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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
魔の戦士と伝説の戦士編
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伝説闘士の真価

 限りない劣勢の中で、グレンはどうにかアクアに対し立ち回る。とはいえ情勢をひっくり返すことはできず、攻勢を続けるアクアに翻弄されるばかり。


 俺も遠目ながら、その動きについていけるかどうか不安になった。一度意識を逸らすとアクアがグレンの背後に立っていたりする。戦闘状態の時集中すれば捉えられるとは思うのだが――


「彼女と戦う可能性を考慮すると……どうにも、勝てる案がないな」


 セシルが述べる。今までにない弱気な発言だが……俺としては、同意見としか言いようがない。

 グレンがアクアの拳を防ぐ。今度は背後に回るようなこともせず、追撃の拳が彼の真正面から放たれる。それは相当な速度を伴い、剣をすり抜け体に当たりそうになったのだが、


 グレンはギリギリ体を捻って避けた……が、それによって生じた隙をアクアは見逃すはずもなく、彼女の拳がグレンの胸当てに、直撃した。


「っ……!」


 短い声。胸当てを通して受けたのならダメージはあまりない……はずなのだが、グレンは後退して距離を取り、その動きが、少しぎこちない気がした。


「そろそろ、終わりのようだな」


 ふいにリュハンが断じる。グレンの動きを見て、何かを悟ったのか――


「レン、今の内に伝えておく……実は、お前やグレンが使おうとしている技については、アクアも習得している」

「え……?」

「より正確に言うと、その弱体化版とでも言うべき技か……彼女の魔力では完全に習得はできなかったが、それに近い技法は持っている。もっとも、二人とは異なり切り札ではなく、相手の動きを鈍らせるという役割しか果たさないのだが――」

「ぶっちゃけ、それで十分よね」


 これはロサナの言葉。その言葉に同意するように、フィクハやノディは頷いた。


「グレンはどうやら、アクアから攻撃を受けて動きが鈍った様子。おそらく次の攻防で決まるのではないかしら」


 解説の後、俺は闘技場へ視線を移す。今までとは一転、両者は立ち止まっていた。


「……さて、これで追い込まれたわよね?」


 アクアが問う。それにグレンは何も答えなかったが……その言葉通りだと思った。

 俺は習得しようとしている『暁』を思い出す……あれの弱体化版だとしても、体に受ければ動きが鈍るとは思った。グレンは胸当てを通してとはいえ直撃した。結果、先ほどの動きから考えても鈍っているのは間違いない。


 となると、先ほどまでどうにか食らいついていたが、それもできなくなるはずで……グレン自身、残る手は俺が考えた捨て身の攻撃しかないだろう。だがそれを成功させる可能性は、鈍った体では――


