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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
最高の闘士編

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辿り着いた結論

 アクアが苦笑を浮かべる姿を想像した時……俺は、彼女の弱点に対し一つの推測に行き着いた。

 それは決して根拠のあるものではなかったのだが、ふいにロサナへ視線を移す。


 彼女も何かを察したか目が合った……そして、


「もしかして、魔力が……?」

「そういうこと。もちろん闘技場の外であれば対策はするから問題ないのだけど」


 言って肩をすくめるロサナ。


「闘技場のルールでは自身の魔力を溜め込んだ武具の持ち込みは禁止している。というのも大量にすぐに使える魔力を持ち込まれたら勝負にならないからね。それができない今のアクアは、相当なハンデを背負っていると言ってもいい」

「……魔力が、少ないということか」


 セシルが答えを告げる。その瞬間他の面々が驚いた表情を見せた。


「そういうことよ……アクアは、常人と比べても保有できる魔力が少ない。けれど彼女は統一闘技大会の覇者となり、なおかつ様々な伝説を残した……その技量がいかなるものか、理解できるでしょう?」


 ――重いハンデを背負いなお優勝したという事実は、魔力以外の他の要素がズバ抜けているということなんだろう。


 視線を試合に戻すと、アクアはなおもリミナを翻弄しつつ攻撃を加えていた。対するリミナは攻撃をあえて受けながらどうにかして槍を当てようとしているのだが、掠りもしない。


 闘技場の戦いだけ見ると徹頭徹尾アクアが圧倒しているのだが……リミナにダメージがない上アクアは魔力を消費続けている以上、戦況はリミナに傾いていると言ってもよいのかもしれない。


「シュウもそのことは知っていたはず。だからこそ、ミーシャが相手をすることにしたのかもしれない。魔族である以上、魔力量も相当大きいだろうし」


 さらにロサナは解説した後、俺の隣まで進み出た。


「長期戦により、魔力を消耗させる……アクアだってその戦法をとられれば対応はすると思うけど、ミーシャは未来予知と組み合わせて仕掛けようとしたわけね。弱点を知っていれば有効な策になり得るでしょうし、実際危なかったと考えてもいい。けれどそれはリミナが対処した」


 続ける間にリミナがまたも吹き飛ぶ。


「そして当のリミナは……当然、アクアに対し技量で及ぶことがないため、見ての通り一方的な展開となる。けど、弱点を知ったこの場にいる面々なら理解できるはずよ。リミナは現在ドラゴンの魔力を利用して結界を張り巡らせている。なおかつアクアは淡い光を出すほどの魔力を込め拳を繰り出し、その攻撃も通用しなかった。もし攻撃が届くとしたら先ほど以上の強力な攻撃だろうけど……どうも、アクアにその余裕もなさそう」


 続ける間にリミナが槍を振る。アクアはそれを回避し反撃するが、やはり効かない。


「魔力を節約するのなら、あえて攻撃しない方が良いのでは?」


 質問が、アキからロサナへ向けられる。


「ロサナさんの説明だけ聞くと、立ち止まって膠着(こうちゃく)状態に陥ってもおかしくないと思うけど」

「ところがそうもいかないのよ。リミナの魔法の威力はかなりのものであり……膠着してしまうと魔力を溜め闘技場を覆うような強力な魔法を使われる可能性がある。かといって純粋な殴打だけでもまずい。その状態だとさっきみたいに自分もろともという攻撃に対処できなくなる」

「どうしてです?」

「さっきの光弾、煙が出たからわからなかったと思うけど……アクアは両腕に魔力を込め、それを盾にして攻撃を回避したはずよ。魔力量が少ないため現状のアクアは全身を覆うような結界の維持も大変というわけで、そうした中腕の魔力まで節約しようとすれば危険というわけ……膠着も節約も無理なら、ひたすら攻撃しかない。これならリミナが結界維持ができなくなるかもしれないし」


