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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
魔の戦士と伝説の戦士編
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魔族の約束

 フィクハと俺が控室を訪れると、そこには横を見ながら困惑するアクアと、


「……もう少ししたら帰るつもりだったのだがな」


 肩の傷を塞いだ、ミーシャがいた。その姿を見て、俺は呻く。


「お前……何で……?」

「言ったでしょ。約束を守るって」


 そう言ったフィクハは、嘆息しつつ彼女へ告げる。


「ミーシャは一度約束したことはどんな形であれ、実行するというわけのわからない奴だと思い出したのよ」

「惜しかったな。もう少し遅ければ、地団駄を踏んだ姿を想像できたのに」

「……あんたは」


 肩を怒らせて、フィクハは詰め寄ろうとする――が、ミーシャがそれを押し留めた。


「それ以上近づけば、転移で引き上げることにしよう」

「……手負いである以上、用心するというわけね。けどいいの? あなたの横には私よりずっと強い人がいるけど?」

「彼女が手負いの存在を不意打ちで潰すとは思えん」

「それは信用されているということかしら?」


 アクアが発言。魔族に信頼されてもどうだかなとは思うが……まあ褒め言葉ということで受け流すのが吉か。

 そして、俺は思い出す……フィクハはミーシャに二回戦の時「もし勝ったら一つ質問に答えてもらう」と言っていた。それは両者だけの話だと思っていたのだが……というか、そう解釈するのが当然と言えるのだが、


 当のミーシャは、負けたためここでフィクハが来るのを待っていたわけだ……わざわざ、約束した相手でもないのに待つとは……まあ確かに、フィクハが勝ったらとは言っていなかったわけだが――


「ま、これであんたが言う魔族の血に誓うというのは、絶対だとなんとなく理解できたよ」

「ああ、そうだな」


 ミーシャはフィクハと目を合わせながら答える……余裕のある表情がなんだか不気味で、リミナによって負傷した存在には一切見えない。


「それで、どのような質問をする? 言っておくが一つだけだぞ」


 そしてミーシャは問い掛ける――フィクハとしては、いくらでも浮かぶだろう。シュウはなぜ世界に反逆したのか。ミーシャはどういった目的でシュウと共にいるのか。

 さすがに目的を話すとは思えないのだが……質問内容は一つ。それを答え終わった後ミーシャは問答無用で立ち去るだろう。だからこそ、その内容は慎重に吟味しなければならない――


「……やれやれ。私が勝って質問すれば良かったな」


 やがてフィクハはそう発言……その言葉の真意は……?