「……勝負は、決したといえるだろうな」


 グレンが、どこか達観した声音で告げる。するとアクアは、


「けれど、まだあきらめてはいない……そういう顔をしているわね」

「ああ、そうだ……おそらく、万に一度すらないだろう勝機だが」


 グレンは告げ、腰を落とすのが見えた。


「――こんな舞台だ。奇跡に賭けるのも、悪くない」


 刹那、グレンが走る。動きが鈍っているとは思えない速度で――いや、グレンは全身全霊、この一撃に賭けるべく走ったのだろう。

 アクアはそれに――動かず、防御の構えを見せた。まさか、それを真正面から受け対応するということなのか――


 俺が驚愕する中で、グレンの剣が掲げられる。上段からの振りおろしであり、まさしく防御を捨てた最高の一撃。

 その剣が真っ直ぐアクアへ向け放たれ、それを彼女は両腕をクロスさせ、


「――確かに、単純な剣ならば見事な一撃」


 アクアが述べた直後、剣が腕に衝突し、


「けれど、それでも届かなかったわね」


 アクアが厳然と述べ――おそらく、グレンの技が成功しなかったのだと攻撃を食らう前から悟った上、防いだのだと思う。

 そして彼女はグレンの腹部に一撃叩き込む。彼は僅かながら後退し――その一撃には耐え切れなかったのか、片膝をついた。


「……さすがだな」

「あなたも、ね」

「勝負になったとは思えないが……それでも、こうしてあなたと戦えたのだ。よしとするべきか」


 グレンが述べ……闘技場に、アクアを勝利者とする声が響き渡った。






 アクアが退場したと同時に、グレンは自身の足で立ち上がる。担架が用意されようとしていたのだが、彼はそれを拒否して自分の足で退場した。アクアはグレンが立ち上がれる時間を調整して攻撃を行ったのだろう……そこまで計算する以上アクアには十分すぎるほどの余裕があった。


 まさに、圧倒的。


「……リミナ」


 最後の試合が終了し、そこで俺は次アクアと戦うリミナへ声を投げてみた。


「アクアさんに対し、どうやって――」


 そこまで声を出した時、頭を抱える彼女を見た。


「……どうした?」

「いえ……単にアクアさんと戦って勝てる要素が思いつかないだけです」

「……頭抱える程か?」


 問い掛けるとリミナは状態を戻しつつ、大きくため息をついた。


「改めて見ると、やっぱり圧倒的ですね……どうしましょうか」

「というか、あの攻防だけ見れば現世代の戦士の中でも抜きんでているような雰囲気ね」


 今度はアキが口を挟む。そこで俺を含めた全員が彼女へ視線を注いだ。


「カインさんやルルーナさんがこの中にいるメンバーに敗れ……私達は、ある程度彼らに近づいたと言ってもいい。グレンももしかしたら、そうした現世代の面々と戦って勝てたかもしれない技量を有していると私は思うけど……アクアさんの前だと、一切通用しなかった。英雄フロディアと結婚して一度は引退していたとは思えない力で――」

「彼女の場合はとある技能に特化しているから、余計そういう風に見えるのかも」


 ロサナが言う。今度は全員彼女へ注目。


「彼女は、魔力制御が現世代の中でもトップ……いえ、その点だけで言えば、フロディアやナーゲンを上回っていると言ってもいいかもしれない」

「ナーゲンさんより上?」


 疑わしげにセシルが問う。けれどロサナは確信を伴い頷いた。


「ナーゲンに訊いてみればわかるわよ……ま、それは彼女の努力の成果でもあるけど……」


 と、やや言葉を濁す。ん、他に何か理由があるのか?


「……ともかく、その能力に加え闘技場というのが完全に味方していると言ってもいい。アクア自身持てるパフォーマンスの限界を超えて戦える雰囲気すら見せているし、この闘技大会の中でも優勝候補第一位なのは間違いない」

「で、明後日リミナが戦うと」

「……頑張ります」


 俺の指摘にリミナはそう言うに留め、沈黙。そこで今日も終わった事だし、帰ろうかという算段となる。

 提案したのはロサナだったが、俺やセシル。そしてリミナはここに戻って来るであろうグレンを待つことにした。一刻も早く情報を知りたいということからだ。


「それじゃあ」


 ロサナが先んじて部屋を出る。他の面々もそれに続き、残された俺達は見送った後沈黙し、


「……リュハンさんが言っていた、アクアに対抗する技って?」


 セシルが問い掛けた。それに俺は渋い顔をして、


「技を覚えるまでは人に話すなってリュハンさんに言われているんだよな」

「どうして?」

「人に口出しされると、技に余計なイメージを与えかねないからだって」

「そんなことないのに……ま、いいか。ならどう立ち回るかグレンの話を聞いて考えることにするよ」


 と、いうわけで俺達は以後無言でグレンを待つことに。やがて彼が戻ってきて、俺達三人しかいないことに肩をすくめ、


「他の面々は、帰ったか」

「最後の試合だったからね」


 俺が言うと、グレンは「そうか」と呟き、


「そしてここに残ったのは、アクア殿の情報だな?」


 俺達は同時に頷く。それにグレンは歎息した後、話し始めた。


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