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護衛内容と黒衣の戦士

 気絶した襲撃者達を、兵士達が収容していく。


「城へ送るつもりなんでしょ」


 横にいるクラリスが解説する。確かにここに捨て置くことはできないし、なおかつ屋敷の中で捕まえておくのも人員を割く結果となるので、するべきではない。


「私達はとりあえずここから指示を待つしか――」


 クラリスが続けたところで、足音が聞こえた。振り向くとそこにはラウニイとリミナ。そして、戻って来たらしいエンスの姿があった。


「ひとまず、屋敷は無事のようです」


 エンスはそう告げると、小さく頭を下げた。


「ありがとうございました」

「いえ……仕事なわけですから」


 俺はそう言いつつ、彼に指示を仰ぐ。


「で、俺達はこれからどうすれば?」

「ひとまず屋敷に戻り、改めて仕事内容をお伝えします」

「わかりました……行こう」


 俺の言葉により、エンスを前にして歩き始めた。

 中庭を後にして屋敷へ入り、玄関ホールまで来ると階段を上がる。きっと客室に戻るのだろうと思っていたのだが、エンスは王子のいる部屋へ進路をやった。


「王子を警護する騎士に、一度挨拶を」


 道中、端的にエンスは告げる。俺は黙ったまま従い王子の部屋へ。

 到着すると、エンスがノックし扉を開ける。


「ご苦労様、エンス」

 フェディウス王子の優しい声。俺が部屋に入り、王子と騎士を視界に捉え――


「――来い」


 王子が声を発した。直後、俺から見て左側の本棚――それも屋根に近い場所の本が突如棚から取り出され、真っ直ぐ王子の下へ飛来してきた。

 彼は本を見事にキャッチする。ああ、なるほど。両脇にある本は、魔法によって出し入れするのか。なんだか感心してしまった。


 王子の所作を見た後俺は部屋を見回し、先ほどエンスが立っていた場所に男性の騎士を認める。


「あなたが、王子の命を救った?」

「はい」


 俺の質問に彼は頷いた。どこか格式ばった、朗々とした声。


 その人物は首から下を白銀の鎧で身を包んでいた。机があるため下半身は見えないが、きっと全身鎧なのだろうと推測はできる。髪色と瞳は俺と同じ黒だが、目つきがやや鋭く髪もなんだか立っている――というか、ツンツン頭に近い。


「騎士の、ルファーツです」


 フェディウス王子が名を告げると、彼――ルファーツは頭を下げた。俺も合わせて頭を下げる。


「先ほどの戦いぶりをテラスの上から拝見し、いたく感心しておられました」


 と、さらに王子は言う。けれど俺は首を傾げた。


「感心……ですか?」

「連携が見事に合っていたように思えます」


 ルファーツ自らが答える。連携?

 疑問に思っていると、解説はラウニイからやってきた。


「レン君が私達に援護を指示し後顧の憂いをなくした。さらに連続して襲い掛かって来た敵に対し、レン君とクラリスで上手く倒した」


 ……いや、普通に偶然なんだけど。

 それらの行動に深い意味はなかったのだが、騎士にはどうも「的確な指示」に見えたらしい。


「上から見ている分には、理屈ありきの行動に見えたってところかな?」


 ラウニイが言うと、ルファーツは口の端に笑みを浮かべる。


「あれが意図したものでなかったとしたら、相当仲間を信頼しているわけですね」

「ああ……はあ……まあ」


 俺は生返事で応じた。

 けれどよくよく考えてみると、俺はともかくクラリスは倒される危険性があったかもしれない――彼女の技量が把握できていなかった以上、もう少し気を遣うべきだったかも。


 心の中で考える間に、ルファーツは視線を俺の隣にいるクラリスへ向ける。


「彼女は、従士ですか?」

「え、あの……」

「じゅ、従士は私です!」


 ここぞとばかりにリミナが手を上げる。なんだかすごい必死に見えるのは、気のせいだろうか?


「ああ、そうなのですか。となると、その女性は?」

「……俺の事情は、王子から聞いていますか?」

「え? はい」

「彼女はリミナの友人かつ、記憶を失くした俺の指導をしてくれる教官です」


 解説するとルファーツは「なるほど」と答える。


「制御訓練を継続的に行うために、彼女と二人一組に?」

「はい……護衛をする身なのに申し訳ありませんが」

「構いませんよ」


 にっこりと、フェディウス王子が言った。


「先ほどの戦いを見るに、あなた方は貴重な戦力であると認識できましたし……これで懸念は、黒衣の戦士だけですね」

「……黒衣の戦士?」


 俺が聞き返すと、フェディウス王子は小さく頷き説明を始めた。


「主に夜現れる、全身黒ずくめの戦士です……その人物だけ別格の強さを持ち、ルファーツですら苦戦に追いやる力を所持しています」


 限りない警戒を込め、王子は語る。


「一番気に掛かる点は、その驚異的な防御力です。ルファーツの剣が入っても堪えた様子を一切見せず、あまつさえ反撃に転じる……剣が、効いていないとしか思えない」

「剣が? 魔法か何かでしょうか?」

「おそらくは」


 俺の問いに王子は頷く。その言葉に続いたのは、ルファーツだった。


「結界をその身にまとっていると考えられます。そして、他の襲撃者の中でも抜きんでた実力を持っていることから、襲撃に関するリーダー格と、私達は推測しています」

「つまり、その人物を倒せば事態は好転する?」

「はい」


 ルファーツは同意し、さらに続ける。


「同時に、フェディウス王子と私で敵の目的を探ります……この辺りは今まで人員的な関係で動くことができませんでしたが、あなた方が護衛に回ることにより、どうにかできるでしょう」


 彼は言うと、視線をエンスへ転じた。


「皆様に護衛の説明は?」

「これから行う予定です」

「なら私から話しても?」

「はい」


 エンスの承諾を受けると、ルファーツは俺達に説明を始めた。


「現在、二人一組というペアになってもらっていますが、この内の一組に王子の身辺護衛をお願いしたい……と言っても、主にこの部屋にいる王子に付き添うだけで結構です」


 ルファーツはそこで一度言葉を切り、もう一組について言及する。


「もう片方が屋敷の巡回……こちらは兵士達と協力して頂きます。主にやってもらいたいのは屋敷の、特に中の見回り。王子が話された黒衣の戦士はどこからか忍び込み、潜んでいる可能性があるためです」

「……一つ、よろしいですか?」


 そこでクラリスが手を上げる。


「黒衣の戦士ですが……王子を狙いに入り込むんですよね?」


 質問に対し、フェディウス王子が首を左右に振った。


「そこも、目的は非常に曖昧です。彼はこちらに来ることもあれば、倉庫に入り込んだりと行動がバラバラなのです」

「……目的がバレないよう動いているということでしょうか?」

「おそらくは」


 王子の言葉にクラリスは納得した表情を浮かべ、沈黙した。

 選択は二つに一つ――王子の護衛と屋敷の見回り。俺は意見がないか仲間を一瞥し、ラウニイと目が合った時、


「……レン君の指示に従いましょうか」


 と、丸投げしてきた。


「え、俺ですか?」

「勇者である以上、リーダーやるべきでしょ?」


 いきなりそんなことを言い出す――のだが、まあ一理ある。


「……じゃあ、俺の決めた方針で異存はない?」


 確認する。仲間達は全員頷いた。なので、俺は皆に言った。


「見回りは、俺とクラリスで行う。不都合が出れば交替してもいいだろうし……ひとまずはそれでいくことにしよう」


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