合いからは脱している……けれど、先ほどの攻撃を考えるに、俺が侵入できずなおかつアクアならどうにか立ち回れる、という場所に立っているのだろう。


 一歩後退すると、それに合わせアクアも一歩前進。どうやらこちらの出方を窺うように戦うのは確定。ならば――と、思い今度は氷の魔法を放つべく魔力を刀身に集める。

 すると……アクアは無反応。そればかり目を細め、俺を警戒する素振りを見せる。


 ――セシルの時もそうだったが、あからさまだった。今の態度は明らかに氷を使われるとまずいという所作。先ほどの攻防を勘案すればその動きも頷けるものなのだが……果たして、


「どうするの?」


 今度はアクアが問う。やはり誘っていると思ったが、俺には正解を判断しようもない。


 そこで一つ気付く……そうか、氷の魔法を駆使する戦法を使われ続ければ、アクアもあまりよろしくないのではないか。だからこそあえてその戦法を使われるとまずいというのを明確に示し、わざとこちらに疑念を持たせている。


 こう考えれば、継続して氷の魔法を使えばいい……のだが、相手はアクア。例え不利だとしても一発カウンターを決める策くらいは思いついていることだろう。となれば、迂闊に攻めいるのも危険だと思う。


「さて……」


 俺は呟き、改めてどう立ち回るか思案する。現状アクアは専守防衛の構えであり、こちらが仕掛けないことには動かない様子。なぜそうなったのかは一考の余地があるのだが……戦いとは関係ないので、ひとまず置いておく。


 俺としては二つ選択肢がある。まずは先ほどのように氷の魔法によって仕掛けること。露骨な警戒を示すアクアだが、間違いなく反撃の手法は構築しているだろう。誘っているとすれば……セシルの時はそれに見事はまってしまい、傷を負ってしまった。彼との戦いではどうにかなったのだが……アクア相手では多少のダメージも致命的になりかねない。


 二つ目は、氷ではなく『暁』を利用すること。とはいえ刀身に魔力を入れた時点で彼女は動いた……現在の距離は俺が近づけず、なおかつ彼女が接近できる微妙な距離。収束を終えるまで待ってくれるなんてあり得ないだろうから、この案は無茶もいいところ。


 それでも、負傷するなどして窮地に立たされたら、ギャンブルとして選択するしかない手段でもある……ともかく、今はやはり氷の魔法だ。

 ただ、リスクのある手法には間違いない……というか、リスクの無い安全策なんてものもないか。


 頭の中で結論付け、俺は現実的選択として氷の魔法を選ぶ。収束と同時にアクアが再度警戒を示し――俺は、駆けた。


 通用するのかどうか……不安もあったがまずは一撃繰り出す。するとアクアはその斬撃を大きく避けた。さすがにゼロ距離で攻撃が当たれば先ほどのように腕など飲み込まれてしまう。俺が熟慮しか以上何かあるとでも思っているのか、こちらの斬撃をアクアはひらりとかわし続ける。


 ただこうなってしまうと、俺も剣がさらに当たらなくなる……というより、今までだって当たる可能性が低かったのに、それがさらに低くなったというのが実状だ。この戦法をとるのばベターだったのだが、それによってさらに切り札を当てられる可能性が低くなった。


 ならば広範囲攻撃で……などと思うのは浅慮だと気付いている。昨日のリミナとの攻防を思い返せば、はっきり言って付け入る隙はないと思う。あれだけの魔法を跳ね除けた以上、俺の氷が当たるとも思えない。


 となれば――俺は考えつつもさらに剣を薙ぐ。やはり当たらない上、アクアの視線がこちらに刺さり「もう終わり?」とでも問い掛けられている気がした。


「……くっ!」


 焦燥感が生まれ、俺はさらに剣を振る。けれど、やはり当たらない。

 いや、こんな状況ではさらに確率は低くなるだけか……思った俺は立ち止まった。アクアもまた動きを止めこちらを注視。距離は先ほどとまったく同じで、俺が踏み込めない間合い――


 待った……そこが根本的に間違いなのか?


 俺はアクアを睨むように見据えながら、さらに考える。現状のままでは攻撃など決して当たらないだろう。そもそも先ほどかわしていた姿は、魔力をほとんど消費していなかった。彼女ならゼロ距離でなく氷が届くまでに僅かな時間があれば魔力収束を行い防ぐことはできるだろう。そうである以上、この攻防では俺の体力が削られるばかりで意味はない。


 それなら……現状を打開できる可能性があるとすれば。


 俺は足に魔力を込めようとする――アクアは先ほどと間合いを変えていない。つまりそここそ俺が届かない場所だと認識し佇んでいるわけだが……裏を返せば、ここを突けば一気に現状を打破できる可能性はある。

 ただ、こうしたこともアクアは予想しているだろうか……考えつつも他に名案もなく、実行しようとした。けれど、


 彼女がその所作に気付かないはずがない――と思い、魔力を発する寸前でやめた。

 足に魔力が集まっているとわかれば、アクアもそれなりに対策を立てるだろう。具体的に言えばさらに距離をとるか、魔力収束を見て俺へ仕掛けてくるか。どちらにせよ勘付かれれば作戦は失敗に終わるし、もう二度とこの策は使えない。


 なら、アクアにバレないよう立ち回るしかない……けれど、どうやって?


 気付けば、闘技場に静寂が訪れていた。これまでの戦いで対峙して動かないという事態はあったし、観客としては次動いた時が勝負どころだと思うかもしれない。けれど実際は違う。


 まだ俺達は双方、決定打すらない状況と言える……しかしこのまま睨み合いという神経戦を続けても体力を消耗するのはこちら。なおかつアクアは俺に少しずつではあるがダメージを負わせつつある。


 裏をかくことができれば……内心思うが、目の前の相手に対しそれが途方もなく難しいと今更ながら理解する。こちらの挙動は間違いなく見極められてしまうだろう。

 そして……俺に残された手はあまりない。けれど恐れていても負けの道しかない。だからこそ、


 俺は、勝つために攻めなければならない。


 呼吸を行い、頭の中で戦法をシミュレートする。目の前の相手には小手先の目論見など通用しない。なおかつゼロ距離でもなければ氷の魔法さえ当てるのは難しい。そうした考えの中で、俺が取れる選択は――


 考え、可能性のあるものをピックアップし、一つの選択を導き出す。はっきり言って相当リスクの高い手だったし、ぶっつけ本番の技法。けれど、だからこそリターンも大きい。


「決めたようね」


 アクアから声がした。こちらの思考まで悟られている様子だったが……俺は、息をつくと剣を構え直した。

 そして――足を一歩踏み出す。アクアはそれに対し一歩下がる。やはり間合いは変えない。このままを維持するつもりらしい。


 だから――俺は足を動かし、そして腕に魔力収束を始めた。


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