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襲撃者との交戦

「戦闘態勢について、説明を致します」


 移動中、俺達は先頭を進むエンスから話を聞く。


「敵襲があった場合、王子の守護は最も信頼における騎士を配置しています。そして迎撃を行うのは主に兵士……ですが、実力的には刺客と互角かそれ以下であるため、捕らえることはできず追い払うのがやっとな状況です」

「兵士の人数は?」


 俺の隣を歩くラウニイが尋ねる。するとエンスは渋い顔をした。


「屋敷に常駐している者で二十人……怪我人を含めれば二十五名です。ほとんどが城からの派遣であり、これ以上の招集は事が露見する恐れがあるため、増援はありません。しかも……」


 と、エンスは一拍置いてからさらに続ける。


「襲撃に際し戦力を注いだ際、そちらが陽動であったというケースがあったため、二十人全てを戦いに振り分けることはできません……確認していませんが、襲撃者と戦闘を行っているのは五名前後のはずで、後は屋敷を警戒しています」

「なるほど、わかりました」


 ラウニイは状況を把握し頷いた。


 会話に一区切りついた時、俺達は階段を下りた。玄関ホールに着くと、エンスは入口とは逆方向へ足を動かす。


「こちらです」


 断じると、廊下を進んでいく。そのまま後を追った結果、俺達は中庭へと到着した。


「……戦っているわね」


 ラウニイは正面を見ながら呟く。そして、俺はすかさず剣を抜いた。


 屋敷は中庭をU字型に囲むように建てられている。俺達が中庭を出たのはU字で言う所の底の部分。南側と言えばいいだろうか。そして北側――唯一建物が無い空間には木々が生い茂り、森となっているようだった。

 俺達の目の前には、木々を背にして屋敷へ押し入ろうとする、目だけ出した覆面の襲撃者三人と、五人の兵士。


「くうっ!」


 一人の兵士が槍で敵の攻撃を防ぐ。兵士達は全員槍を携え牽制するように突き出しているのだが、襲撃者が獲物である長剣を握り、素早い動きで間合いを詰め、兵士を突破しようと動いていた。


「レン様」


 俺が状況を理解した時、エンスから声が掛かる。


「私は屋敷内を見回ります……ご武運を」

「はい」


 答えると、エンスは元来た道を引き返す。


「さて」


 俺は剣を揺らしながら真正面を見据える。さらに無意識に力を込め――思ったより力が出せないことに気付く。道具の効力だろう。


「レン」


 そこで、クラリスの声。


「ぶっつけ本番で申し訳ないけど、アドバイスはするから」

「わかった」

「それでまず、第一に……刀身に魔力をまとうイメージを浮かべて。そうすると剣全体を魔力が包みこんで……なまくらな剣のように刃が鈍る」

「殺さないようにするための処置か?」

「うん。今までのレンでは制御が上手くいかなくて使えなかったけど、今感じられる魔力の度合いなら使える。あまり人を殺したくないし……何より、事情を聞かないといけないだろうから――」


 クラリスがそこまで言った時、襲撃者の一人が兵士を突破した。俺達は即座に体勢を整え、相手を注視する。


「ラウニイさん! 俺達が!」

「ええ。私とリミナさんはもしもの時の援護に回るわ」


 こちらの言葉にラウニイは答え――俺は先ほどクラリスから教えられたことを実行しつつ、相手に駆ける。


 合わせてクラリスも走る。襲撃者との距離が狭まり――その間に、俺は相手の観察にかかる。

 革の鎧を装備した覆面姿の人物――人相はわからないが、肩幅が広く、背が高いことから男性だろう。彼は長剣を右手で握り、向かう俺達に構わず猛然と走る。


 もうすぐ間合いに入る――そう断じた瞬間、相手が横に跳んだ。すり抜ける気か――俺は相手を追う。

 その時、一人の襲撃者が兵士を抜けた。けれど俺は構わず目前にいる相手へ向かって剣を薙ぐ。


「――ちっ」


 相手から、舌打ちが聞こえた。どうやら避けられないと判断したらしく、彼は剣で俺の斬撃を弾いた。

 甲高い金属音が生まれ、襲撃者は一歩後退。本来ならばここで膠着(こうちゃく)状態に(おちい)っても仕方ない場面――しかし、俺は追撃を掛けた。


 襲撃者は一瞬、瞳を驚愕のものに変える。けれどすぐさま持ち直して、攻撃を回避。


 そこへ連撃。相手の目からは苛立ちが生まれ、俺が剣を振り抜いた瞬間、反撃に転じた。

 刃が縦に振り下ろされこちらに迫るが、即座に足を右に動かし回避した。以前モンスターの攻撃をかわしたように、見た目上は紙一重――だが、その剣戟をしかと見切っていた。


 相手の目が険しくなる。ずいぶん表情豊かな相手だと思いながら、剣を放った。右手に集まる魔力がかなり減退し、全力とはいかなかったが――その一撃は、振り下ろして隙の生じた相手に見事ヒットする。


「がっ――」


 苦悶の声。俺の剣は相手の体を縦に薙いだ。結果、鎧に綺麗な筋が生まれる。

 それによりしかとダメージは受けたらしい。相手はそこから声すら発することなく膝から崩れ落ち、倒れた。


「よし……!」


 確実な手応え。魔法の道具により相手を殺さずに対処できた。

 次に視線を巡らせる。もう一人、突破した敵がいたはずだが――


「このっ!」


 掛け声と共に、その人物が剣を横から一閃する。その相手は、クラリス。

 彼女は杖で剣を受け流し、半歩後退。対する襲撃者は踏み込み突きを放つ。しかし、彼女は杖により綺麗に(さば)いた。その動作はとても洗練され、思わず見惚れてしまう。


「……すごい」


 感嘆の声を漏らした。俺とは違い、技術により攻撃をいなし対処している。


 俺であればああ上手くはいかない。実際の所、こっちは勇者レンの身体能力なんかで回避しているだけで、技術的なものはほとんど利用していないのだ。

 単純に斬って避けるだけではいずれ限界が来る――今更ながら、確信する。


 考えている間に、クラリスが反撃。まず杖を相手の頭部目掛け打つ。襲撃者は体を傾け、それを避ける。同時に後退し距離を取ろうとする――そこへ、彼女が横へ杖を放った。

 襲撃者は回避できないと悟ったらしく、剣を杖に向けた。攻撃を受け止め押し切ろうとしたのかもしれない。


 だが、そうはならなかった。襲撃者は弾こうと剣を振り抜いたが、杖が消えていた。


「え?」


 俺まで驚く――見ると、クラリスは杖を手元に引き寄せ刺突の体勢。フェイントだ。

 間髪をいれず彼女は相手の腹部目掛け突き込んだ。直後相手の呻き声が耳に入り、そのまま倒れ伏した。


 そこで目を転じる。残り一人が形勢不利と悟ったか、身を翻し退く姿。


「ひとまず、二人捕獲ね」


 クラリスがこちらを見て告げる。

 俺は先ほどまでの戦いぶりを思い出しつつ、ただ流されるように頷いた。

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