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やるべき事

 勝ち目のない戦――そんな風にコレイズは思ったかもしれない。唯一のアドバンテージだと考えられていた剣の技術も、ラキの方が上。


 となれば、他に手は……思案しているとコレイズが動く。


 ラキの言動に流されず、彼を倒すべく進み出たといったところだろうか。けれど放たれた斬撃は空しく弾かれ、反撃される。その軌道は恐ろしいほど正確で、コレイズが体を傾けて避けていなければ、鎧を大きく砕いていたかもしれない。


 なおも立て続けに振られる斬撃。コレイズはさらに避けるがここに来てラキの動きが鋭くなる。彼はまだ、本気を出していなかったということか――

 さらに加えられた攻撃によって、ラキの剣戟はまたも鎧に到達する。けれど斬られる直前でコレイズは小手によって弾き事なきを得るが……攻撃をまともに受けるのも時間の問題という段階になってきた。


「さて、どうする?」


 どこか楽しげに……ラキはコレイズへ問い掛ける。もし奥の手があるのならさっさと使った方が良いとでも言いたげであり……実際、そうでもしなければ追い詰められてしまうだろう。


 ラキとしても、そうした能力を見たいのかもしれない――刹那、


 コレイズが動く。大振りの一撃だったが速度は相当なもので、ラキに攻撃させる余裕を与えることなく一閃する。


「――っと!」


 ラキは即座に防御に転じ、剣を受けた。すると威力が思いの他大きかったのか、大きく後退。


「単なる魔力強化?」


 ラキは問いながら動こうとした……矢先、コレイズは間合いを詰め二撃目を放つ。

 それもラキはあっさりと――しかし、反動が先ほど以上に大きかったのか、ラキの後退する距離がさっきよりも伸びた。


「……ほう」


 途端、ラキは呟いた。何かを察した様子か……それとも、威力に驚いたのか。

 コレイズは構わず次の攻撃を行う。速度がそれまでと変わらないもので、ラキはそれをまたも受けたが、


 今度は大きく跳ね飛ばされた。とはいえ転倒するようなことにはならず、大きく退き体勢を整える。


「攻撃を仕掛ける度に周囲の魔力を僅かながら取り込み強化していく、という感じの技法かな?」


 ラキが問う。それにコレイズの動きがピタリと止まった。


「図星みたいだね。それが、あなたの切り札か」


 ラキは淡々と述べると剣の切っ先を下に向け、ほぼ自然体となる。


「今まで使わなかったのは、利用しなくても倒せると思ったのか、それとも本当に隠しておきたかったのか……ま、訊きはしないけど」


 ラキはそこまで言うと、一度剣を軽く素振りした。


「それで勝てるというのは……少し、甘いんじゃない?」


 コレイズが突撃を開始する。ラキが剣を構え直した瞬間双方の剣が激突し……ラキは、動かなかった。


「別にあなたが弱いわけじゃない」


 半ば勝ちを確信した声で、ラキは語る。


「けど、僕らに対しては単純な剣の技術や、そういう魔力強化だけを磨いても戦えない……ミーシャやエンスはレン達の仲間に倒されたから、僕達を倒すべく編成された騎士や戦士はその辺りがうまく認識できていないのかもしれないけど」


