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組み合わせによる問題

 と、いうわけで俺達は客室へ向かう。エンスに案内されたのは、玄関ホールを越えた、フェディウス王子のいた場所とは反対側の位置。


「ねえ、エンスさん」


 廊下を歩く中、ラウニイが口を開く。


「フェディウス王子は、露見することにかなり警戒していたようだけれど、私としては過剰にも思える。何か理由があるの?」

「……王子は、お話されませんでしたが」


 彼女の質問に、エンスは無表情のまま応じる。


「城内で、不穏な動きがある……そうした話が襲撃に際し発生しているのです」

「貴族とか、大臣とかがクーデタを?」

「その可能性は低いと、私は考えております。上層部の方々は今回の件を把握しているので、もし国を混乱させることが目的なら、噂を広めてもおかしくない」

「つまり、内部に敵がいるとしても大臣とか重役の人ではないと」

「そう考えております……ただ、王子の考えるところを全て推し量ることはできません。何か策を考えておられるため、現状維持に努めているのかもしれません」


 エンスはそう告げ、立ち止まった。到着したらしい。


「どうぞ」


 彼は一室のドアノブに手を掛け、開く。俺が先んじて入り中を確認すると、ホテルのような一室が目に入った。

 壁面は白。扉の反対側にはテラスに続く窓と、その間には木製のテーブルとイスが二脚。右方向にベッドが二つ並んでおり、二人部屋なのが認識できる。


「ここと、右隣を部屋をお使いください」


 エンスは入口付近に立ち、俺達の目を見ながらそう話すと――いよいよ本題を切り出す。


「仕事内容については、少々お待ちください。それで、部屋割りの方はいかがしますか」

「……後でお伝えするということでいいですか?」


 俺が確認する。すると、彼は首を左右に振った。


「実質、部屋割りによってペアが決まると言っても過言ではありませんね? その組み合わせによってお伝えする仕事内容が変わる可能性があるので、知っておきたいのです」

「ああ、なるほど」


 俺は答え、ラウニイへ視線を送った。


「で、どういうペアになるかだけど……」

「ふむ」


 彼女は口元に手を当てつつ、俺達を見据える。


「戦力の均等化を図るなら、各々の能力を分析する必要がある……けど、そんな悠長なことも言っていられないし、ここはレン君を基準に考えましょう」

「俺?」


 聞き返すと、ラウニイは黙り何事か思案を始める。それに対し俺は無言となるしかなく、なんとなく周囲に目を向けた。


 エンスはなおも扉の前に立っている。クラリスはラウニイと同じくどうするか考えているようだった。

 そして、リミナと言えば――俺の顔を覗き込むように見ていた。


「……どうした?」


 口を開いてみるが、彼女は即座に目を外し俯いてしまった。そんな仕草を見て、俺は押し黙ってしまう。

 思えば、昨日から様子が変――きっとクラリスが予見した通りなのだと思うのだが、それにしたってずいぶんと塞ぎ込んでいる。口数もめっきり減り……というかリミナ、屋敷に入って一言も発していないんじゃ?


 色々考えフォローを入れるべきだと感じ……特に言葉が浮かんだわけではないが、声を掛けようとした――その時、


「うん、閃いた」


 ラウニイが腕を組みながら声を出した。


「レン君、制御に不安があるでしょ? 屋敷を壊されたらたまらないし、ここは随時指導を受けられるようにするべきだと思うわ」

「……ということは、つまり」

「ええ。クラリスとペアを組んで。戦力的にも、クラリスと組めば均等なんじゃないかと思うし」


 そういう結論になるよな、当然。

 俺は不安になってリミナの表情を確認する。彼女はなおも俯き沈黙を守っている。


「リミナさんはどう考えている?」


 ラウニイは彼女へ話を振る。なんとなく、訊いて大丈夫なのか……と思った瞬間、リミナはゆっくりと顔を上げた。


「……一つ、いいですか?」

「ええ、どうぞ」

「クラリスと組ませるのは、十分に根拠があります……しかし、ペアを組む場合、勇者様としては後衛の私がいる方が心強いのでは……」


 そう言って俺を見る。う、なんだかすがるような目だ。


「後衛、ねえ」


 ラウニイは、リミナの発した言葉を吟味し始める。


「個人的には私も後衛が欲しいんだけど……というか、一応私前衛だけど、戦い方から援護が必須というか」


 本音らしきものが出た……その時、頭に疑問を生じる。


「ん? ちょっと待って……」


 同時に、クラリスへと体を向ける。


「クラリスって後衛じゃないの?」

「私は前衛よ」


 きっぱりと彼女が言う。杖に加えてローブ姿の彼女は、どうひいき目に見ても先頭に立つ人間には見えない。


「ま、こういう姿をしているからわからないかもしれないけど、私は魔法を使う戦士なのよ」


 戦士、という風貌がどこにも感じられない……のだが、きっとそれが彼女の作戦なのだろう。敵を魔法使いだと誤認させるのが目的で、こういう姿をしているのかもしれない。


 俺が頭の中で結論付けた時、リミナがまたも話し出す。


「制御に関して言えば、知識のある私だって教えることは可能ですし……」


 前、クラリスに言ったことを告げるリミナ。俺は半ば無意識にクラリスと顔を見合わせる。どうする、これ――クラリスは苦笑していた。


「……根が、深そうだね」


 クラリスは俺にしか聞こえない声音で言う。


「なんというか、迷子の子供みたいにおいて行かれるのが怖いのかも」

「……さっさと解決しといた方がいいだろうな」


 俺からリミナに、どういう思いなのか伝えたほうがいいだろう――さすがに今ここでというわけにはいかないが。


「一つよろしいですか?」


 そんな中、唐突にエンスが口を開く。俺達の視線が彼に集まる。


「ラウニイ様の能力しか把握していない私の勝手な意見ですが……ラウニイ様の力量や能力を勘案すると、魔法使いの援護は必要でしょう」

「剣戟を受け止める様な真似はできないからね」


 エンスの言葉にラウニイが続く。対するリミナは口をつぐんだ後――少し目つきを鋭くし、なおも声を出そうとして、


「リミナ」


 反射的に俺が呼び止めた。なんというか、このまま放っておくと口論になりそうな気がしたのだ。


「二人の意見に従おう」


 リミナには申し訳なかったが、二人の意見を参考にして――無論、後で説明はしておくとして――はっきりと言う。


「……勇者様」


 リミナは俺に首を向け、どこか悲しそうな瞳を投げかけた――その直後、

 ドォン――という重い音が、部屋の外から聞こえてきた。


「……今のは」

「敵襲です」


 俺の呟きにエンスは断じ、即座に扉を開ける。


「皆様も一緒に!」


 彼が言い放ち――俺達は会話を中断して、勢いよく部屋を飛び出した。

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