「私が訊きたいのは……そうね。どうせあんた達のことだから、ベルファトラスで起きた騒動くらいは知っているんでしょうから、それを踏まえて言わせてもらうわ」


 フィクハが口を開く――その言葉で何を質問したいのか、明確にわかった。


「私が訊きたいのはこれよ……昨日起きた魔族の力に関する騒動。あれに、あんた達が関連しているかどうか」


 その質問に、僅かながら沈黙が生じた。ミーシャとフィクハは目を合わせ、アクアも興味深そうに口元に手を当て様子を窺う。俺もまた二人の姿を注視して――


「……なるほど、その切り分けができなければ対処も難しいだろうからな。てっきりシュウ様の目的でも訊くのかと思っていたよ」

「それはできないと言われそうな気もするし、ね」

「……ふん、まあいい。それについて言えば、私達は一切関与していないとここに宣言しよう。あれは――」


 と、ミーシャは一拍置いた。


「魔王アルーゼンの仕業だ」

「……そう」


 フィクハは僅かな沈黙を置いて答える。嘘かどうかを審議しているような素振りだったのだが、やがて、


「……本当かどうか疑おうかと思ったけど、この状況であんたが嘘を言うなんて、今までなかったわね」

「そうだな」

「質問は一つということで答えないだろうけど、一応訊いておくよ。ミーシャは、シュウさんが魔の力に侵されたから近づいたの?」


 ――それこそ、彼女が訊きたかった質問なのかもしれない。けれどミーシャは笑みを浮かべ、


「残念だが、その質問は後日だな」


 決然と告げ、足元が光り出した。

 転移魔法……フィクハやアクアは一切動かず……まあ、こんなところで戦闘をするのも、大会の迷惑になる。


「それでは、次はおそらく決戦の時だな」


 言い残し……彼女は消えた。


「……やれやれ」


 苛立ったフィクハの声が、室内に響く。


「厄介事が増えたというのは確定ね……いや、この場合は見えなかった問題点がわかったと言った方がいいのかな」

「その辺りの調査は、ナーゲンさん達に任せるべきだな」


 このことは報告しておくべきだろうと俺は思いつつ言及。フィクハもそれに頷き、


「とりあえず、話はこれで終わり……アクアさん、邪魔してごめんなさい」

「いいわよ、別に」


 にこやかに語るアクアは、俺達を一瞥する。


「二人の活躍は、しかとこの目で見ているわ……特にレン君、あなたと戦うのが楽しみね」

「……セシルが勝つかもしれませんし、アクアさんがグレンに負けるかもしれませんよ?」


 ちょっとばかり冗談っぽく言ってみるが……彼女は綺麗な笑みで応じた。余裕、とは違うような気がする……まるで、今後の展開を予期しているような――


「さて、いつまでも邪魔しちゃ悪いよ。戻ろう」


 フィクハが言い、俺は頷くとアクアに退出する。


「とりあえず、ナーゲンさん達に報告しよう」


 彼女は進路を広間とは別方向にして、俺は無言でフィクハの後を追い続けた。


 広間に戻って来たのは、それからしばらくして。ナーゲンを探すのに多少手間取ったためなのだが、試合が間もなく始まるタイミングでもあったため、丁度良いと思った。


「今日の大一番になるわけだけど……果たして、グレンに勝機はあるのかしらね」


 アキが淡々とした口調で述べる……というか、グレンの勝つ可能性が低いというのは、確定事項なのだろうか。


「問題は、アクアさんの能力に対応できるかですけど……あ、勇者様」


 リミナが部屋に入って来た俺に告げる。こちらは軽く頷き返しつつ、闘技場を見る。

 既に両者は登場しており、アクアがグレンと相対するために歩み寄っているところだった。歓声も大きく、イヤホンをはめると声がダイレクトに聞こえ、熱狂具合がより鮮明になってさすがアクア、と思う。


「勇者様は、この戦いどう思われますか?」


 問い掛けるリミナ。俺は彼女に一瞥した後、広間にいる面々を見回し、


「……この中でグレンが勝つと思っている人」


 意見を求めてみたが……答えは沈黙だった。


「さすがに、分が悪いと思うよ」


 嘆息を交え、背もたれに体を預けるセシルが語る。


「これまでアクアは圧倒的な強さで勝ち上がっているから、観客も基本彼女勝利で考えているんじゃないかな」

「ということは、ここでグレンが勝ったら大番狂わせだと」


 言ってみたはいいが、全員が難しい顔……気持ちはわからなくはないけど。


 俺はなんとなくリュハンへ顔を移してみた。グレンに色々と対策を教えたのはきっと彼だろうし……しかし、

 部屋の端の方にいる彼もまた腕を組み、無言。うーん、あんまりよくないらしい。


「レンはグレンが勝つと思っているのか?」


 セシルが問う。俺はそれに答えようとして、


「……順当にいけば、この戦いはあなたの勝ちだろう」


 グレンの声。俺は口を止め、闘技場を見る。


「その評価はおそらく間違いないだろうな」

「勝つ気でいるとは思えない発言ね」


 少しばかり不服そうにアクアが言う。対するグレンは剣を抜き、


「……ひとまず、善戦するよう努力しよう」


 そう告げた瞬間、両者の戦いが始まった。


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