 ラキが攻勢に出る。コレイズは魔力強化によって相対したはずだが……さっきとは異なり、逆に弾き飛ばされた。


「純粋な力勝負に持ち込むのは、基本的に愚策だと言わざるを得ない……ま、次のマクロイドに期待かな」


 淡々と語り続け……ラキが、剣を振る。その斬撃によってコレイズの鎧は破壊され、さらに衣服に到達したか腕などから出血する。

 だが、コレイズは怯まなかった――反撃に転じなおも追いすがる。それは観客から見れば決死の攻撃。そして俺達から見れば――


「攻撃を食らっても、一切ゆるぎないその攻撃……見事だけど」


 けれどラキは涼やかに……きっと笑顔で、コレイズへ語る。


「無謀とも言える勇気は、魔王と戦うその日まで残しておくことをお勧めするよ」


 告げると共に剣を振り――乾いた金属音が鳴り響いた。

 コレイズの握る剣が両断される音。そしてラキは、コレイズの首筋に悠然と剣を突きつけた。


 結果、勝利を告げる解説の声が響く……コレイズであっても、これほどまでに圧倒する程なのか。


「……この戦い、どう見るべきだろうね」


 セシルが告げる。俺は何も答えられず……なおかつ、他の面々も同様なのか沈黙。


「互角に渡り合っていたようには、見えなかったな……ラキはかなり余裕があったんじゃないか?」

「だと、思う」


 俺が同意の言葉を示すとセシルは「やはり」と応じた。


「コレイズ相手でこの結果か……技量もさることながら、コレイズの魔力強化にもきちんと対応できたように感じられた。盤石の戦いと言っていい」

「マクロイドさんは、どう戦うと思う?」


 問い掛けはフィクハから。それにセシルは渋い顔をして、


「あの人は、何も考えていないんじゃないかな」

「……何も?」

「こういう舞台に立ってやることは、ただ目の前の相手を倒すだけだ! とかなんとかいう人だからね。対策らしい対策をすることはないだろうし、もとよりするつもりもないと思う」


 出たとこ勝負ってことか……? それって、こうした結果を見せつけたラキを相手にしてはかなりリスキーだと思うけど。


「マクロイドの方は、まあ仕方ないということにしよう……それでも統一闘技大会の覇者だ。勝てると思おうじゃないか」

「投げやりだな」


 グレンのもっともな指摘。それにセシルは肩をすくめるだけに留めた。

 色々言いたいことはありそうだったが、それを話し始めるときっと長くなるだろう……俺も言及は控えることにして、先ほどの戦いを思い返す。


 仲間を一瞥すると、皆一様に難しい顔をしていた――ラキが戦う可能性のある相手はマクロイドは確定として、俺かアクア……皆は、アクアと戦えば勝算はあると思っているのだろうか。


「……勇者様」


 その時、リミナから呼びかけが。


「勇者様なら、どのように戦いますか?」

「……正直、情報が少なすぎるな。明日の試合を見て……といっても、時間もないか。判断できる材料とにかくない」

「少なくとも戦士コレイズ以上の剣技を有していると、わかったじゃない?」


 ノディが告げる。俺は「それはまあ」と相槌を打ち、


「ラキの剣の腕が彼に見せた部分で底を打っているかどうか……そこで対応も大きく変わる」

「そっか……となると、明日の試合を見ないことには、という感じかな?」

「ああ。というか俺の場合は、アクアとの一戦を準備しないといけないんだけどな」

「次の試合はどうするの?」


 ノディが再度尋ねる。俺はしばし黙考し、


「……セシル、マクロイドさんの相手は?」

「闘士だね。実力はあるけど、マクロイドの相手じゃない」

「そうだな……見るべきものは見たし、ここは方針を変更して少しばかり訓練しておくか」


 際になるとやっぱり不安になる……というか、こんな状況で訓練してもという感じではあるけど、不安を和らげる効果とかがあるなら、精神的にプラスになる。


 と、いうわけで俺は次の試合を見ないまま帰ることにした。他の面々でリミナとセシルについては俺と共に帰ることになり、そのまま闘技場を出る。


 途端、色々な人々に騒がれることとなった……鞘は新たに新調する暇もなかったのでそのままであることに加え、この短時間で聖剣を握る勇者の存在が街に伝わったようで……しかもセシルまでいる有様なので、大変だった。


 というか、アクアと戦ったリミナもいるしこうなるのは必然……広間で普段人がいない状況だったため失念していた。それを少しばかり後悔しつつ、俺は苦労しつつセシルの屋敷へと戻った。


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