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反撃開始

 リミナが槍を一閃するとアクアは後方に引き下がる。明確な回避行動であったため観客は驚き、声が上がる。


「魔力の入れ方を変えたみたいね」


 ロサナが言う。どうやらリミナは魔力強化をさらに施し攻撃態勢に入ったらしい。

 それによって、アクアはひたすら回避……なおかつここまでの戦いで魔力をそれなりに消費しているだろう。果たしてどちらが先に尽きるのかということだが……リミナはさして強力な魔法を使っているわけでもないし、やはり彼女有利なのではないかと思う。


 さらなる攻撃にアクアは反撃せずさらに後退。状況に焦っている様子はないのだが、まだ手があるのか単なる虚勢か――


「光よ!」


 イヤホンを通しリミナの声。光弾が真っ直ぐ放たれ、アクアはそれを持ち前の身体能力で回避する。

 魔法はゼロ距離にならない限りは当たらないか……とはいえアクアが逃げに徹すればリミナはどれだけ近づこうにも捉えられないだろう。となれば、必然的に残る手立ては一つしかなく――


 リミナは突如立ち止まり、アクアと距離を置いた状態で槍を構えたまま動かなくなる……けれど、

 アクアは即座に接近した。そしてリミナは反撃に移る間もなく、


 拳が彼女の腹部に入る。


「くっ……!」


 くぐもった破裂音がイヤホンを通して耳に入る……リミナは魔力を体の内から発し広範囲系の魔法でも使う気でいたのだろう。けれどそれを察知したアクアが攻撃に出て、妨げたという形だろうか。


 やはり身体能力的なスペックはアクアが圧倒的であるため、リミナが取ることのできる選択肢はそれほど多くない。現状のように槍による単純な攻防か、溜めも必要としない程度の無詠唱魔法を使うしかない――


 ただこうなると、必然的に長期戦になる……それはアクアとしても本意ではないはずなのだが……って、これ詰んでるような気がするんだが。アクアに決定打が無い以上、どう足掻いても――


 リミナが体勢を立て直し踏み込んで槍を突くが、アクアはすぐさま回避に転じた。なおかつ光弾といった簡単な魔法も生み出しているのだが……全て回避される。

 少しでも強力な魔力を見せるとアクアが反撃を行う……一進一退の攻防と言ってもよさそうな展開だが、アクアがどんどん不利になっていくのは間違いない。


「ロサナさん、この調子で戦い続ければアクアは魔力が底につくんじゃない?」


 ふいにセシルが問う。それに彼女は同意しつつ、


「かといって無策というわけではないと思うけど……現状、私の目から見てもどう勝つのかわからないわね」


 ロサナから見ても……俺はじっとアクアを観察し――試合前に言っていたことを思い出す。

 ラキに対する切り札……それが一体何なのか。アクアは戦闘中それをずっと維持していると言っていた。けれど普通に戦っているようにしか感じられないのだが、


「このっ――!」


 リミナが声を上げながら槍を振る。どうやら攻撃が当たらないことに対して焦燥感を抱いているようだ。

 焦るなと心の中で思いつつ、俺はじっとアクアを注視する。ヒントらしきものは見当たらない……そこで、一つ思い浮かぶ。


「ロサナさん、アクアさんの魔力制御についてご本人が語っていたんですけど」

「ええ、何?」


 俺達は互いに視線を合わさないまま会話を始める。


「その中で、魔力制御という呼称は違うという感じで話をしていました……ロサナさんは詳しい話を知っていますか?」

「アクアから以前聞いたことがあるから、一応は。けどまあ、これについてはあまり話さないでくれって言われたから、私も言及は控えたのだけど」

「どうしてですか?」

「重大な秘密というわけではないけど、広められて面白いものじゃないということなのではないかしら。別に喋ってもいい内容だとは思うけど……本人がそう語っていたのだから、私も直接的な言及はしないわよ」


 それもそうか……けど。俺が訊きたいのはそこじゃない。


「えっと、それで……試合を見ていればそのヒントがあるという感じでも言っていたのですが」

「……つまり、アクアはレン君にも同じような能力が使えると思ったわけね」

「はい」


 返事をした時、またもリミナの腹部にアクアの拳が入る。槍を避けてからのカウンターだったのだが、やはりリミナには通用せず。そしてアクアは魔力を消費。

 このまま戦いが長引けば、アクアが絶対的に不利となるはず……リミナとしては焦燥が募るだろうけど、現状を維持する方が勝利の可能性は高くなるだろう。しかし――


「最初に言っておくと、アクアは特別何かをしているというわけではないわ」


 ロサナが口を開く。無論、視線は変えない。


「というより、特別何かをしているわけではないという事実こそが……彼女の奥義と呼べるかもしれない」

「……はい?」


 思わずロサナを見て聞き返した時――突如闘技場内から爆音が。慌てて視線を戻すと、自爆覚悟で放ったリミナの魔法が生み出した煙が、闘技場の中央付近に満ちていた。


 それに対しアクアはバックステップを繰り返しながら出現。対するリミナはそんな彼女へ追いすがるように駆け、槍を薙ぐ。

 けれどアクアはあっさりとかわし――そこで、リミナは大きく跳び退いた。アクアはそれに大して追うことはせず、


 両者が止まった。それなりに距離があり、アクアも一気に間合いを詰めれそうにない。


「……ようやく、といったところですか」


 リミナが言う。一体――


「まあ、さすがに私も全ての魔法を攻撃だけで防げるとは考えていなかったけれど」


 アクアがそれに切り返す――同時、

 リミナの握る槍の先端が発光する。無詠唱魔法であり、明らかに先ほどの魔法とは違う。


「あれだけ攻撃を受けながら、密かに魔力を溜めていたようね」


 ロサナが解説する。なるほど、詠唱などできなくとも少しずつではあるが魔力を内に溜め続けていたというわけか。


「アクアさんが魔法を防ぐ場合、私が外に魔力を発露すると同時に攻撃して相殺するのでは、と試合前から考えてはいました。魔力が少ないにも関わらずそうした能力が高いのは拳を受けていてもわかりましたし、そういう流れになるだろうと予測できていました」

「そうしないとあなたの魔法は防げないからね」


 アクアが説明。それにリミナは頷き、


「ですが、今までの攻防で魔力は相当減ったはずです。いかに魔力制御が優れているとはいえ、元々少ない以上、この魔法を受け切ることは難しいはず」


 ……どうやら、これで決めるつもりで魔法を構築していたようだ。


「けれど、私に対し攻撃が当たっていないというのも、また事実よね?」


 魔法を避けて見せると言わんばかりにアクアが言う。しかし、


「だからこそ、ここまで時間が掛かったわけです」


 決然とした物言い――どうやら、広範囲系の魔法らしい。

 風か、それとも炎か――俺が考える間にリミナは一歩踏み出し、


「……これで、終わらせます」


 はっきりと告げ――槍に眠る魔力が解放される。

 それにアクアは――あろうことか突っ込んだ。けれど魔法発動を抑えることはできず、


「喰らえ――風竜!」


 声と共に発動したのは闘技場内を渦巻き始める、風。それはまずリミナを中心にして吹き荒れ、さらにそこから四方八方へと走る。

 ミーシャと時放った魔法と同じようなものだったが――やがて風はいくつか渦を巻き、さらに粉塵などを巻き込み竜巻のように回転。とぐろをまく竜のように形を成しながら縦横無尽に闘技場を駆け巡り始める。


 そして圧倒的な暴風――アクアもとうとう立ち止まり、その中でリミナは風を操作。生み出した風の竜を、一斉にアクアへと差し向けた。


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