 ロサナがそこまで言ったと同時に、アクアがリミナを吹き飛ばした。その勢いはかなりのもので、またも彼女は壁際まで追いやられる。


 やはりダメージはないようだが、背後に壁があることで焦ったか、リミナは素早く槍を構え直し迫るアクアに対応する――ふと、俺はああして攻撃をし続けることで、リミナを冷静にさせず思考させる余裕を与えない意図があるのではと思った。


 あくまで現状は結界によって攻撃を防いでいる状況であり、一度でも緩めれば確実にやられてしまう――そういう推測が今リミナの頭の中には渦巻いていることだろう。それにより結界の維持に魔力を費やすこととなり、アクアの消耗よりも早ければ――そこまで考え、果たしてアクアに望みがあるのか考える。


 アクアが再度拳を放つ。それをリミナはどうにか防いだが、今度は蹴りが腰にヒットした。


「っ……!」


 衝撃が大きかったのか呻く。さらに吹き飛んで壁に打ち付けられたが……やはり通用していないのか、すぐに体勢を立て直した。


 ここに至り、観客も異様な状況にどよめいている。圧倒的なアクアの攻勢の前にリミナはとっくにやられていてもおかしくない。けれどあれだけの猛攻を受け続けながらなおピンピンしているというのは……観客にとっては、理屈に合わないだろう。


 そこで、アクアもまた止まった。リミナは壁を背にした状態で相手を見据え、警戒。

 なんとなく、ここでリミナの心理を読んでみる。先ほどアクアが見せた大技……あれを警戒しているのかもしれない。


 実際は、必殺の一撃を無傷で耐えているのだが……アクアは、他に手があるのだろうか?


「……余裕、とは違いますね」


 やがてリミナが言葉を紡ぐ。ここまでの攻防によって、訝しんだことがあるようだ。


「先ほどの一撃……かなり強力でしたが、私はどうにか防ぎました。奥の手とおっしゃっていましたが、私としてはあれ以上の攻撃を警戒するべきでしょうし、今までそうしていたのですが……」


 刹那、槍先に光が。魔法を発動するつもりかと思った矢先、アクアが疾駆する。

 使わせないようにする気か……直後リミナは光を収め、


「――ふっ!」


 槍を薙ぎ払う。その先端から、アクアを阻むべく風が吹き荒れる。

 けれどアクアはそれをものともせず、一気に踏み込んで槍を拳で打ち払う。リミナはその状態でも槍を振るおうとするが、先にアクアの拳が槍を握る右腕に入った。


 武器を落とさせる気か……けれどリミナは決しては離さず、逆に魔力を底上げしたか腕の動きが速くなる。

 猛然とリミナの斬撃がアクアへ向けられる。だがそれもアクアは槍の先端――おそらく刃の腹部分――を弾いて回避すると、続けざまに拳を振るう。


 その連撃は、遠目からでは知覚できないレベルであり、連打によってリミナの呻く声と、またも壁に叩きつけられる姿。


「……もしや」


 そしてリミナの呟き。その言葉に俺は、彼女もまた気付いたのではという可能性を見出す。

 途端、リミナは再度槍を振るった。アクアはそれを弾くが、今度はドラゴンの魔力により物を言わせ強引に押し留め二撃目を放つ。


 それもまた通用しなかったが……一転攻勢に出たリミナを見て、アクアは大きく引き下がった。


「……一方的に攻撃を続けて、悟られないようにしたつもりだったのだけれど」


 どこか憮然とした声音の彼女。どうやらアクアも、事態に気付いたらしい。

 一方のリミナは槍を体勢を戻した後、アクアを見据え動かなくなる。けれど、


「魔力が……それほど多くないために、私の結界を突破できないというわけですか」


 確信的な言葉が告げられる。アクアは何も答えなかったが、


「判断能力を失わせるための作戦だったのかもしれませんが、ああした攻防が長期化したため、どうにか気付けました」


 言葉と同時に――リミナは走る。この戦いで初めて、彼女主導による明確な反撃だった。


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